『「エルサレム」亭の静かな対決』 (文春文庫)読了

http://bookshelf.co.jp/images/9784167275358.jpg変な名前のパブの推理小説シリーズ。
表紙は今回も和田誠、キリスト生誕の夜の絵。
(たぶん)
不義密通の口を割らない子爵夫人を
裁判所が宿六の種or処女懐胎と認定せざるを
得なかった逸話が紹介されてますが、
検索してもこの小説のGoogleBook
しか出て来ない*1ので、
作者の創作かもしれません。
"Virgin Birth"
だから題名のパブはエルサレムイン、
それは理解しました。

そのパブが位置するのは、
合衆国初代大統領の祖先が住んでいた
英国のワシントンという地名*2
周辺。これの意味は分かりませんでした。

アイルランド人とクリスマスの関係についての記述もよく分かりませんでした。
検索すると、アイルランド人もクリスマスをたっとぶ*3ようでしたので…
なんかのジョークなのかな。かなりキモの部分のはずなので、理解出来ない自分が残念。

訳者あとがきによると、作者はもともと詩人ということで、
それは英語版Wikipediaにも書かれていないトピックであります。
今回の訳者の人は以前にも本シリーズを訳してますが、
殿さま」というセリフだけ、前もそうだったか、気になりました。

前にもこのシリーズの読書感想で書きましたが、
アングロファイルアメリカンの描く伝統イングランド風景の皮を矧ぐと、
そこは英国病時代のイギリスであって、本作は一段とそういう描写が目につきます。

頁29
 憔悴、失業、貧困、そして生活保護といったニューカッスルの――そしてタイン・アンド・ウィア地方全体の――現状は、従妹の話を聞くまでもなくジュリーは知っていた。沈滞した、そして、人の心までも沈滞させる町。しかし、エレベーターのないアパートの部屋に(中略)生活補助金を飲み尽して滑ったり転んだりしながら帰ってくるブレンダンの姿を探す。ブレンダンというのは彼女の夫で、目下失業中、ぎょろりとした目をした、ジュリーの知っているただ一人の、ユーモアのセンスのないアイルランド人だ。
 もちろん、今日び、ユーモアなど発揮できる状態ではない。“ジョーク・ショップ”って呼んでるのよ、と従妹は言った。職業紹介所のことである。詳細に仕事の内容を記した小さな求人カードは、魔法にでもかけられたように、失業者が問い合わせたとたんに他に決まってしまっているのだ。先週など、炭鉱の中で働くたった一つの口に千人もの求職者が押しかけた……政府の口約束でたくさんの工場が建ったのよ。政府は二年間、助成金を出す、と言っておいて、そのあとで足の下からじゅうたんを引きぬくの。ブレンダンはその犠牲者なのよ。あの人が悪いんじゃないわ。
 そして、ジュリーはそれを信じた。ほんとうに。問題は、従妹が好きになれないというだけなのだ。

頁84
人がまわりに寄ってきたが、責めるわけにもいかない、とジュリーは思った。玉突きとダーツと失業の日々の単調さを破るものなら何でも歓迎なのだ。警察のほうが職業紹介所よりはまだましなのだろう。彼らがパブに立てこもることに干渉しさえしなければ。ほとんどが慢性アルコール中毒にかかっている、とジュリーはにらんだ。彼らには酒しかなく、失業手当ては酒を買うためのものであった。

以前英国のアルコール依存症治療のサイトを見たら、
アルファ型とかオメガ型とかいろいろアル中を分類していて、
確か初期とか末期とかをαとかΩであらわしていた気がします。記憶だけですけど。

頁272
 ロイ・カレン部長刑事はサンダーランド生まれのサンダーランド育ちだった。その結果として、彼は暴力を好むというのではなかったが、理論的に暴力を否定しなかった。しかし、そういう気質を、彼は上流階級の人々の殺人事件に関与するのでなく、ニューカッスルフットボールの競技場での騒ぎを鎮めることによって発散させていた。カレンの意見によれば、スピニー・アベイに集まっている人々は、ニューカッスルサンダーランド地区の他の住人と同じように失業状態(あるいはイングランド南部でいう“就業不能”の状態)にあると考えてよく、いわば“荷車の後ろからこぼれ落ちるものを拾うようにして”金を(しかもたくさん)得ている、というのである。

貴族や物書きのパーティーに相対する労働者階級警官の描写。

頁274
トリムはルンペンプロレタリアート(通稱“ルンプ”、サンダーランドの下層民とニューカッスルの経済を支えている労働者層。この二つの間には大きな区別はなかった)に対してはカレンよりもこわい警官であった。やりかたはあまり紳士的とはいえなかったが、効き目の速さは抜群だった。この寺院に集まっている人々に対してはもっとデリケートにやらなくてはならない。警官としての礼儀をきちんと守ってやらねばなるまい。
「夜分長くお待たせして申し訳ありません」カレンの言葉は焦げたトーストのような味がした。それはしかたがない。どいつもこいつも“特権階級”という顔をしやがって。

通称、というか、三文字に略す言い方があるとは寡聞にして知りませんでした。
たぶん巷間広まらなかったのではないかと思います。ではでは

「エルサレム」亭の静かな対決 (文春文庫)

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Jerusalem Inn (Richard Jury Mysteries Book 5) (English Edition)

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