『時の誘拐』 (講談社文庫)読了

時の誘拐 (講談社文庫)

時の誘拐 (講談社文庫)

ボーツー先生の『大阪おもい』*1で激賞してた本。
借りてきたら家人がまず一日で読み終えて、次に私が一日で読み終えました。
ミステリーは読みやすいのと、この本の持つ一気に読ませるチカラゆえです。
現代(単行本刊行の1996年当時)と終戦直後のふたつのストーリーが並行する構成で、
ややもすると、ヒキばっかり場面転換ばっかりだな、
と思ってしまう危険があるプロットなのですが、
そういうことは最後まで思わず終わりました。611頁もあるのに、すごいことです。

ボーツー先生も、新刊時にホメたわけではなく、何をホメたかというと、
大阪の地理を詳細に描き切った箇所のはずですが、そこは結構アタマに入りませんでした。
私は御堂筋のナニがどこ方向にいっつうかも知らない人間ですので…
ピッチが発売されて半年しか経っていない時点の記述とかは今読むと貴重ですし、
兎に角セカイのすべての諸悪の根源は官僚、みたいな、
後の民主党誕生を予感させる紋切り型の世界観も、時代だなあ前世紀末だなあ、
と感慨深く読みました。橋本市長は絶対この本読んでると思う。

自治体警察や大阪警視庁について個人的に思ったことをつけ加えるなら、
ヤルタ会談スターリンの権益範囲化が承認されてしまった東欧は、
勿論民主主義体制の多党寄り合い政権下でなし崩し的に赤化が進行したわけですが、
その際に使われた手法が、国家の暴力機関である警察&軍トップポストを先行して掌握し、
その武力による実力行使でほかの国家機関ポスト(大蔵とか通産とか外務とか)を、
ひとつひとつ切り崩していった、という、私が学んだ欧州現代史です。
これを予防するには、自治体単位の警察より、中央集権化がよいように思えます。
(逆かな?)吉田茂がそこまで意識して改革断行したとすれば、面白いと思いました。
極東アジアヤルタ会談でも各勢力の縄張りが明確化されなかった地域ですし、
この小説の言い方を模倣するなら、日本無産党も当初は議会内多数派を目指すのでなく、
直接交番に攻撃を仕掛ける武力闘争を挑んでいたわけですので、
http://blog-imgs-46.fc2.com/a/p/o/apollodreamfactory/blog_import_4d31c9726cdae.jpg
吉田茂が相手が初期戦術を母国からの指示か何かで転換すると読み切っていたなら、
まさに名宰相もしくは迷宰相だと思います。バカヤロー。
無産党の戦術についての私のソースは、コサミョンの奥さんの手記*2

単行本刊行の1996年はまさにバブル崩壊就職氷河期の頃だと思いますが、
(そして派遣法が改正され、ハケンの門戸開放が始まる)
だからというか、二、三度の取引で億単位の日本円の口座移動がバンバン出来てしまう所が、
現代ではありえない(はずだと私は思います)箇所で、
さすが銀行がカネを貸しまくった時代、デベロッパーが百鬼夜行してた時代。

頁18、大阪弁のアクセントの練習、具体的にネイティヴの発音を聞いてみたいです。
箸を持って橋の端を渡る
ヒガシさんが東から干菓子を持ってくる
暑い日に熱い鍋を厚い本の上に置く
どうはっちょんすんにゃろ。以上