ユリイカ2020年5月臨時増刊号「総特集◉坪内祐三 1958-2020」読み散らかし

 今日郵便受けに放り込まれてました。よかった、接触避けれて。

 思ったよりぜんぜんぶ厚かったです。453ページ。諸星大二郎特集とはおおちがい。

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とにかく外出自粛なので、原稿依頼するにも電話インタビューするにも、執筆陣を捕まえやすかったのではないか。どこにも行かないし行けないもの。海外脱出なんか特に。書く方もヒマだからしこしこ書く時間はじゅうぶんにある。それでこんな短時間にこんな立派な本が出来たのではないかと。怪我の功名、否、僥倖です。

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私がボーツー先生を意識したのはわりと遅くて、上記、町田ことばらんどのトキワシンペーちゃん展のキュレーターというか仕掛け人がボーツー先生で、会場に映画「酒中日記」のチラシがあったので観に行って、その後、福田和也はまあ、右派論客として知ってはいるので、それで対談本など、幾つか本を読み出したです。その程度。坪内逍遥の子孫だと思ってた。それでワセダなんだと。

本書のロングインタビュー(生前のもの。イタコの口寄せではない)ではまるで触れてませんが(『ノルゲ』の佐伯一麦がちょっと書いてる)下記文壇アウトローでボーツー先生がマイルストーン創設者(のひとり?)と知り、それは今でもおお、と思っています。

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新歓期に学内サークル案内誌を出し、その売り上げで年数回の文藝同人誌発行費用を賄うというシステム。当時のフロムAみたいなアルバイト情報誌やコミケカタログのように、サークル情報や紹介文、連絡先は基本的にサークルからの投稿文をそのまま使うという形式で、宗教の隠れ蓑もセクトの同上もインチキも体育会系もごったまぜ。読んで連絡するかしないかは新入生の自己責任。知り合いだったひとが、洒落で「スカトロ研究会」という名前で自分の電話番号を載せたら、本気の電話ばかりかかってきたそうです。文藝同人という目的が目的だから、金儲けをすること自体が惡という江戸の風潮の中でも、大義名分が立つ、みたいなボーツー先生の当時の美学があったんではないかなと思います。

しかし、マイルストーンは、似たような雑誌だが、金儲けの目的がただたんに「オイシイ」思いをして、指示を下す学外イベント屋にゴマすってコネ作るのが目的みたいな新興誌との競争に追い込まれたはずで、その後知りません。どっちかが勝ったのか、共存したのか共倒れしたのか。なんとなく、老いを前に他者の手を借りて自裁した西部邁が、花盗人の比喩で知識欲に基づいた本屋万引きを擁護した時代には、のちの、新古書店に叩き売るために薄利の書店をひたすら苦しめる万引き小僧の出現は読みにくかったのと、似てるような気もします。

だもんで、まだ、ぱらぱらにしかめくってません。桑原茂夫って、蔵書寄付がアレになった桑原武夫の子孫かちがうのかしらないや、とか、酒つまのオータケさんが、ボーツ―先生の、世田谷と三鷹の格差発言に触れる回想をしつつ、ボーツー先生の一文と、今はもうないオータケさんとタモリ吉永小百合の二文の比較については、ボーツー先生言ったのか言わなかったのか、書いてないとか、そんな具合。

文壇アウトローズ担当編集増田結香サンが、同対談の構成を、初代はどんなときも石丸元章で、二代目(これを私は知らなかった)が橋本倫史と書いていること、「誤記憶」(私の「模造記憶」みたいなものらしい)はいいが捏造は許さんとかねがねボーツー先生は言っていたこと、誤記憶をネチネチウィキペディア検索してあげつらうやつはイカンゴレンと言っていたこと(私のことでしょうか)スーパーで棚の奥の新しい日付のものから取る松居一代みたいなやつは嫌だといっていたこと(私のことでしょうか)面白かった。

そういえば、二月に有楽町でホアキンフェニックスのジョーカー見たとき、ついでにレモンソバの店探したのですが、ロウ細工のメニューからレモンソバ消えていた気がします。このレモンソバを私が食べたのは、一昨年の交通会館の幻獣ナントカ展の後で、後ろからレンタル電動自転車に激突されて右手首にヒビが入ったのに気づかず食べた時で、それも今読みながら思い出した。

私は柄谷行人浅羽通明の区別がつかない人間で、しかしどちらもばななの父でないことは知ってるんですが、その浅羽通明が、ボーツー先生がいかにSFが嫌いで、SFにうとくて、それは口だけのものではなく完全にマジで、なのであれほど各方面の書評が鋭いのに、広瀬正の書評なんかトンチンカンのドシロウトもいいところで、それを隠しもせず、SFがいかに嫌いかに収れんしてゆく芸を、各方面からねちねち検証しようとしており、こうした態度こそがボーツー先生へのはなむけにふさわしい、と思いました。よく皆さん書かはった。外出出来ずヒマだからか。すばらしい。とりいそぎここまで。ではでは。