『流転の魔女』読了

流転の魔女

流転の魔女

眠いです。後で書きます。
【後報】
六月四日関連で検索していて、この本のアマゾンレビューで、
邦文にしては、その中の中文の情報量がとても多い等あり、
へえと思い借りました。著者のよういつさんは中国出身の漢人なので、
そりゃやろうとすれば当たり前田のクラッカー的に可能だろうとは思いますし、
読んでみて、ソローキンのロシア文学*1に出てくる中国語語彙よりは、
やっぱり全然多いと思いました。ちょっと、アレ、と思うような漢文もありましたが、
私のような齧っただけの人間がネイティヴにケチつけるのは不遜ですので、
なんだろうな〜作者の故郷の方言ったってハルピンだから特にないだろうしな〜、
("电话号码"を電話号と三文字で使っていたり)とか思いながら読みました。

シリン・ネザマフィの『サラム』*2にインスパイアされたのかな、
とも思える話で、現実にどれくらいあるのか分かりませんが、
在日中国人の刑事事件犯罪の弁護人接見にアルバイトで通訳する、
中国人女子留学生が主人公です。ネザマフィの小説はアフガン人の難民認定の話で、
アフガンのダリ語とほぼ同じ言語のペルシャ語話者である、
在日イラン人女子大生が弁護士通訳をする話で、どろどろした生臭い話ではないです。
というわけで『流転の魔女』はどろどろした生臭い話で、「弁護士には言うな」
「訳すな」と前置きをして、北方出身の被疑者が、
日本人と結婚して滞日資格を得たという女ボス(福建という設定ですが、福州かな?)
との連絡役に主人公をバンバン使い、主人公も、アホというかなんというか、
伝言に尾ひれをバンバンつけてマッチポンプを繰り返すという…
馳星周ならこうはいいでセックスしたり最後トカレフで射ち殺される小説になるのですが、
とぼけたよういつさんの小説なので、ケータイ番号とかも教えてるのですが、
特にアブない展開にならず終わります。よかったよかった。

そのあいまに、中国人女子留学生にもコナかけるインチキ日本人男性に、
コロっといかれた主人公の友人が、マルチだかなんだかにハマってゆく、
コネのない一般留学生の窮乏生活に潜む陥穽の描写がありますが、
ここは、友人を何よりも大切にするはずの中国人が、実はドライな切り方をする、
その参考になる展開ではないかと思います。レジでカネをくすねる場面は、
なぜきっちり金額入力してから抜くのかさっぱり分かりませんでした。
キャッシャーだけあけてレジは打つふりだけとか、
レシート印字する前にクリアするかして抜けば、レジが合わなくなるという、
バレた時の人間関係のカタストロフィを待ち望んでわざとバレやすくしてるのか?
へんな依存、みたいなことにはならないと思うのですが
(だから飲食店では信頼出来る人しかレジ触れない)、
このお話は、中国人留学生が疑われるがそうでなくてよかった、
という点を強調したくて、アタマおかしい浅知恵と発覚にしてしまい、
その分リアリティを欠いたと思います。よういつさん考えるのめんどくさくても、
そこはもっと練ったほうがよかったのではと。

その一方で、貧乏留学生の手に渡った樋口一葉の五千円札が、
買物ツアーの中国人に渡り、その愛人に渡り、
マージャンの払いでブローカーに渡り、西北出身の売春婦に渡り、
甘粛省出身でウイグルの血が入った馬姓って、
 リアリティないような気がします。
 甘粛ならカザフだろうし、ウイグルでもカザフでも、
 「馬」姓の回族とは通婚するかなあ、と思うので。
 「李」姓や「金」姓の漢族にしたほうがよかったのでは?)
偽札ディーラーに渡り、ロシアに渡り、という流転があり、それがタイトルですが、
流転の王妃アイシン神楽ナントカと、西の魔女が死んだを足して二で割った、
そんなインスピレーションのような気がしないでもないです。
なんでロシアに行くのか、とか、樋口一葉なのに、
法学部留学の主人公は一葉を知らず、京女みたいだから名前は「おせん」、
きくち正太のマンガみたいな命名をする場面とか、かなりスラップスティックで、
知日ってそんなんでえんちゃう、と思いました。

もうひとつサイドストーリーで、主人公の郷里の両親が、
都市戸籍中流、という中国を知れば知るほど上には上が有り過ぎて、
さらには下には下が農村に有り過ぎて、という階級に属しているのですが、
そんな彼らが死刑囚の臓器移植ビジネスに首を突っ込んで、
周囲との関係含めすべてがひどいことになる、という展開があるのですが、
日本ではあまり知られていないだけで、中文のゴシップ実録雑誌なんかに、
ちょくちょく転載されまくってる話のような気がしないでもないです。

主人公は相当に日本語能力が高くて、毎晩アパートのテレビで日本語の番組を見て、
内容もフツーに理解出来てるのですが、今はネットも、
CCTVのテーブルテレビもあるし、
そもそも家族との国際電話はスカイプにとって代わってないか、とか、
いろいろ日本語能力の発達を阻害する要因も高まっているので、これは作者が知る、
一世代前とかの留学生の話も入ってないかな、と思いました。
いくらコネがないからといって、
(だから法律学んでも中国で活かせないだろう、と主人公は明るく絶望してる)
ここまで日本語レベル高いのに居酒屋でバイトするかな、とか、
留学生は普通留学生同士でものっそ早い段階でくっつくのに、
日本人のクラスメート(親は人権派弁護士)に淡い恋心を抱くとか、
そんなんあるんかなあ、と思いました。私は大昔の前世紀にひとりだけ、
大連出身でズバ抜けて日本語能力が高いのに居酒屋バイトしてた女性を知ってますが、
確か韓国人のバイト仲間とくっついて、共通言語は日本語でした。
容姿については、語りません。なんとなく北海道の漫画家荒川…のイメージ。

よういつさんは日本でのご自分の名前はピンインのカタカナ読みを採用してますが、
この小説では、日本部分では漢字の日本語音読、中国ではピンインのカタカナです。
頁24で"卡"をか「カ」とカタカナで書いてみたり、
頁71で"脸"に「レン」とルビ振ったり(リエン、だろうに、日本に阿った?)、
そういえば、簡体字でなく、日本の漢字を務めて使っていますので、
"卡"とかそれで使っていないのか、とか、
でも「吃」は日本でも使うので、キッサ店の「喫」にしなくていいよ、とか、
セリフを必ず、一文字スペース使ってそのあと「――」をつけて書いてますが、
なぜカギカッコを使わないんだろう、スペースの分一文字水増し出来るからか、
(中文では一文字幾らの原稿料の慣習と訊きます)と思いました。

あと、貔貅を知りませんでしたので、勉強になりました。ありがとう。

貔貅 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%94%E8%B2%85
貔貅の発音 Forvo
http://ja.forvo.com/word/%E8%B2%94%E8%B2%85/

頁79
 怪獣は貔貅と呼ばれ、伝説の龍王の九人息子の末子である。龍王に甘やかされて育ったせいで、食事は金や銀しか食べず、その上肛門がないため、排泄しない。曰く「只進不出」――入ってくる金や銀を、決して外に出さない。そんな意を取って、商売繁盛を願うマカオのカジノなら、どこの入り口でも貔貅を置いていると、貔貅を取り囲んでソファを独占している一団に、染局長が興奮気味な口調で蘊蓄を披露した。

前世紀バブル前夜の頃、海外華僑の中で、ビルマ組が負け組と言われたらしいですが、
バーモウ戦後の華僑排斥政策があった)日本留学組も幸多かれと。
嫁日記の作者と、政治とゴシップとエステ求人の広告で埋まる在日中文新聞元記者の作者で、
対談とかすればいいのに。がんばってけさい。以上
(2015/6/14)
【後報】
中国人留学生同士が、「陳さん」「林さん」と、
日本語の「〜さん」を付けて呼び合うさまが、
便利な日本語の敬語を借用する在日留学組ならではの「あるある」光景で、
懐かしく読みました。なつかしい。
(同日)

*1:読書感想 http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20140307/1394170703

*2:

白い紙/サラム

白い紙/サラム