『かけがえのない贈り物 ままやと姉・向田邦子』 (文春文庫)読了

かけがえのない贈り物―ままやと姉・向田邦子 (文春文庫)

かけがえのない贈り物―ままやと姉・向田邦子 (文春文庫)

山口瞳関連の本を見ているうちに、関連商品で出てきた本。
ふつうの人が、かなりぶっきらぼうに書いた本です。
現在だとメールだブログだSNSだとありますので、
もう公開文章でこういう愛想を抑えた文章を書く人はいないかもしれない。
その意味で、読みにくいけど読み進めてよかった本。

まず、次姉の迪子さんが読めませんでした。

Yahoo!知恵袋
DQN?キラキラ?「迪子」・↑読めますか?・「子」は古風に感
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11113507776

チベットに“迪化”という地名があったなあと。
「みちこ」と読むとは、知りませんでした。
向田邦子さんの乳癌手術も知りませんでしたが、輸血肝炎で再入院(頁89)も、
知りませんでした。あと、丸山ワクチンという単語、ひさびさに見た。

この「ままや」の前にやっていたキッサ店「水屋」のほうがいい名前だと思います。
「ままや」より、作者案「虎半」がよかったと思いますが、
タイガースファンにあらぬ嫌疑をかけられてしまうかも。寅年で、
水商売のノレンで「半」はいい字だから、という理由だそうです。でも姉の一言でボツ。

頁156
 昭和五十三年の赤坂は、店も人々も活気があった。たくさんの料亭の前には、黒塗りのピカピカの車が並び、人力車で芸者が行き交い、白塗りの若い芸妓がポックリで歩いている。花を売るお姉さんや、客引きのお兄さん、それにかかわる胡散臭い人たち……。
 夜は滅多に出歩かない藤沢の主婦の目には、鮮明に映ったことであろう。

頁136、開店祝いの花立てからどんどん、高い花から取って行く人たち。
「開店花がなくなるのは、商売繁盛のあかし、喜ばしいかぎり」
 と、言われたそうである。そんなしきたりは知らないと、姉はぼやいていた。

頁156
 夜の赤坂をさまよって商売している人々は、新しい店の情報もいち早く仕込むせいか、行動に移るのも早い。
 開店したばかりの店の客足が減った頃合いを見計らって、スーッと入り込んでくる。お金はほとんど使わず、ビール一本で数人でたむろされると異様な雰囲気である。イチャモンをつけられるわけではないが、こちらからご遠慮したい客である。

こういう人たちは祇園にもいて、知り合いの、ラウンジでお金貯めて、
カウンターの小料理屋みたいの始めた女の人の店にいっぱいいて、
びっくりしたことがあります。

頁166の、女性のヨッパライに関する考察は女性ならではだと思いました。
男は千鳥足にはなっても、グンニャリストーンと、オチないそうです。
あと、女性は失禁するとか。

頁200、台湾旅行は、シルクロード旅行が政情不安で変更したもので、
ふだん旅先から国際電話をかけない姉が、台湾から、いつも簡潔にキッパリ喋るのに、
やけにゆっくりゆっくりとりとめのない話を喋りつづけ、翌日、
ということだったみたいです。なんのサインだったのか。

頁237
 そして、平成六年の今、赤坂は都心でありながら静まりかえっている。バブル時代といわれた頃のツケがまわってきたのか、家賃の上がりすぎで多くの店が引っ越し、そこの常連さんたちも遠くへ行ってしまった。
 喫茶店はなくなり、手づくりせんべいの店、輸入雑貨店などのユニークな店も店じまいし、残っているのは、ラーメン屋とファーストフードの店、コンビニエンス・ストアばかり……。

赤坂は、ヘイトのこないコリアンタウンだと思っていて、
当時からそういう店ばかりと思っていましたが、それは一面だったようです。

しかし高度経済成長だからか、特に意識しなくても貯金がたまるたまる。
このあたりのくだりはうらやましかったです。以上