『言い寄る/私的生活』(田辺聖子長編全集 7)読了

これがこの著者の代表作かと思って読みました。
文春から1982年に出た本です。初出によると、
前者は昭和48年の週刊大衆連載、後者は昭和51年小説現代連載。

言い寄る (講談社文庫)

言い寄る (講談社文庫)

私的生活 (講談社文庫)

私的生活 (講談社文庫)

いま入手しやすいのは上記みたいです。新刊では。
解説は阿部牧郎で、後者についてしか言及してません。
私は後者は、悪くないのですが、上つ方(うえつかた)の生活というのが、
どうにも何というか、バブル前の生活なのですが、一億総中流化とか、
いつかはクラウンとかは、こういうのを皆目指していたのか、
というのがなんとも読んでて、アレで、他の階層も出してよ、
とついつい思ってしまいました。金持ちほど守銭奴で、
頁280興味持たないのに、所有欲の強い人で、
これだけは形見分けにほしいという品を見せると、
わざわざそれを全部目の前でバッキバキに毀してしまうし、
ものに当る人間だから、当然DVはございますし、
しかし著者の言に拠るとカレは女性読者に人気があったとのことで、
その辺が、浜の真砂は尽きるとも、世に男女のムニャムニャは尽きマジ、と思いました。
左は松田譲装画。
検索で出てこなかったので。

左の絵が胸をもちゃげてるのは、
作中で、ホントしょっちゅう、
むんずと摑まれたり、
ガシッと鷲掴みにされたり、
後ろから揉みしだかれたり、
で胸が大きくなった、という箇所が
あるからで、ほんと人形なら
「ダメよー、ダメダメ」と
言って殴られても痛いのは殴った拳だけ、
なのですが、人間なので、
やっぱそこは暴力にならないよう
女性側からの世辞があり、
そういう男を立てるの積み重ねで、
関係ありませんが、
ダウンタウンのごっつええ感じで、
よく浜田が、YOUとか森三中
誰かの胸をガシッと揉んでましたが、
まあそういうのを女性から描けるというのは、初めて読みました。
エロチックでなく、ね。しょっちゅうマリみたいにころがされたりなのですが、
なぜかそういうとき関東言葉で、仕方なかんべえになるです、主人公は。
しかしそんな、セックスと性格の相性のよさだけで始まって、
年五百万内装と服にカネ浪費しても甘い生活やさかいオッケーで、
華麗なる親戚とのつき合いもなんとかクリア、も限界がカタストロフィ、
ゲシュタルト崩壊の足音がやがて迫り、

頁280
「よかった」
 と私は、嬉しくて、涙が出るくらい。
 ほんとに、涙が出て来た。
「ごめんなさい、あたし、イライラしたり、泣きたくなったり、急にうれしくなったり、このごろ、ヘンなんです」

頁288
そういえば、ここずうっと、イライラして、精神安定剤ばかり、服んでいた。それでもきかなくて、どうかした拍子に涙ぐんだり、剛に腹立てたり、していた。

このあとの話も書かれてるので、読まんならんかなあ、と思います。

苺をつぶしながら (講談社文庫)

苺をつぶしながら (講談社文庫)

全集装幀、灘本唯人
左は中表紙。
「私的生活」はかように重いのですが、
「言い寄る」は軽くて、
これだけ読みたかったです。できれば。

頁17風丰(ふうぼう)

家の前の公衆電話まで
来て電話掛けるというのも、
かつてはストーカー
という言葉はなかったし、
それだけでは…
というところでしょうか。
何しろ暴力は振るうけれども、
(浮気した場合)
気があう仲なので。

浮気の話も、
浮気相手の男性が誰か、
分かってるので、そっちを殴ればいいのに、
なんで女に当るかなあ、と思いました。
ホントかどうか知りませんが、アメリカではこういう場合、
間男のほうを殴ると聞きます。

続編では、殴られそうだから手は出せません、
と言う男性が出てきます。

頁29
今日び、赤ちゃん産んでどうする。え! おい、この公害の多い世の中に、やな。PCBもいっぱい、光化学スモッグもいっぱい、水銀中毒、鉛中毒、核実験でよごれてる世の中へ、何で罪つくりに子供ふやす!」

このセリフはかねものぼんぼんの台詞ではないのですが、
むかし、ほんとのほんものの、デュポンの係累と結婚した、
創竜伝の四大ファミリーのひとつです)
女性から聞いた、その男の子が子どもを欲しがらない理由と、
公害のネームは異なれど、厭世がつまり理由、という部分が合致しており、
そこがおかしかったです。『言い寄る』は面白かった。以上

【後報】
あと、主人公を彼氏は「乃理公」「乃理公」と呼ぶのですが、
「乃公」に空目って、だいこうだいこうって、乃木希典大将に気安いな、
と一瞬思ったりしました。
(2016/3/5)