山崎洋子がエッセーで、杉田久女について触れた箇所で、松本清張『菊枕 ぬい女略歴』を出していて、それが収録されているので読みました。
表紙を拡大すると分かるのですが、松本清張はツインテの老人男性です。島田紳助がクチビルのハリボテつけて演じた中田カウスの物真似に似ています。読んだのは2009年7月の八刷。平成活字不況下でよく売れたなと。
カバーデザイン・関口聖司 本文デザイン・同 本文イラスト・いしいひさいち
下巻は第七章と第八章と第九章で構成され、七八は火車の前口上、九は、松本清張賞受賞作家に聞きました、というお題で、山本兼一、森福都、岩井三四二、横山秀夫が小文を寄せていて、その小文がとりあげた松本清張短編を併せて収録しています。菊枕はここ。『地方紙を買う女』だけ横山秀夫が取り上げていながらここにありませんが、上中に既に収録されているのかも。その後、終わりにもクロスファイア。
山崎洋子サンは杉田久女について、田辺聖子の長編伝記小説『花衣ぬぐやまつわる わが愛の杉田久女』もあげていて、田辺聖子はそこで松本清張のコレを、ワイキョクと云ったか愛がないと言ったか知りませんが、あまりよく書いてないそうです。まあ、ただたんに狂って、晩年院内で看護日誌に毎日「独語独笑」と書かれる日々だった、では、さびしすぎると思うのかもしれません。
それはやっぱり、第七章『生けるパスカル』に顕著ですが、男が都合よくいられた時代の産物、男が帰宅して服をきかえると、ぬぎちらかしたキモノを拾ってたたむのが（悪妻であれ良妻であれ）妻となのつくいきものの反射、としかいえない描写が当たり前の時代に生きた男性の筆と思考なのでしょう。制度的心理行動というとちがうかな。そういう束縛がイヤで蒸発したいと「男性が」願うとか、なんだかなあ。21世紀にタイムスリップして孤立社会で生きれば、そんな雑念とも無縁になれますよと(＾ω＾)
同じ七章の『支払い過ぎた縁談』はコン・ゲームもので、楽しく読めます。やはり七章の、『骨壺の風景』は、清張の自伝ですか。
八章『帝銀事件の謎 －「日本の黒い霧」より』は、これを読んで初めて、帝銀事件が起こった場所が、西武池袋線の椎名町だと知りました。生活に必要ないインフォメーションなので、忘れてたかもしれません。山手線のギリ外側だったのか。とてもよい居酒屋があったです。で、しかもトキワ荘の近くじゃないですか。
事件が起こったのが1948年で、トキワ荘が出来たのが1952年なので、阪大医学部卒が犯行に及ぶ前提で、タイムトラベラーか時空震が同時に証明されたんだなと思いました。ベレー帽、おそろしい子。
平沢貞通はコルサコフ症候群だったそうですが、アルコール依存症ではなく、狂犬病予防接種の副作用でだとか。コルサコフ症候群による虚言症があるのなら、説明のつくことがいくつかあります。私の身辺で。
同じ八章の『鴉』は、まあそんなことで発覚はしませんと。21世紀はゴミ屋敷百万軒時代。もとになる実在の事件があるのでしょうけれど、なければ、東直己の畝原シリーズの、柔道の猛者だった中年女性の話のほうがこわい。
九章、『西郷札』は、オチが推察でしかないのが悲しいような。軍票買取とかもしあったらすごいですね。人力車の場面が、きれいです。再会も、周遊も。
『菊枕』とくになし。田辺聖子は読むのに時間がかかります。でも現代人はもっと田辺聖子読む時間が必要だと思う。
『火の記憶』私はかつてこういう光景のあとが視たくて、2011年にギラヴァンツ北九州の試合観戦と組み合わせて、飯塚に泊まって、ボタ山も見る計画を立てていたのですが、3.11ですべてキャンセルしました。計画停電下で、出張自粛令が出ていた中で、レジャーをする気になれなかった。この小説にあるような、ボタ山が自然発火する炎のゆらめきは、21世紀にはもう、見れるわけもないのでしょうが、それがあった場所だけは見てみたかった。その頃、ちばてつやの『のたり松太郎』全巻をカプセルホテルで読了したこともあり、その手の九州の光景に憧れを抱いていたこともあります。今後、それだけお金使って旅行に行くような生活はもうしないだろうな。このままの人生でだったら。
北九州ということで、旦過市場は出ますが、焼きカレーもいわしの糠炊きも出ません。
以上
【後報】
高岡から上京したふたりが見た、先生の秘密。締切が近づくと、編集者も気づかぬうちに消える先生。ふたりがこっそり監視していると、先生は机の引き出しを開け、そこにすっぽり入って、影もかたちもなくなるのだ！ あとを追うふたり。ダリの輪切りの⏰文字盤がぐにゃぐにゃしてる貧困な想像力の空間を越えると、そこは昭和二十三年の東京だった！ 先生はその過去の世界で、何やら調査しているらしい。これから起こる悲惨な出来事を、二人は防ぐことが出来るのか…… ワンスアポンナタイムinトキワ荘、撮影快調！ 堂々平成三十二年公開予定！ 括目して待たれよ！
（2020/1/13）
