『頼むから静かにしてくれ〈2〉』 (村上春樹翻訳ライブラリー)読了

頼むから静かにしてくれ〈2〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)

頼むから静かにしてくれ〈2〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)

頁55「ジェリーとモリーとサム」Jerry And Molly And Sam
 ビールを四本飲み終えた頃にタートルネックのセーターにサンダルというなりの娘がスーツケースを下げてやってきて、彼の隣に腰を下ろした。彼女はスーツケースをストゥールのあいだに置いた。バーテンダーと顔見知りらしかった。バーテンダーは彼女の前に来るたびに何かを話しかけ、一、二度は足を止めてちょっと話しこみもした。彼女はアルに自分はモリーという名だと名のったが、彼がビールをおごろうというのは断った。でもピツァなら半分いただくわ、と言った。
 彼は彼女に向かってにっこりと微笑みかけ、彼女も微笑みかえした。彼はポケットから煙草とライターを出してバーの上に置いた。
「さあピツァだよ!」と彼は言った。
 そしてしばらくしてから、「車で送ってやろうか?」と声をかけた。
「いいえ、いいの。人待ちだから」と彼女は言った。

ピザかピッツァなら分かるんですが、ピツァってなんだよ。
促音使えよ。

促音 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%83%E9%9F%B3

英語などの原音のつづりで同じ子音字が2連続する場合、発音は単子音だが促音を入れることが多い(例:Shopping ショッピング)。同じ語に両方用いることもある(例えば人名「ウェッブ」または「ウェブ」を参照)。
逆に、イタリア語など原音で促音と同様の音結合がある場合でも、促音を省略して表されることもある。(例:カフェラテ、caffe latte; カッフェラッテ)

表紙は和田誠。パブというか、バーの夜景。
村上春樹の解題を読んで、彼の父親が電鋸の目立て職人で、狩猟と釣りが趣味で、
アルコール依存症の傾向があったと知りました。それだとACですべて語られてしまい、
接ぎ穂がないな、とも思いましたが、六十年代後半、テルアビブに数ヶ月留学、
という体験をし、それ以後急速にアルコールにのめりこんでいった、という個所に、
ベトナム戦争が盛り上がるさなか、人工国家イスラエルに住んだ田舎者のヤンキーが、
どんな文化摩擦に擂粉木をかけられたのか、それで摩耗して芯が折れたのか、
そこを知りたいと思いました。いままで読んだ彼の小説は、アメリカの郊外ばかりで、
それはともすると、中東ユダヤ国家との対比で、そこに逃げ込もうとしているのかも、
と、今日初めて思いました。…彼の初期小説は、言いっ放し聞きっ放しを聞いてる
かのような、不安定な他者の感情を以て自己の相対化、バランスをとる働きを得られる
と思うのですが、でも彼もそればかりを書きたいわけではなかったのかも。
「自転車と筋肉と煙草」Bicycles, Muscles, Cigarets は、子どもの争いに親が出て、
非礼なドイツ系の親を主人公がのしてしまう話ですが、正直、カーヴァーが、
内なる父性が勝つ話を、書くとは思わなかったので、この展開は意外でした。
素朴に父親を信仰したい気持ち、これを露わにして、しかも勝利してる話って、
ものすごく意外です。
ルーザーばかり書いて拘泥したい人間では終われないと思ったのか。
でも村上春樹はこれを読んでフィジカル的にも救われたのかもと思いました。
勝てるのに勝たないばかりでは、子どもの人生も含め、さみしい。以上