『ウィリアム・テン短編集 1』(創元SF文庫)読了

http://www.tsogen.co.jp/img/cover_image_l/64801.jpgコニー・ウィリスが『混沌ホテル』*1序文で、
影響を受けた小説をべらべら書いていて、
そのうちのひとつがこの本収録です。
メモ取り忘れたので、どの作品か再度確認要。
東京創元社の公式が非常によく出来ていて、
装幀者まで明記されています。で、当時の、
創元推理の表紙は大同小異同工異曲なので、
わざとフザケて明記な気もします。で、但し、
解説:牧眞司は、定価929円(本体価格860円)の、
復刻からのようで、私の借りた\340、
1974年6月28日三刷にはありませんでした。
訳者はブラウン神父シリーズやバラードの
結晶世界なんかも訳したしとだそうですが、
本書の訳者あとがきは非常にあっさりです。

訳者あとがきによる原題
"Generation of Noah"「ノアの世代」
"Broolyn Project"「ブルックリン計画」
"The Dark Star"「暗い星」
"Null-P"「非(ナル)P」
"Eastward Ho!"「針路を東へ!」
"The Deserter"「脱走兵」
"Betelgeuse Bridge"「ベテルギューズの橋」
"Will You Walk a Little Faster"「もう少し速くあるいてくれないか」
"It Ends with a Flicker"「それはかちり、かちりとちらついて終る」
"Lisbon Cubed"「宇宙のリスボン
"The Masculinist Revolt"「男性の反乱」

赤字の作品は、私の借りた古い文庫には入ってるのですが、
版元公式にない作品です。なぜか全く分かりません。また、
こうして見ると、「暗い星」は、「暗黒星」でいい気がしますが、
乱歩に気がねでしょうか。また、Pの意味が全然分かりません。
修業時代の親指P、ピーニースでは全くないようです。

頁115「針路を東へ!」サスクエハンナ河
"Susquehanna"なんだから、こういうカタカナにしてもいいわけですよね。
なんで「サスケハナ」で統一されてしまったんだろう。
サスケハナ 曖昧さ回避 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%8F%E3%83%8A

頁118「針路を東へ!」
(前略)その隙間から、瓶を手にしているサムの姿が見えた。テキラだ。あのとんでもない阿呆はインディアンからテキラを貰って――なんと、へべれけに酔っているのだ。
 奴は、白人が酒を飲むことができない――飲酒するなどという大それたことができない――ということを知っていなかったのか? 外敵の脅威を受けていない耕作地は一寸残らず食糧を生産する目的で耕されているのに、それでも合衆国民は飢餓すれすれの線にあるのだ。だから、合衆国の経済には、アルコール分を含んだ飲料というような贅沢品を生み出す余地は皆無なのであり、いかなる白人も、普通の暮らしをする一生のあいだに、グラス一杯の酒にもありつくことがないのである。そういう白人に丸々一瓶のテキラを与えれば、その白人はたちまち鼻もちならぬほど酔いつぶれてしまうのだ。
 今のサムがまさしくそれだった。サムは、涎を流しながら、半円形を描いてよろよろと行ったり来たりして、瓶の首を持って、白痴みたいに瓶を振っている。スー族の戦士たちはくすくす笑い、お互いの胸を指で突っつき合っては、サムを指さしていた。サムはだらしなくぼろ着の胸と腹の上にへどを吐き、さらに一飲みしようとして、うしろにひっくり返った。瓶の中味は、サムの顔にこぼれ出て、やがてからになった。サムは大きな鼾をかいていた。スー族の戦士たちは頭を横に振り、見ちゃいられんというふうに顔をしかめて歩き去った。

頁129「脱走兵」MP中尉である十代後半の中国娘と主人公の会話
 娘はくすくす笑いだしたが、途中で気を変えて、顔をしかめた。「申し訳ありませんが、マーディン少佐、今のお言葉、気に入りませんわ。奴らのことを“友達”と言ってもらいたくないんです。たとえ冗談としてでもね。百五十万人以上の人たち――そのうちの三十万人は中国人です――がこういう――こういうアンモニア化された扁虫のために吹き飛ばされてしまったんですからね!」
「そして、その百五十万人のうちの最初の五十人は」と彼は苛立たしげに娘に注意した、「私の親類であり、近所の人たちだったのだ。尤も、それは、きみが火星と三つの水槽大殺戮事件を憶えているほど年がいっていればの話だがね」
 彼女は息を吞み、心を打たれたように見えた。お詫びの言葉が彼女の頭の中で組み立てられているらしかったが、マーディンは、うんざりしたように大股で彼女の横を通り過ぎ、足ばやに遠い壇をめざした。彼は、健全かつ知的に憎むことのできない人たち、敵意に特別な象徴と白痴同然の否定をまじえねばいられない人たちを自分がものすごく嫌悪していることを、もうずっと以前に気づいていたのである。ドイツ語の「サワークラウト」(塩漬けキャベツ)を「自由キャベツ」と変えた一九一四年―一九一八年大戦中のアメリカ人、アンカラでオレンジを食べているところをひっ捕らえられた人を一人残らず私刑に処した一九八五年のジブラルタル騒動中のトルコ人暴徒たち。老兵部隊――すなわち病弱民間部隊――の制服を着た年よりたちが、木星から飛来してくる敵のことを口にするたびに、靴の踵で蛆虫をひねりつぶすという社会的に認められている身振りをするのを、彼は今までもう何度見てきたことか!

ジブラルタル騒動というのは作者の創作です。1973年邦訳の小説に登場する、
1985年の事象なので。

頁132「脱走兵」
 劉大佐はマーディンの左腕をつかみ、素早く彼を壇の反対側に引っぱって行った。ロケットヘッド・ビリングズリーは、大佐が息を切らせてマーディンを紹介するのを途中で遮った。「イゴール・マーディン少佐だって? ロシア人のような名前だな。今じゃ、きみはロシア人じゃないだろうな? わしはロシア人が大嫌いでね」
 マーディンは、ビリングズリーのうしろに立っていた肩幅の広い副元帥が腹を立てて身をこわばらすのを眼にとめた。「ロシア人じゃありません、閣下」と彼は答えた。「マーディンというのは、クロアチア人の名前です。私の家族はフランス人とユーゴスラヴィア人の血がまじっていて、ちょっとばかりアラブ人の血も入っているようです」
 宇宙軍元帥は毛皮の帽子をかぶった頭をさげて頷いた。「よろしい! もしロシア人だったら、我慢できなかったろう。ロシア人も嫌い、中国人も嫌い、ポルトガル人も嫌いなんだ。尤も、一番ひどいのは中国人だがな。さて、木星から来たこの鬼みたいな奴を訊問する準備はできているかね? それなら、こっちへ来給え。きみ、動くんだ、動くんだ!」
(後略)

頁296「男性の反乱」雇傭
テューニック、チュニックのことでしょうか。
頁336「男性の反乱」男性主義派の分派グループが「無名男性主義派」てのは、
悪い冗談かと。旧派がオックスフォード男性主義派ってわけでもないのだし。
新生男性主義派。
頁343「男性の反乱」ロサンゼルスのスペイン系住民地区出身の気鋭なユダヤ系ニグロは
作者はロンドン生まれのユダヤアメリカ人で、本名フィリップ・クラス。
クラスは、ケーから始まる"Klass"です。2010年の作者没後も、
公式がきちんとメンテされて維持されていて、素晴らしいと思いました。
今後はこういうの増えるんでしょうね。そういうファウンデーションというか、
サービスが充実される気がする。別に電脳空間で生き続けるわけではないですが。
東京創元社公式
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488648015
作者 英語版Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/William_Tenn
作者公式
http://dpsinfo.com/williamtenn/

ウィリアム・テン短編集 (1) (創元SF文庫)

ウィリアム・テン短編集 (1) (創元SF文庫)

THE WOODEN STAR

THE WOODEN STAR

http://www.darkieshouse.com/upload/save_image/11251233_56552c21bd16f.jpg

(バトルNo.TU1)
『ウイリアムテン』
宇宙空間防衛軍エスパー戦士。宇宙弓矢の名
手だ。ヘッドの赤外線アジャスターで狙いを
つけて100発100中!
10本の矢がなくなると負けちゃうよ。

http://www.darkieshouse.com/upload/save_image/11251233_56552c15ae7ad.jpg
http://www.darkieshouse.com/products/detail.php?product_id=11424&PHPSESSID=b2dce725bd584ceef292bb2d19141f42

【後報】
コニーが触れているテン作品は下記三つなのですが、
市井の方のサイトによると、いずれもこの短編集未収録でした。学刈也。

『地球解放』「世界ユーモアSF傑作選」(講談社文庫)浅倉久志編 1980 収録
『死者の国へ』奇想天外に訳出掲載号有とのこと。
       こういうの調べてオープンソースしてくれる方を敬服します。
『新ファウスト・バーニー』ジュディス・メリル編年刊SF傑作選4収録とのこと。

最初調べた時、完璧寝ぼけてました。検索ツールがどんな優秀でも、
ハサミと同じで、使いようです。以上
(2017/5/1)