画文集『レニングラードの雀 -ソビエート・サリアンカ紀行ー』読了

レニングラードの雀 : ソビエート・サリアンカ紀行 庄野英二画文集 (創文社): 1971|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

ソリャンカ - Wikipedia

サリアンカはボルシチと並んでソ連を代表するスープで、「ソビエト味噌汁紀行」くらいの意味合いのタイトルだそうです。

庄野英二本三冊目。1970年にソ連を旅行して、翌年出版。ソ連が崩壊するまで本書同様ソ連旅行はインツーリストを通して、バウチャー発行してやってたというのが、なんかエラいなあと思います。ただ、本書の時点では、テレックスで予約手配するなどの技術更新はまだで、現地に着いてから宿を振り分けたりしてました。中国国際旅行社(CITS)の手配とメイヨウ攻撃の中国旅行とソ連旅行は同じ社会主義なのに何故こうも違うのか、と思っていたけれど、1970年のソ連旅行は、それほどシステマティックでもないなと思いました。しかし外国人旅行者の多いこと。というか接触のある現地人は闇の転売屋とか、ホテルの部屋に電話かけてくるコールガールとか、そんなんばっか。あとは私も経験ありますが、顔立ちが似ている中央アジア出身者やカレイツイと、街頭でふと視線を交わしたり筆談したりする瞬間。

f:id:stantsiya_iriya:20200127212301j:plain

著者検印はレニングラードの「L」

前半三分の一ほどは、雑誌「アルプ」掲載。続かなかったのは、あんましアルプっぽくなかったからか。アルプを知らないので、分かりません。

文芸誌アルプについて 北のアルプ美術館

串田孫一 - Wikipedia

crd.ndl.go.jp

ソ連のホテルは各階にデジュルナヤという接客係がいて、鍵の保管その他のサービスをするんだとか。私は今の日本で言う民泊とか、大学の留学生寮とか、そういうとこばっか泊まってたので、そのデジュルナヤという制度知らんなと思ったのですが、検索すると、2020年現在ロシアに(ウラジオストックとかいろいろ)留学している人のブログがヒットし、寮の管理人おばさんもデジュルナヤであることが分かりました。モノ不足で大変な時に私はロシアを旅行したので、寮のオバサンに毛糸の靴下あげたことがあるのですが、あのおばさんがデジュルナヤだったのか。

頁75、ロシア人の「ニチェボー」は中国人の「没法子(メイファーズ)」と同じ、とあります。この人は戦争で大陸に行ってるので、その中国体験が知りたくて著書を読んでるのですが、なかなか出ない。

頁134、アルメニアのエレヴァンで、ピロシキを注文したら、ビスケットにクリームをぬりつけたような菓子が来たそうで、そういうのもあるのか検索しましたが、アルメニアの記述はウィキペディアにはなかったです。

ピロシキ - Wikipedia

作者のレニングラードのガイドは、途中から朝鮮人になります。カレイツイではなく、サハリンの朝鮮人。イファソンと世代的にかぶるんだろうかと思いながら読みました。小学校までは日本人学校で、小学校六年の夏に日本が負けて、それから二年くらい後に朝鮮人学校が出来たとか。

頁231、オペラの蝶々夫人を観劇に行く場面で、ピンカートンという名前に会いました。マダムバタフライのゴシュジン。

頁169

 ネフスキー通りをデカブリスト広場の方へ走っているトロリーバスに乗る。バスは混んでいた。バス賃がいくらか分からないので、他の人がしているように二十コペイカのコインをだして、近所の者に「パジャーリスタ」と言って渡すと、コインは順ぐりに乗客にパスされてゆき中央付近のキップ自動販売器の傍にいた乗客が切符販売器にコインを入れて切符をとり、それが逆にパスされて人々の手をへて帰ってくる。

 ほんとに気持のよい慣行である。バスの端っこに乗っていても、「パジャーリスタ」と言って隣人にコインを渡せば順ぐりにパスされるのである。誰も嫌な顔をしない。お互いに信頼しあっていて、それが当たり前のことになっている。

 この自販機があだとなって、ソ連崩壊時、運賃値上げ、インフレに装置がついてゆけず、カペイカコインしかうけつけない機械はただの箱と化し、それでもバスはストップすると社会インフラがマヒして郊外への帰宅者が帰れなくなるので、フツーに動いており、誰一人運賃を払わず乗車し、そして降車してゆきました。キップのモギリがいるアジアではこんなことは起こりません。でも運転手は嫌な顔一つせず、通勤通学の乗客を運び、メトロの駅出口には花売りが温室栽培のクロッカスやチューリップを売り、青年がバイオリンを弾いていました。勿論私が中国人と間違えられて(当時タチの悪い中国商人が跋扈していたことは、東中野ポレポレの昨年天安門特集の20世紀回顧ドキュメンタリーでもお馴染み)不快な目?に遭うステレオタイプの出来事もございましたっと。

以上