51番目の密室〔ハヤカワ・ミステリ1835〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
- 作者: クレイグ・ライス,クリスチアナ・ブランド,カーター・ディクスン,コーネル・ウールリッチ,ロバート・L・フィッシュ,早川書房編集部
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/05/07
- メディア: 新書
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収録作品一覧は下記版元公式に有
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/211835.html
1973年6月刊行<世界ミステリ全集第18巻>『37の短篇』から12編を抽出し、37の短編のオマケ座談会(ゲスト石川喬司、稲葉明雄、小鷹信光、編集部)もくっつけたアンソロジーです。この本の前に2008年にも「天外消失」のタイトルで、14編が抽出されているとの由。
小泉喜美子のミステリ歳時記で紹介されてたヘレン・マクロイ『燕京綺譚』田中西二郎訳が収録されているので読みました。
2018-05-25『ミステリー歳時記』読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20180525/1527248484
くだんのヘレン・マクロイの短編は、創元推理の自選集「歌うダイアモンド」では『東洋趣味』というタイトルになっていると、先にウェブで情報を拝見しておりましたので、こっちの訳はもうオワンリかと勘ちがいしておりましたが、ただ単に版元が違うから訳も違うとのことなのかなと思いました。
頁385座談会
石川 作品以外のおちになると、ヘレン・マクロイの「燕京綺譚」は、すごく凝ったものですね。
稲葉 ええ。
(中略)
稲葉 ことにこの作はね。これが話題になったというのは、田中西二郎さんの翻訳ですよ。田中さんは大陸におられた経験もあり、よく調べられた。ヘレン・マクロイの原作のほうが、“翻訳負け”してるんじゃないかと、(笑)そういう評判もありました。
石川 旦那のほうが「死刑前夜」を書いて、女房のほうが「燕京綺譚」を書くという、取り合わせのおもしろさもあって、夫婦を選んだのだけれども。(笑)
小鷹さんは、ハリイ・ケメルマンはおもしろくないですか。(以下略)
田中西二郎 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E4%B8%AD%E8%A5%BF%E4%BA%8C%E9%83%8E
お勤めだったのか徴用だったのか、上記の経歴に「華北綜合調査研究所」があります。
こうなると創元のマクロイ自選集「歌うダイアモンド」の『東洋趣味』も読んでみたいのですが、近所の図書館はどこも在庫なしです。話は変わりますが、さいきん、近くに大型書店のない知人は、もっぱらアマゾンで、しかも1円とか0円とかの中古しか買わないそうで、あれは請求する送料に利益上乗せしてそれでもってるんではないか、本もキレイなものだ、と言ってました。私はまだそこまで行き切れず、アマゾンでは新刊のみ、図書館で借りないことにしているマンガで品切れのものは日本の古本屋で探して、日本の古本屋にはないけれどアマゾンには中古がある、例えば「音やん」の中村博文が一巻だけ出してそのままの『食戦記』は、指をくわえて見ています。電子版と言う手もあるのでしょうが…
原題は"Chinoiserie"創元推理はタイトルにカッコして(シノワズリ)と併記しています。
シノワズリ - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%8E%E3%83%AF%E3%82%BA%E3%83%AA
田中訳の凄みは、脚注を見ても分かります。
頁51
シナ街(北京は内城と外城に分れ、内城は往時は八旗すなわち旗本の居住地で、満州人が多く、漢民族は多く外城に住んだので、欧米人は外城をChinese City、内城をTatar Cityと呼んだ)
「旗本」は「旗人」の誤植じゃいかと思いますが、まあいいです。こういう英語の呼びならわしは中国人より、一歩鳥瞰してみてる外国人のほうが知ってる情報だと思います。日本でも、民泊とかゲストハウスは日本人より日本通のガイジンのほうが知ってるものですし。
頁52
甬道ユンタオ(当時の北京の大街は中央が両側より約三尺ぐらい高く、この部分を甬道といった。甬道と両側との間はしばしば深さ七、八尺に達する溝になっていた。チャーリィはここへ転げ落ちたのである)
甬道の意味 - 中国語辞書 - Weblio日中中日辞典
https://cjjc.weblio.jp/content/%E7%94%AC%E9%81%93
下記百度はあてになりません。往時のペキンの記憶と断絶した執筆者しかいないから。
甬道_百度百科
https://baike.baidu.com/item/%E7%94%AC%E9%81%93
この短編の中国人は満族/漢族の別以外に、広東語話者と北京官話(マンダリン)話者の二種類いることになっているのですが、語り部の英国人が片言のマンダリンしか解さず、ロシア人たちが両方解することになっているのが、へんなの、逆じゃないのと思いました。英国人のほうが、香港から英語の分かるアマとか使用人とか連れてくるだろうから、それで使用人と北京ローカルとの軋轢を見て、両言語の違いにだんだんに精通してくると思うので。河北のロシア人が、香港や、広州十三行と往来があって、言語面からも南方にアプローチして、精通してゆくものでしょうか。作者も訳者はそこには何ら触れていません。
ほかの短編について。
クレイグ・ライスの酔いどれ弁護士マローンシリーズは読んでみます。
- 作者: クレイグ・ライス,Graig Rice,小鷹信光
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1992/01/25
- メディア: 文庫
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頁82カーター・ディクスン『魔の森の家』江戸川乱歩訳
"The House in Goblin Wood" by John Dickson Carr
(外科医はドクターといわないで、サージャンと呼ぶ)
頁154Q・パトリック『少年の意志』北村太郎訳
"A Boy's Will" by Q. Patrick
この短編は、銀仮面のイタリア版です。マカロニ銀仮面がいっぱい。
頁154無邪気さナイブテ
頁225コーネル・ウールリッチ『一滴の血』稲葉明雄訳
"One Drop of Blood" by Cornell Woolrich
彼はまだ手にもっている物体に眼をやって、いまだにそれが何であるかさえ知らないのに気がついた。これほど無計画なことがどこにあるのだろう? 反りをうった長い剣のようなもので、鋭利な刃がついている。そのうちに、やっと彼にそのものの正体がわかった――人からの聞き伝えというよりも、実際この眼で見て悟ったのだった。《サムライ》の刀、昔の日本との戦争の土産品だ。彼は今になって、彼女に一人の兄がいて、太平洋戦争で現地へ行っていたのが、帰還後まもなく自動車事故で亡くなったといっていたのを思いだした。当時は、よくこうした品を土産に持ち帰ったものである。
手を放すと、それはどさっと重い音をたてて落ちた。
まもなく彼は彼女が壁に釘でとめておいた腕木を見つけた。それはそこに架けてあったのに違いない。そっちへ近づこうとした彼は、腕木の下に、ちぎれた紐とからっぽの鞘が落ちているのに気づいた。
以上