『時計は三時に止まる』(創元推理文庫)読了

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時計は三時に止まる (創元推理文庫)

時計は三時に止まる (創元推理文庫)

読んだのは初版で、ポケットウイスキーの表紙です。作中ではライ・ウイスキー一本槍なのですが、この表紙にはスコッチと書いてある。
画像は読書メーターから https://bookmeter.com/books/490362
ライ・ウイスキー Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC
スコッチ・ウイスキー Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC
カバーイラスト=佐々木吾郎
カバーデザイン=矢島高光
光文社文庫から『マローン売り出す』のタイトルで1987年5月刊行されたものにじゃっかん訂正を加えたんだそう。ヘレン・マクロイ『燕京綺譚』田中西二郎訳が収録されてるアンソロジーで酔いどれ弁護士マローンシリーズなるものがあることを知り、それで読んでみた推理小説です。
ウィリアム・ルールマンという人が序文を書いていますが、誰だか分かりません。この序文で、もう十分に作者の人となりが分かります。シリーズ第一作の序文時点で死後ってありかな。頁9「ミステリー界のドロシー・パーカー」で、「痛飲とおふざけと殺人とを織りあわせ、お通夜と人狩りの楽しみをまぜあわせるのが得意」な作風だったとか。この本執筆時点で31歳で、49歳で、二度目の自殺企図は、未遂に終わらなかった、という。

頁9 序 ウィリアム・ルールマン
 だが彼女の人生のほうは、笑いの材料が多いとはいえなかった。父親は画家、母親はコスモポリタン。両親がヨーロッパに滞在し、離婚し、結婚し、また結婚しているあいだ、ジョージアナは伯母と伯父に育てられた。カリフォルニア州ピードモントにあるミス・ランサム塾から逃げ出した彼女は、シカゴで女ボヘミアンになった。その地で五度結婚し、娘を二人、息子を一人産んだ。
(中略。身体についての記述あり)一九四九年、急性アルコール中毒症のためカマリオ州立病院に収容。一九五二年には、ニューヨーク市の聖ニコラス競技場にスポーツ試合の観戦に出かけ、地下室まで四十フィート転落している。競技場の所有者を訴え、十五万ドルの賠償金を請求し、勝訴して三万七千五百ドルを得た。
 ライスは二度、自殺を企てた。
 一九五七年八月二十八日、『ニューズウィーク』誌によると、
(以下略)

日本語版Wikipediaにそうした記述はありませんが、英語版にはあります。「二度」が"several suicide attempts"になってるなど、細部は異なるようです。二度なら"few"だと中学校英語が叫ぶ。"Like many of her characters, Rice developed chronic alcoholism and"ry

クレイグ・ライス Wikipedia 英語版はカッコつきURLなので、日本語版の多言語版から飛んで下さい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%B9
ドロシー・パーカー Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC
この人は73歳まで生きたそうですが、著書がアマゾンや近隣の図書館に出てきません。

原題"8 FACES AT 3"

解説は野崎六助という人。この人の解説も歯切れが悪く、ライス作品はとてつもなく暗い、との書き出しで始めているのですが、それが何故かはぼかして書いていて、作者とフィッツジェラルドの類似点を挙げて、フィッツジェラルドの有名な一行に、《魂の暗夜の中では、毎日というものがいつもいつも午前三時なのだ》というのがあるそうで、だから時計は三時に止まって当然なのだとしています。この小説は遅れてきたジャズエイジミステリーだと。

野崎六助 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E5%B4%8E%E5%85%AD%E5%8A%A9

そうやって読むと、別にマローンという人はぜんぜん酔っぱらいには見えないのですが、ヘレンという狂言回しの女性が、とにかくあやういです。そして、小泉喜美子の小説ばりに、登場人物は、緊張すると、緩和するため酒が飲みたくなる。

頁193
「ビールかい?」マローンが尋ねた。
 ヘレンはうなずいた。「朝食がわりにね」
「おやおや、朝食にビールとはね」
「そうよ。朝食にビールが飲みたくなることがあるの。普通は朝食にビールを飲むのが好きで、そうでないときは単に……」
「やっぱり朝食にビールだろ。わたしは、朝食には朝食を食べるのが好きだな。普通は朝食に朝食を食べるのが好きで、そうでないときは……」
「朝食にビールを飲むのは楽しいわ。でも、飲むより投げるほうがもっと楽しい」

頁265で、容疑者の外見は、ヘレンが〈キリスト教女性禁酒同盟〉のピクニックに参加するのと同じくらい目立つ、という形容があります。

頁279
(前略)彼女の言ってることは真実だ。でなきゃ、中国人になってやる」
「そして洗濯屋を開くの? それとも日本人と戦いに行くのかしら?」彼女はきいた。
「うるさい。
(後略)

そんな小説です。これが後年どうなるか、もう二冊読んでみます。以上

2018-06-15『51番目の密室』<世界短編傑作集> (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) 読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20180615/1529009605