『一茶の相続争い――北国街道柏原宿訴訟始末』 (岩波新書) 読了

発売日当日の新聞一面広告で見て、読もうと思い、
図書館の蔵書検索しましたが、そんな速攻仕入れてるはずもなく、
(予算申請して購入手続きのタイムラグがあるでしょうから)
橋爪大三郎フリーメイソン新書を買う際に、
一冊だけ買うのもあれなのでいっしょに買った本です。
返本不可の(不退書店取次以外)岩波書店の本を買うと、
本屋に功徳を施した気がしてすがすがしいです。*1放生会


本性見たり
故郷北信濃の遺産をめぐる
十余年に及ぶ
兄弟骨肉の抗争劇
俳人一茶の
知られざる
真実に迫る

裏帯
もとより弥太郎・一茶は同一人物であるが、一身二生を生きるではないが、この狭間を臆面もなく利用しながらも、一方で苦しみもがいたところに本質が潜んでいるように思われるのである。

カバー袖
俳人一茶、こと百姓弥太郎。その十年に及ぶ異母弟との骨肉の争いを語るものは少ない。父の遺書を楯に家産をむしり取る。欲に憑かれた嫌われ者。そんな弥太郎の主張がなぜ罷り通るのか。そこには契約文書がものを言う北信濃の文治社会の存在があった。史料を読み解き、一茶が巧みに覆い隠した弥太郎の本性を明るみに出す。

立ち読みpdf
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/tachiyomi/4316740.pdf

江戸時代は長子存続で、農家は特にそれが顕著ですけど、
一茶は若い頃故郷逐電かなんかで江戸暮らし長いですから、
父の実家を守ってきたのは義弟と継母ということで、
あと過度の小作化を防ぐ意味でも、江戸時代分地制限があったようで、
それを一茶は、父親の遺言書という錦の御旗で、継母と義弟連合軍と、
対峙してゆくわけで、しかしその遺言も、いまわのきわに、
そばにおれたのが一茶だけという状況でしつらえられた、現存しない、
一次史料として当たれない遺言なので、それを多弁を弄して、
必死に自己正当化してゆく一茶を、作者は「業俳」という冠詞付きで、
呼んでおります。職業俳人(プロ俳人)という意味なのかな? 
俳諧師でなく、業俳と呼ぶと、業が深い俳人というふうな皮肉にもとれ、
よいと思いました。

で、北信濃は何故そんな訴訟社会なのかというと、
もともと上杉景勝の領地だったのを豊臣家が上杉を会津に領地替えさせ、
関東の徳川を包囲しようとした時に、根こそぎ武士階級を移し、
後釜の豊臣臣下を、今度は家康が五大老のうち一人だけの命令で、
よそに蹴散らしてしまい、以後権力の空白状態が生じたからとのことです。
また北国街道の宿場として、「農村」の風土とは異なる貨幣経済
商業地域として隆盛した、だからでもあるとしています。

まーそうした、中国みたいな文民社会の訴訟事例として、
一茶相続騒動以外に、お寺の跡継ぎ問題(色絡み)と、
交易問題のふたつを本書は取り上げています。
ホントに訴訟でカタをつけようという人が多い、
変わったムラ社会で、しかし、
寝業師の暗躍も、ないではないよ、という記述。
寝業師は、若衆やらなんやら、文書に残りにくく、
そのインヴィジブルな権力を行間から読むしかない、みたいな。

私は国学や日本史には疎いのですが、むかし飛び込み営業で、
ご祝儀で大口注文貰ったことがあるので、日本史の先生は好きです。
(オバドクの人はちょっと苦手)作者は泰斗だと思うのですが、
下総船橋在住の後期高齢者、と自己を謙遜して語っておられ、
千葉から北信濃をリモートで資料渉猟やらして、本書推敲との由。
執念というか、カッコいいと思いました。

私も本書読んで、現地に行ってみたくなりましたが、
鉄道がJRでないので、青春18きっぷ使えないのが、
ネックです。それだと、う〜ん。以上

*1:Yahoo!知恵袋 2013/12/423:55:29 岩波書店の本を置かない書店が少なくないのは何故ですか? https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14117458224