『給食の歴史』(岩波新書)読了

 藤原辰史 - Wikipedia

給食の歴史 (岩波新書)

給食の歴史 (岩波新書)

 

まえがき、凡例、あとがき、主要参考文献、日本年表、索引あり。

給食の歴史 (岩波新書)

給食の歴史 (岩波新書)

 

stantsiya-iriya.hatenablog.com

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/stantsiya_iriya/20191218/20191218114424.jpgこの本も、世田谷文学館の「本と輪📖私のこの三冊」というコーナーに、この人のおすすめ本があり、それよりこの人の著書が目を引いたので、読んでみたという本です。もう一冊、トラクターの本も読みまして、その読書感想は上記。

本書は多彩な先行研究も踏まえてますし、本人の体験も想いとなって記述に反映されてますし(食にまつわる歴史研究家の肩書だから、そういうテーマで書かねばならぬ、の押しつけ感から自由)ナニをテーマにどう料理しようをよく練った上で書いている。山田風太郎忍法帖シリーズを書く際に必ず作ったというプロット帳のようなものをこしらえて、それに基づいて書いた形跡がある。本書のテーマはよくばって五つ。①貧困②災害③運動④教育⑤世界、です。

 ①は、頁247、21世紀の給食問題、しいては福祉問題の本質ともいえる、「ベンツに乗ってるのに給食費を払わない」の真偽がさいじゅうようポイントと思うのですが、わりとここは肩透かしです。これは、本書によると、学校側が認識する未納原因だとそんなふうになるという話で、それを鵜呑みにした「マスゴミ」がモラルバッシングのキャンペーンをはったが、実は、親側へアンケートしない調査方法のまちがいなんだそうです。

欠食児童の問題は古くて新しいが、日本の、富裕層にも貧困層と同じ給食を与える平等方式は、貧困児童に、作者の言い方を借りると「スティグマ」(私の言い方だと「トラウマ」)を与えない、思いやりのあるカッキ的な方法で、それでいくと、給食費未納児童への給食カットは、給食の理想の敗退、否、頽廃なんだそうです。まあ、実は富裕層への給食の目的はそれだけでなく、戦前の給食黎明期の給食提唱者によると、栄養滋養のある食べ物による富国強兵のための立派な体作り、が給食の根底概念としてあり、頁40、貧困層の体格が劣悪というより、むしろ中流以上の子弟のからだのほうが貧弱なので、好き嫌い言わせずなんでももりもり食べさせるために、同じ内容の給食を与えようということから始まってるそうです。

で、それで行くと、21世紀の日本の学校給食は、主にコスト面の理由から、自校調理室で給食のおばさんが作って児童が教室まで運ぶ配膳方式が減って、給食センターで一括調理してトラックで配送方式が増え、あたたかく、手の込んだメニューがどんどんなくなり、手をかけないメニューや冷食中心の、非常に劣悪な食事になりつつあるので、そんなもの食えるかカネ払えるかというところまで、いつ行き着くのか時間の問題ということになるのかなと思いました。

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私は、何故か、給食が食べれなくて、食べ終わるまで昼休み教室に残されるという光景を目にしたことがないです。そんなこどもクラスにひとりもいなかった。ララ物資の脱脂粉乳でなかったからと、残飯は豚の餌になり、残せば養豚業者は喜ぶので、誰も目くじら立てなかったことから来ていたと理解しています。その代り、ジャムやマーガリンのビニルパックやストローなどの残飯への混入には厳しかった。

世の中にはそうでない学校のほうが多いそうなので、おつかれちゃんと思います。

頁11、本書の先行研究にない特色として、災害対応の日頃の危機管理として、給食のPDCAサイクルが回っていること、を突っ込んでるそうです。非日常時、戦時体制の食事補給のためのじゅうような民間防衛なんだとか。学校は民間じゃないので、そうは書いてませんが。

和気藹藹と楽しげに、生徒が配膳生徒が片付けをする日本の給食教育は、児童の情操教育、徳育の理想形だそうで、配信されるその動画は、全世界に賞讃されてるんだそうですが、それもこれも、胸はずむ献立が前提ですよね。まずいのでこっそり教室の後ろのゴミ箱に捨てて、放課後小遣いで買い食いするしかない給食では、そんな光景が現出するはずもない。

世界の給食の中に、頑固に弁当をスチームで温める中華民國方式は出てこないのですが、頁42、初期の日本の給食論者の弁当批判の一説、凍った弁当を食べさせるのもかわいそうだが、半日ほど加熱保存するあいだに食品が酸化腐敗する不衛生の問題を如何するか、に対する台湾教育関係者の反論を個人的には聞いてみたいです。幸福路のチーとか、なんというかな。大陸は寄宿生が学食でスプーンで、箸がうまく使えなくなるという、日本の先割れスプーンにも通暁する問題があったかと。あとイギリスで、外部委託するとすぐコストカットで劣悪な材料になる問題は、学食のピンはねとして中国各省各城市も持っていたはずです。

日本の箸うまく使えない問題は、先割れスプーン世代より上から始まってるので、戦後の混乱期、戦後ララ物資による給食体制が整う前の世代がまずうまく使えなくて、その世代の教師が、糊塗隠蔽するために、児童の箸の持ち方を見て見ぬフリし続けた結果だと個人的には思ってますが、検証出来ません。

世界の給食では、中国は出ませんが、韓国の、日本より先を行ってる部分が紹介されているので、韓国が嫌いな人はいやかもしれません。それは何かと云うと、頁26、2016年3月時点で、無償給食の全国に占める割合が、小学校で95.6%、中学校で78.3%というデータです。韓国が嫌いな人は、韓国の児童給食が民間委託から直営に切り替わった契機が、2003年と2006年のソウルの集団食中毒事件を受けてのものという記述で、留飲を下げてけさい。

集団食中毒の原因は「ノロウィルス」 イイダコに付着と推定 l KBS WORLD Radio

「すかんタコ」「いやいや僕はいいダコ」Ⓒ町田康

あとは頁24、レーガノミクス以降のアメリカで、コストカットから質が低くて高カロリーの食材が増えた米国の公立校給食で、献立が「ハンバーガー、フライドポテト、ピーチ、プレッツェル」「スパゲティミートソース、インゲンマメ、パイナップル、ガーリックトースト、バニラプリン」「フライドチキン、マカロニチーズ、キャロット&キューカンバ、アップルソース、動物性ビスケット(何?)」というようなメニューになり、ニューヨーク州の公立小学校に通う児童の50%が肥満児というデータが、下記に書いてあるそうなので、またそんな煽ってからに、家庭の食事内容も鑑みんと科学的やないやろ、単なるプロパガンダ困るやん、と思いましたが、調べるつもりはないです。

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

 

 けっきょく、少子化で、身近に子育てしてる人が減りましたので、みんな人ごとレベルになってるのが、今何か起こってるとしたら、その本質だと思います。公立校で育ててる人だけがキリキリ舞。以上

【後報】

茨城県に、瓜連と書いて「うりづら」と読む地名があると、頁77に出てきます。国民学校長にありながらフィリピンに召集され、戦後小学校校長に復職して、食の重要性を痛感したことから、1958年文部大臣賞を授与されるまでに給食の発展に貢献した、平山義重の箇所です。喜連瓜破と似た地名なので、大阪人は面食らうと思いました。

(同日)