映画「シューマンズ バーブック」(原題:SCHUMANNS BARGESPRÄCHE)(英題:BAR TALKS BY SCHUMANN)劇場鑑賞

http://crest-inter.co.jp/schumanns/
邦文トレイラー ドイツ映画だそうです。

カラッとした暑さで、風が吹いていて、蚊もいないし、ほんといい感じだなと思いながら千円デーに映画を観に行きました。ホントはこの前のラブレスも見る予定だったのですが、あまりにいい陽気なので用事を済ませた後くたっと寝てしまったので四時四十五分のラブレスには間に合いませんでした。モスクワ郊外の21世紀の風景を確認する以外、ラブレスを視る目的はないかったので、まあそれでもいいかなと。見てたら寝てたと思います。
で、カラッとした涼風の吹く夕暮れと思ってたのですが、前の席の人が、蒸し暑くてまだ熱気が籠ってる感じがすると言ってまして、えーそういう受け取り方の人もいるのか、ホント百人百様だと思いました。小さな小屋のレイトショーで、どれくらい入るのか新百合は初体験でしたが、川崎郊外のベッドタウンは、けっこう人が来るんだなという感じでした。宵の過ごし方としてよい映画だったかと。

NY、パリ、ハバナ、東京――旅する伝説のバーマン
世界中のバーでバイブルとなった革新的レシピ本の著者であるレジェンド、チャールズ・シューマン。自由に生きてきた男が起こしたBARの革命。

パリ全然覚えてません。
いろんなバーテン(バーマンという言い方もあるのでしょうが、バーテン、バーテンダーでもよいと思ってます。クラブキッズとクラバーはまた別の話で)がカメラの前でカクテルを作るのですが、板前とバーテンの違いは、客の目の前で魅せながら作るから、動作ひとつひとつにケレンミを入れるんだなーと改めて思いました。まあ、シェフも、フランベとか「魅せる」人と店ありますが。
ひとり、袖から墨がむんむんのバーテンがいましたが、是非は語られません。NYとドイツ主体で進むので、イキオイ白人バーテンダーばかりで、どうここから切り返すのか見てますと、キューバの前に、英国皇太子妃が黒人ならこの人も黒人だろうというワイハー出身の女性バーテンダーが出て(映画観てる時は失念してましたが、女性の場合バーマンではないから、バーウーマンなんでしょうか。あるいはコレクトネスでバーパーソンとでも言ってるのか⇒「バーレイディ」と言ってたんじゃいかと思い出しました)そこが前振りになって、吉田ルイ子*1が、白人も黒人も同じ海水浴場でいっしょに泳いでると'70年代に驚嘆したキューバに話が飛びます。

独語トレイラー(独語の台詞の字幕は英文、英語の台詞の字幕は独文)

シューマンという人はドイツ人なので英独二か国語喋りますが、スペイン語もおkなようで、キューバでは、ポルケとかムーチョスグラシアスセニョールとか喋ってます。前バルサ監督のグアルディオラがルイス・ブリュエルの朗読する場面とか、唐突に入りますが、それがなんというか、自分がバーにいる感じとでもいいましょうか、向こうのテーブルで何かが始まってる感を味わう感じでよかったです。

英語トレイラー(字幕が少ない版)

しかしこの映画は、吉田ルイ子を連想しましたが、吉田類も連想する映画で、大きな違いは、吉田類は客としての一線を崩さず越えませんが、シューマンは自身もサーブする側でありながら、ざっくばらんに同業者の店でそれなりにキツい質問をしながら、接客業、サーヴィス業の奥の深さを見せてくれる点です。この映画は、酒映画というと、語弊があります。サービス業、接客業に携わるすべての人に向けて、研鑽を称える内容の映画だと思います。

シューマンズ バー ブック

シューマンズ バー ブック

「こういう客はイヤだ」な客を、丸めこんでおくびにも出さないのがまず出発点、みたいな人たちがばんばん出てきますので、そこがとてもよかった。専門学校出たらすぐワーク、ジョブとして働けると思ってたが全然修行なので「はなしちげーよ」とか言ってロッカー荒らして出てくみたいな描写から始めてたら、一週間たってもこの映画の冒頭にも入れないので、そこはもう違いますでオシマイです。

新百合

道場六三郎が名店板前を巡るみたいな番組だと少し近いのかな。一人日本人で、本人シューマンとやり合うほどの英語は出来ませんが、他流試合というか、別の流儀でやはり一国一城みたいな人が出て、シューマンは「ふむふむ」とは言ってますが、吉田類みたいに「いやあ大将感服いたしました、おいしいお酒です」みたいなことは一切云わず、さいごまで火花バチバチで面白かったです。

同 夜

私はニューヨーク行ったことありませんが、この映画で見る限り、わりと普通の街だと思いました。たぶん一生行かないだろうな。
英語ドイツ語スペイン語、そして私たちは字幕なしで判る日本語、一ヶ所くらい、ヴェニスかどっかの大規模バーでイタリア語も出るかな、パリは全然記憶にありません(ヘミングウェイの店のオーナー、フラ語話さないじゃないですか)という映画で、バーテンと同じくらいたくさん、バー経営者が出てきます。金主でなく、経営者。バーの盛衰をライター等の語りで述べてゆくくだりがあり、1800年、19世紀からバー文化、カクテル文化が始まった、主に冷蔵庫の発展とともにバー文化は伸長した、米国のそれは禁酒法で一度断絶した、で、戦後が面白かったのですが、ディスコより先に、たぶんビート世代なんでしょうが、'50年代ドラッグによってバーカルチャーは瀕死状態に追い込まれたとありました。酒はドラッグの代用品と考える若者の台頭だそうです。いやー耳が痛かった。で、その後ディスコカルチャー。米国も、日本同様、オオバコ化して云々とあり、日本同様というか日本が真似たのか? まーどーでもいーやと思いました。
シャコタンブギで、あのマンガは登場人物が年を取らないわけですが、その取らない年齢で、三回くらい、ディスコ文化全盛の六本木と、その後の陰りが見えて経営者やオーナーが金主に頭下げて回る六本木、全国展開を閉店して回って帰る六本木、ヴェルファーレの六本木と、三回くらい上京バイトする話があって、これはとてもよかったと思います。スツールで皿でメシ食って、食事十分タバコ五分の休憩とか、今読むとなかなか生活誌の記録になってると思う。殺人的な忙しさを体験してるかしてないか、順応出来たか出来てないかは、けっこう大事だと思うのですが、でも出世とはなんの関係もないんですよね。出世の役には立ちません。
接客業として、バーというのは、往々にして客との距離が近すぎたりしがちで、シューマンはそれが嫌いだそうですが(同感です)それについてどう思うかいろいろ若手のバーテンらに訊いて回る場面があり、私はそこも好きでした。節度ある礼節を保てれば、それがよしと思うです。水商売って、バーに限らず、常連だけ見てやる店は、アレですから。
「大切にすべきは、自分が逃した客である」
一見理想論精神論のようですが、ここまで考えてやってるなら、新宿ゴールデン街で人寄せパンダになったりする場面も、許そう、と思います。ドイツ人だからこんなラシオナルになるんでしょうか。夜、こうやってアタマを空っぽに出来る映画を観れて、よかったです。以上

*1:

ハーレムの熱い日々 (講談社文庫)

ハーレムの熱い日々 (講談社文庫)