「ウインド・リバー」(原題:"WIND RIVER")劇場鑑賞

夏に銀座に行った時、有楽町のビックカメラの上の映画館でかかってた映画です。同行者(アンチ万引き家族)が、この監督の前の映画は面白かったので、これもきっとおもしろいよと言っており、その時はサービスデーじゃなかったので見送りましたが、新百合ヶ丘に来たのでメンズデーに観に行きました。初監督作品だそうで、それまでは脚本で評価されてきた人だとか。
全米4館からスタートして公開四週目には2095館まで拡大した、カメラは、止めない、みたいな逸話で、日本でもどう噂が伝達されているのか、失礼ながら、アルテリオの整理券で六十五番越えは初めて体験しました。みんな、よい映画には鼻が利く。

ポスターとチラシの文句
なぜ、この土地ウインド・リバーでは少女ばかりが殺されるのか――
世の中から忘れられたアメリカの闇を描いた極上のクライムサスペンス

アルテリオの映画紹介
ネイティブアメリカンの保留地ウインド・リバー。白人ハン
ターのランバートは人里離れた雪原で若い女性の死体を発見
する。彼は、新米女性FBI捜査官ジェーンに協力し捜査を
開始するが…。ネイティブアメリカンの女性を取り巻く闇を
告発する傑作サスペンス。

さすがに「極上」はどうかということで、新百合では「傑作」に。Wikipediaの映画紹介では、サスペンスでなく「スリラー」になっています。英語版だと、"neo-Western murder mystery"です。
ポスター見て、アラスカかな〜なんて思ってましたが、ワイオミングだそうで、しかし要するに寒いことには変わりないです。ユタ州の上だからそりゃ寒いだろうと。そこのインディアン居住区です。ネイティヴアメリカンが住んでるんですが、看板が"WIND RIVER INDIAN RESERVATION"です。パンフにその看板はばっちり採用されています。星条旗が上下さかさまに掲げられてはためいてる印象的な導入シーンがありますが、このカットはチラシでも採用されており、パンフでは心臓ともいえる南山大学人文学部の川浦佐知子教授によるネイティヴアメリカンについての基礎知識のページに使われています。「インディアン保留地」「強制移住」「ウンデットニーの虐殺」19世紀半ばまで、先住民集団は主権国として合衆国と条約を取り結ぶ関係にあった。現在、合衆国に存在する567の連邦承認部族はそれぞれ部族憲法を樹立し、部族議会による自治を行っている。ネイティブアメリカン部族と合衆国は政府間関係にあり、部族メンバーであると同時に合衆国市民であるという二重のシチズンシップをもつ(以下略)子どもを親元から引き離して寄宿学校で行われた同化政策に基づく教育においても、伝統文化や部族言語は徹底的に否定された。←アルコールや薬物依存の背景として語られる伝統喪失。19世紀以降、部族の伝統儀式は厳しく制限され、儀式執行が見つかれば食糧配給の停止や投獄といった刑が下された。「伝統の復興」「ペインティング」保留地内での天然資源開発ウラニウム工場汚染etc.前回東京五輪一万メートル金メダリストはラゴタ・スー族のビリー・ミルズで、1930年代にはボストンマラソンで二度優勝したナラガンセット族のエリス・ブラウンもいて、ネイティヴアメリカンにとって、長距離走は単なるスポーツではなく、祈りである、という、本映画の核心部分に関する解説。中国のチベットと似てるな〜という。国家規模がある程度まで達すると、やることも似るのかという。チベットに仏教がなく、ボン教シャーマニズムだけだったらこんな感じになるのではないかと。エリオット・パティスンの、元刑事の漢族囚人探偵が主人公のチベットミステリーシリーズも、そこに踏み込んで諸事情で邦訳されなくなってる感じでしたかと(あるいは売れなかったから中止)

何故かドイツ語版予告だと看板や星条旗が映ってるので貼っておきます。

ウインド・リバー Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%83%90%E3%83%BC
公式 http://wind-river.jp/

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/2/2e/Wind_River_%282017_film%29.pngアラスカだと思ったら違うことがすぐ分かったのですが、一面荒涼とした雪原とステップで、SUVというかランクル以外頼れるヴィーコーがなくて(ふつうの乗用車で移動は貧弱な感じがしてコワイ)、みなけっこうスノーバイクをけん引して走って、公道から外れた先はスノーバイクで移動、住む家は圧倒的にトレーラーハウスが多い。富山県カンボジアか、というくらい家と家の距離がある「散居」…街道沿いに隣り合わせに家を建てたりしない。まずそこに、舌がひりつくような感覚を覚えました。これはいい映画の導入です。

企業の掘削地への「関係者以外立ち入り禁止」の看板
RESTRICTED PROPERTY WEST CENTRAL FUEL NO TRESPASSING

若きチャンネーのFBI捜査官というと、どうしても羊たちの沈黙ジョディ・フォスターを意識してしまうのですが(あれは訓練生か)、この映画のオルセンサンも、じゅうぶんにそこは意識してるかと思います。
遮蔽なき撃ち合いはもちろんレザボア・ドックス。レザボア・ドックスじたいも何かのリスペクトなのかもしれませんが、そこまではすいません知らんです。
意識せんでええおまいは、と思ったのは、ピート役のひとの逆シャイニング。私はキューブリックの映画で、シャイニングと、バリー・リンドンはたぶん見てないのですが、それでもここは逆シャイニングだと思いました。
こうやって、不謹慎だけれども、でもぞんぶんに味わえる映画になってますので、「極上」はダテじゃないと分かるわけです。
そして、日本語版の煽り文句だと、少女は弱い存在でだけ扱われちゃうんじゃいかとも思うんですが、それが本編で、テンマイルというキーワードによってくつがえるわけです。ここで、彼女は、その尊厳と、名誉と、誇りを、観客全員に周知させるのです。これがなかったらこの映画はないと思う。"10 miles"があることで、映画は精彩を放ち、観客は魅了されると思う。オトーサンはペインティングの仕方を知らないし、兄はどう見ても黒人とヒスパニックの血のほうが強いとしか見えないのですが、過疎の農村の近くに突如出現した、むさくるしいやもめがたむろする飯場という、どこにでもあるテーマにせず、雪の居留地にして、その誇りを見せたところが、この映画の素晴らしい所だと思いました。以上

【後報】
ほかの方のブログでもこの映画を、この日付より前に紹介されてたのを見逃してましたので、トラバします。

特別な1日(Una Giornata Particolare)2018-08-27
まるで叙事詩のような:映画『ウィンド・リバー
http://d.hatena.ne.jp/SPYBOY/20180827/1535361859
(2018/10/10)