『ソウル・サランへ』▨日韓結婚物語 서울 사랑해 読了

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/81dKLLdll-L.jpg装丁 犬塚勝一
表紙写真 奥野安彦
三章四章を除く本文写真は、作者のつれあい、柳銀珪撮影。
あとがきあり。
関川夏央『中年シングル生活』によると、作者は、編集者がつけた、売らんかな主義でソウルとサランヘを並べただけのタイトルをアレしていて、韓国版では、「ひとつの布団にふたつのマクラ」という、実際に韓国の夫婦がそうやって寝てる(別々の布団に寝ない)習慣をタイトルにしたそうです。出版社が大手でなく亜紀書房ですので、そんなことしくさんともよかろうに、と思わないでもないです。どうでしょう。

ソウル・サランへ―日韓結婚物語

ソウル・サランへ―日韓結婚物語

版元公式
http://www.akishobo.com/book/detail.html?id=656&kw=%E6%88%B8%E7%94%B0%E9%83%81%E5%AD%90
戸田郁子 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%B8%E7%94%B0%E9%83%81%E5%AD%90
下記は2015年の二人の画像。作者ご本人だけなら、今年10月の画像が検索トップであったのですが、せっかくだから、二人のがいいなと思って。宿六の人は東直巳みたいに老いたのだなと。
http://enews.incheon.go.kr:9080/upload/article/37135563756306531433e81431934076563063ef996728.jpg
仁川市当局によるインターネットニュース 2015年10月29日
커피로 그리는 인천 萬畵
인천아줌마로 정착한 관동갤러리 도다 이쿠코 관장을 만나다

http://enews.incheon.go.kr:9080/publish/php/articleview.php?idx=10878&diaryDate=2015-10-29
ウッチャ通信の時は、戸田郁子をハングル読みしてホジョンウッチャでしたが、本書表紙ではトダイクコをハングルで書いて「도다이꾸꼬」です。日韓は人名地名の呼び方に関しては、相手の読み方を互いに尊重です。かつて韓国が日本人の名前や日本の地名を日本語読みしていたのに、日本人は韓国の地名や韓国人の名前をハングル読みしてくれない(りしょうばんラインとかぼくせいきとかぜんとかんとかきんだいちゅうとか)、一方通行の片思いやんけ、との声を受けて日側の放送協会とかがまるっと前向きに善処した結果と聞いています。これが日中にはない。中国人は日本人の名前も地名も北京語読みなのに、日本人に中国人の名前を北京語で読めと言われても、それは漢字文化圏のルールちゃうです。漢字はどこでもご当地読みが鉄則で、邦人に中国人の名前を北京語読みさせるなら、中国人も邦人の名前を日本語読みすべきで、その相互ルールがまず二国間で確立されなければいけないと考えます。放送協会とかの民間でもいいんで。話を戻すと、本書表紙の作者名ハングルは「도다이꾸꼬」ですが、検索すると、トダイクコは、だいたい「도다 이쿠코」です。コーヒー鼻血、否。

『ふだん着のソウル案内』表紙のウッチャ通信部分拡大。

『ソウル・サランヘ 日韓結婚物語』作者名ハングル表記部分拡大。

頁317 あとがき
 時々私に、「頑張って日韓の架け橋となってください」と言う人がいるけど、正直言って、私は日本と韓国の間の人柱になる気は毛頭ない。韓国人のつれあいを得たから、韓国問題を語らなければならないと意気込んでいるわけでもない。韓国人と結婚することで、自分が免罪符を得たとか十字架を背負ったという気持ちもまったくない。たまたま私にとって、人生のパートナーが韓国人だったというだけのことだ。

こう語りつつも、動く人は動いてしまうもので、上記のインチョン市ニュースや下記の幻冬舎の作家紹介などを読むと、ギャラリー開いたりなんだり、忙しく活動してるのだなと分かります。おそらく韓国で出版したのでしょうが、写真集『延辺文化大革命』は読んでみたい。

戸田 郁子 | 富裕層向け資産防衛メディア | 幻冬舎ゴールドオンライン
https://gentosha-go.com/ud/authors/583671287765612baa000000

数年前に神保町で講演だかサイン会やった時駆けつけたファンの方のブログなども拝見し、すごい人であると認識を新たにしました。
http://ojsfile.ohmynews.com/STD_IMG_FILE/2014/0928/IE001757823_STD.jpg
オーマイニュース 2014.10.03「731부대 유적지, 볼수록 우울합니다
http://www.ohmynews.com/NWS_Web/View/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0002037891
ハルピンの侵華日軍第七三一部隊罪証陳列館で献花する作者。

頁46
(前略)そのせいか私たちもたびたび、統一教会員ではないかという質問を受けたりする。
 あるいはこれは韓国では国際結婚とは言わないのだが、在日コリアンと韓国人との結婚も多い。この場合在日コリアンの国籍が韓国であるため、手続き上は国際結婚にならないだけの話で、異文化に育った者同士の共同生活では、当然国際結婚と同じ葛藤がある。
 たとえば自分の食べたい料理を一生懸命作ってみても、相手にそのおいしさが伝わらない。相手の望む韓国料理を作ってみた時、自分では結構うまくできたと思っても、相手はどうも一味足りないと言う。
(中略)しかしこの問題も、時がたつにつれてお互いの好みが自然に折衷してきて解決できる。

頁44
 巷に、戸田は韓国に住みたいがために偽装結婚したという噂があることは、やっぱり彼には内緒にしておこうと思う。

頁63
思わず友人に、「今私は、正真正銘のパンチョッパリ(直訳すると半分日本人。在日コリアンの卑称)だよ」と自慢したりした。

むちゃくちゃだよ、と思いつつ、それがここちよかったり。

頁122
(前略)「私は日帝三十六年の罪を償うために、韓国に奴隷に売られてきたのよ」と自らを慰め(?)つつ、それまでなんとかやってきた。

邦人がこざかしげに日帝36年と言うと、「36年じゃないっ!準備期間も入れると41年ですう!」と潰しに来る人がいるので注意。私の体験談です。

出だしからこんな感じなので、後年731とかでも堂々と出来ると。私は昔、中国の博物館が外国人料金と中国人料金に別れていた頃、侵華日軍南京大屠殺遭難同胞紀念館に中国人料金で潜り込もうとして速攻バレましたが、もぎりの姉ちゃんは苦笑いだけですましてくれました。けっこうどこの博物館も、あやしいと思ってもめんどくさいので、日本人がカタコト漢語や筆談(!)で中国人料金で切符買おうとしても、売ってくれるのですが、南京だけは厳格だと聞いていたとおりでした。

頁53
 私たちはすでに結婚して二年以上になるが、いまだにつれあいは親や兄弟からこんなことを言われるそうである。
「あの子にはたった一つ欠点がある。それは日本人だってこと」
「子供が小学校に通うまでには、なんとかして韓国籍に変えられないかしらね」
 これがつれあいの家族の偽らざる気持であることは、私もよく理解している。

作者は韓国籍もとれるのに日本国籍を死守して、確かに韓国オトコのヨメの外人に自然付与される(当時)韓国籍を放棄したんだかなんだったか。この本が韓国でベストセラーになって、執筆も内容も家族に秘密にしてた作者はしかし、その後も現在に至るまで夫婦和合であるので素晴らしいと思います。ハルピン生活は、一時的にほとぼりをさます意味もあったのかも。頁62、韓国華僑が韓国ナムジャと結婚して韓国籍をゲットする有名な例として、歌手の周荽美と女優の夏希羅を挙げています。

頁168
 一般的に韓国料理は辛いし塩辛いもので、日本料理は薄味であると思い込んでいる人が多いかもしれない。私もそう思っていた。もちろん家によって味付けの違いはあるだろうが、この頃ようやく、韓国料理は辛いけれど薄味のものも多いということに気付くようになった。
 ずっと前にチョーヨンピル趙容弼が日本に来た時に何日か通訳をしたことがあったのだが、食事のたびに彼が日本の味噌汁を飲んで、「塩辛くて飲めないからお湯で薄めてくれ」と言うのを聞いて、「どうしてこれが塩辛いんだ」と全然理解できなかった。
 ところが何年か韓国料理を食べつけたら、時々日本に帰って外食すると、うどんの汁や味噌汁がすごく塩辛いと感じる。

ネトウヨでもなんでもないのに韓国が大嫌いな人たちの一パターンとして、犬好きな日本人は韓国の犬に対する考え方が堪えられない、知ってしまうと信じられない非難ゴーゴーなんだろうと、第6章ワンワン物語を読んで思いました。食用うんぬんは置いても、「犬泥棒は泥棒じゃない」という言葉があるとか(花盗人とだいぶ違うし、西部邁が生前言ってた、本の万引きは知へのナントカだからなんとかみたいな言葉とも違う)人間の都合で勝手に去勢するのはかわいそうと言いつつ、犬が病気になったりすると簡単に賣っぱらうし、去勢しないで増えても賣っぱらうのはどういうことよ、とか、犬は二君に仕えずはハチ公に毒された日本人の戯言で、韓国では犬の転売が当たり前なので、有償譲渡先のご主人様にその都度仕えなければならないのが韓国のわんわんだ、とか。

頁143、韓国人は赤ちゃんのへその緒も初めて切った髪の毛も捨ててしまう、日本人のようにとっておいたり筆にしたりしない、という個所は、嫌韓コピペで見たことがなかったので知りませんでした。へその緒、とっとくのは日本人だけなのかなあ。前にへそのないアメリカ人を見て、アメリカの産婦人科はへそのないツルツルおなか人間を作れるのかとおそれおののいたことがあります。

頁180、まだ若い作者の友人の死の話。お墓というのは代々チェサ祭祀をしてくれる子孫がいる場合に作るもので、結婚しないで死んだ場合子孫がいないので、当然お墓は作らないんだとか。ここも知りませんでした。

頁149、作者のつれあい宿六の姓はヤナギの柳なのですが、北朝鮮みたく、「リュ」とルビを振っています。ユ・サンチョルとか柳美里の「ユ」ではなく「リュ」ここの説明は最後までなかった。この頁で本貫について書いてるので、北なのかな〜とか思いながら読んだのですが、書いてなかった。

頁204、日本では聖地巡礼的な旅行商品は金輪際成立しないだろう、と未来予測を書いていて、昨今のお伊勢参りをはじめとするパワースポットの旅を鑑みるに、この予言は外れたとみてよいだろうと思います。

頁268、日帝と日製は発音が同じ、と書いてから、美帝と美製も発音が同じ、と天丼しています。漢語ではこの二つの単語は同じ発音ではありません。そして日製より"日貨"を使うだろうと思います。抵制日货。

作者は統一教会の合同結婚にけっこう言及していて、

頁51
 それにしても、どうしてこう同じタイプのカップルばかりなのかと首を傾げたくなるほど、日本の女性は皆色白で痩せ型、メタルフレームの眼鏡をかけており、韓国人男性はま新しい明るい紺色のスーツに真っ赤なネクタイで、真っ黒に日焼けしていた。統一教を信じれば花嫁を世話してくれると聞いて、「にわか信者」になった農村青年も多いと報じられていた。
 彼らは今頃どうしているのだろう。私にとってはそれこそ、桜田淳子山崎浩子のその後より、よっぽど気になってしまう。

頁164で、チャムシル(蚕室)という、超ごーか発展発展また発展の郊外おハイソ地帯に住む作者夫妻は、いかにも韓国韓国した料理ばかり食べずに済んでるのですが、地方だと大変だろうなあと案ずる箇所で、作者が心配してるのは農村に嫁いだ統一教会の日本人女性です。
頁210で、作者が合同結婚式に参加する統一教会日本人信者にインタビューした時、相手が日本人男性になった日本人女性は、実はけっこうほっとしてた、というホンネの個所がよかったです。
頁209、延辺大学図書館は文鮮明が寄付したとは知りませんでした。ここで作者は、????一和は反共じゃん、と目がテンになっていて、私も読んで、原理は反共じゃねーよ勝共だよ、とトンチンカンな脊髄反射をしましたが、ともかく、後年この宗教が北朝鮮に入れ込む素地は既にしてあったのだなとも思いました。

作者にひっぱられて、だいぶむちゃくちゃな箇所を引用しましたが、一度きりの人生なので悔いはなかったのであろうと。いいなー、おうらやましいです。しかししかたない。以上

2018-10-09『ふだん着のソウル案内』読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20181009/1539059723
2018-10-21『中年シングル生活』読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20181021/1540121399