編集 藤井久子 ブックデザイン 文平銀座+鈴木千佳子 カバーイラストレーション 鈴木千佳子 DTPの人の名前も奥付に載ってます。
チョン・セランの本。『シソンから、』の読書感想もまだ書き終えてないのですが(ハングルの中国人への罵倒語「チャンケ」に関する考察だけ書きました)こっちも読み終えました。これが著者の初邦訳で、亜紀書房以外からの邦訳です。近隣の図書館にはなくて、版元在庫ありなのですが、本体2,500円税別に、さんざん悩み、ブッコフが古書店の相場¥1,250を価格調査した上で¥1,150と刻んだ値付けをしてきており、ブッコフなら店舗受け取りで送料もかからないので、ブッコフで買いました。
雨の日にかばんに入れてたりしたので、帯の右下が少し擦り切れました。そういえば、『フィフティ・ピープル』を人から勧められたころにチョン・セランを検索すると、『桐島かれん、部活やめるってよ』の作者とのトークイベントなどが出て来たものでした。何者は亜紀書房のシリーズには特に褒め殺し文句寄せてないと思います。「ユーたち、つきあっちゃいなよ、青春じゃーん?」みたいなオッサンがいて、「ハァ? ジジイタヒねよ」みたいなエピソードはないと思います。
かなりめんくらったのですが、作者も作中の舞台になった一山ニュータウンで育ち、坡州の出版都市で働いていたそうで、どこまで反映されてるかは分かりませんが、私小説の色合いも多少あるのかなと思いました。
まったく関係ありませんが、私も統一展望台に行ったことがあり、金村駅から行ったのですが、タクシーの運ちゃんに、留学生がそうやってハングルもろくにしゃべれるようになってないのに物見遊山にばかり出かけるのはいかがなものか、と、キョッポでなくイルボンサラムのトラベラーと言ってるのにべらべら決めつけで言われたこと、金村駅の「金」が「キム」でなく「クム」금で(金剛山なんかもクムですね)「朴」という字は北京語ではpuで、しかし韓国北朝鮮に多い姓の「朴」の場合はpiaoと呼んで区別しているけど、「金」はjingとしか読まないなあ、なんでだろハングルや日本語では「金」は二通り読み方あるのに、と思ったこと、ソウルからの電車内で、通路に立って何事か口上を述べたあと乗客ひとりひとりにエンピツを売りつけに来る物売りがいて、帰ってからソウルの知人にその話をすると、以前は生活に困っているという口上のそういう物売りが車内で出ていたと聞いていたが、まさか今でもいるとは… と腕組みしてしまったこと、などが思い出されます。エンピツの話は、京都の市バス車内で回数券をバラ売りに来るショボイい商売の老人女性の話を聞いたときにも強く想起しました。
私が降りた時の駅舎はウィキペディアに載ってる今のではなく、前の時のです。
구 금촌역 VS 현재 금촌역 - 인스티즈(instiz) 인티포털
この話もまた群像劇ですが、『フィフティ・ピープル』から後の作品を読んで何となく感じていた、この作者もまた、嵐のあとの人なのだろうかという気持ちと、作中の事件が中二病の創作なのか、類似した事件がほんとうにあったのかなど、考えたり考えなかったりしながら読みました。
まちがいさがし。左が帯つきのカバー折で、右が帯なし。一箇所ふしぎな誤植があるので、探してみてけさい。すぐ分かります。睡眠不足でペーストしてしまったとしかいいようのない誤植。
上は、原書と邦訳を並べた写真。邦訳のほうが後からなので当たり前といえば当たり前ですが、韓国の編集者が考えた題名でなく作者がもともと考えた題名になっているのみならず、表紙絵も、高校時代主人公がそればっか着ていたという、💀骸骨柄のプリントをイメージした絵になっています。アンダー、サンダー、テンダーというタイトルは、作中主人公が趣味の動画撮影をまとめた作品に付けた題名で、サーターアンダーギーとも、アンダーサーティーとも、ティーンエイジャーとも、関係ないです。たぶん。テンダーロインステーキともたぶん関係ない。
主人公は一眼レフで動画を撮るのが趣味で、ハンディカムのビデオやスマホだと相手は警戒するが、一眼レフを動画モードにして放置していても、相手はそんな気にしないんだそうで、そらそうだ、私も一眼レフで動画が撮れるとは知らなかったです。
で、まあ、それと並行して、うれしはずかしハイスクールデイズのモノローグが続くという構成です。主人公の生家は「ビビンククス」屋を営んでいて、私が耳で聞くぶんには「ピビングクス」なのですが、プロにはプロの書き方のルールがあるのでしょう。しかしコングクスやカルグクスは、コングクス、カルグクスと書いている。なぜピビングクスだけビビンククスと書いてるのだろう。
頁60に、いじめで上履き隠しに遭う子が、なので上履きを上履き入れに入れず、いつも持ち歩くという描写があり、私は上履き隠しをしたこともされたこともないですが、常時携帯などという防御法があるんだなあと感心しました。
頁97に、フェイ・ウォンが、ハングル読みのワンビというルビで登場し、いつぞや見た「チャンシルさんには福が多いね」という映画で、レスリー・チャンの幽霊が「チャングギョン」とハングル読みで登場するのに噴き出したことを思い出しました。でもこの小説(の邦訳)、ウォン・カーウァイはウォン・カーウァイと書いてるんですよね。なんで王菲がワンビなのか。
「チャンシルさんには福が多いね」《찬실이는 복도 많지》"LUCKY CHAN-SIL" 劇場鑑賞 - Stantsiya_Iriya
訳者の吉川凪という人は、たとえば検索では下記が出ます。
meeth WORLD CONNECTION | J-WAVE ACROSS THE SKY : J-WAVE 81.3 FM RADIO
留学してた大学があるのは、戸田郁子さんもお住いのインチョン。
この小説の注釈は七ページあって、例えば安藤忠雄やカウボーイビバップ、ピングー、バーバパパといった、注いらないじゃんと思うようなものから、雄宝香やノロキバといった韓国の自然、韓国ではスタンガンをテイザーガンとメーカー名で呼ぶという豆知識、繊繊玉手ソンソンオクスなどのハングル成語、「学校郵便」という制度が韓国にあるのかと思ったら、主人公の通った高校だけのローカルシステム、などなど、多岐に渡ります。取捨選択がたいへんだったと思いました。
それから、作者はほかの作品でもそうですが、ニッチ時代に教育を受けた文化人や、北に行った文化人も、平気でバンバン出すので、その面では全方位にケンカ売ってるのかもしれません。
原注の参考図書は四冊。
パク・ヒョヨプ『不穏な神話を好む』(クルアンハリ)2011、ホン・ソンミン『趣向の政治学』(ヒョナムサ)2012は、ハングル変換すら出来ず、探し当てるも何もという結果に終わりました。
頁136、犬の名前のブチは、意訳しただろと思いました。それとも、ハングルでもブチはブチなんでしょうか。
頁147
(略)実際の研究でも、先天的に中毒に弱い人は、ごく一部なのだそうだ。だから中毒する脳を持って生まれたのではないのに何かに溺れるなら、それは中毒の対象が問題なのでなく、ほかのストレスが原因であるらしい。
確かに依存症のデパートのように、新しい依存が社会問題になり始めると、飛びついたわけでもないのにそれになってる人はいるような気もしますが、パチンコはそれには当てはまらないと思います。
頁185から、韓国出版業界ボロカスこき下ろしが気の済むまで続きます。柳美里もくさしてた気瓦斯。
頁235、インドに住む韓国人の男性は、一定の年齢に達すると、現地で韓国人が失踪した際、全員捜索隊に参加しなければならないルールがあるんだそうです。戦前の海外邦人社会にもそういう相互扶助的しばりはあった気がしますが、戦後はなさそう。砂粒のようにバラバラ。韓国人のようにまとまるということがない。
頁246、ポーランド系アメリカ人男性が、太刀魚を十切れ食べる場面がありますが、骨や小骨はあらかじめとったのか、骨付きで供したのか、気になります。
頁255、手紙はハングルで、편지、便紙、ピョンジと呼ぶという箇所、ビョンジはともかく、便紙と書いて手紙の意味だと、韓国でなく中国でそういわれているとデマを聞いて育った気もします。ドラゴンボールの柱文句でも、鳥山明先生にはげましの便紙(中国では手紙の意味)を送ろう!が、鳥山明先生にはげましの信(中国では信と書いて手紙の意味になります)を送ろう!に変わった気がするのですが、模造記憶かもしれません。
頁275
頁207あたりから、主人公がこじらせるというか壊れるのですが、友人で死んだ人がいる、と、友人でひとごろしがいる、ではちがうものです。
亜紀書房のシリーズも、『八重歯が見たい』(덧니가 보고 싶어)『地球でハナだけ』(지구에서 한아뿐)は告知されているんですが、まだ出てません。「ドリーム、ドリーム、ドリーム」や『ジェイン、ジェウク、ゼフン』(재인, 재욱, 재훈)は告知まだな気がします。売れてないのかな。矢継ぎ早に出す必要もないので、ぽつりぽつりでも、根気よく出していただけたら幸いですがなくても困らないのでだいじょうぶです、です。気長にどうぞ。以上