『地球でハナだけ』『지구에서 한아뿐』"Han-A from Earth" 《地球只有韓兒(韩儿)》by 정세랑(鄭(郑)世朗)Chung Serang(チョン・セランの本 05)読了

亜紀書房 - チョン・セランの本 05 地球でハナだけ

装丁・装画 鈴木千佳子 邦訳者のすんみサンは、アルファベットだと"seungmis"になるそうで*1それをグーグル翻訳でハングルにすると、승미サンになりました。それでいいのでしょうか。主人公は勿論ハンナ・アーレント*2とは無関係で、ハングルサイトの本書関連記事をグーグル翻訳すると、かなりの頻度で「韓児」と訳してくるので、それがおかしくてテキトーに考えた漢語の題名も併記しました。

そのすんみさんの訳者あとがきによると、本書は2019年に出た『チグエソ ハナプン』の完訳で、2019年版は2012年版の改訂版とのことです。26歳の時に書いた小説をわざわざ36歳に改定したわけで、内容的にはフェミ的にそうとう攻め込んだ変更がなされているそうです。2012年版にあった、男性目線での女性の形容などの慣用句をバッサリ切り捨て、養子を迎えて新しい家族をつくる物語から、子どもシェルターを運営する話に改変したとのこと。少子化最前線国家韓国の女性意識。

右が2012年版の表紙で、真ん中と左は2019年版の表紙。2012年版は古書市場でバカッ高い値がついているそうですが、改訂版がこうも違うと、2012年版の値が下がることはなさそうです。

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上はなんか、韓国で本を売る時に作るエニメ絵の動画。こんなさわやかな感じは受けなかったのですが、それって私の感想ですよね。

もう二度とこれほど甘い話を書くことはできないと思います。

帯裏。あとがきの文章。一周回ってフェミなので、こういう感慨を抱いたのかもしれません。

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아마 다시는 이렇게 다디단 이야기를 쓸 수 없겠지만, 이 한 권이 있으니 더 먼 곳으로 가보아도 될 것 같습니다.
2019년 여름
정세랑

ネイバーにあった、あとがきの原文。文章を見ながら手書きでハングルを打ち込むのがめんどくさいので(キーボード表示が出なくなって、ぜんぶIMEパッドになったので㍉)画像をキャプチャーしてグーグルレンズでテキストを抽出したのですが、そうしたらもうウェブ翻訳が出来なくなりました。

「もう二度とこれほど甘い話を書くことはできないと思います」というより、

「もう二度とこれほど甘い話を書くことはないと思います」という感じかもと、

勝手に推測してましたが、やはり可能形で「出来ない」という文章のようでした。グーグル翻訳によると。「甘い話」は、イヤギがあるので、「다디단 이야기」タディダン・イヤギという原文のようですが、グーグル翻訳がタディダンを訳せないので、検索しました。

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なんだか知らないけど、チョン・セランサン的には冷めた感じなのか。タディダンは、チベット文学におけるダンディン支配と関係がないかしらとも思いましたが、たぶん絶対関係はなさそうです。

kotobank.jp

stantsiya-iriya.hatenablog.com

また、せんずりを意味するハングルも、タディダンみたいな言い方ではなかったかと思いましたが、それもまた模造記憶で、せんずりはタターリでした。

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あとなんだ、目次の前の、コピーライツのところに英題 "Han-A from Earth" があったのですが、それで検索しても本書の英訳は見つからず、「キャプテン・アース」というアニメの、夢塔ハナというキャラが出るばかりでした。

dic.pixiv.net

人間と宇宙人の、想像を超え時空を超えた一途でさわやかなSFラブストーリー。すんみ訳 君に会いたくて二万光年を飛び越えたんだ。

やさしい心を持つハナは、つき合って11年になる キョンミンに振り回されてばかり。 この夏休みだってハナを置いて、 流星群を見にカナダへひとりで出かけてしまう。そしてカナダで隕石落下事故が起こり音信不通に。  心配をよそに無事帰国した キョンミンだが、 どうも様子がおかしい。 いつもとは違ってハナを思いやり、 言葉づかいだってやさしい。 嫌いだったナスも食べている。 ついには口から 青いビームを出しはじめて......。

カバー折のあらすじと、誤植。誤植の周りは、食器洗いは米のとぎ汁に一晩漬けてエコ洗剤、航空機燃料と地球温暖化など、ハングル版意識高い系あらわるって感じの描写。

お話としては、高木彬光ハスキル人』を彷彿とさせる物語でした。

アマゾンのあらすじ

銀色の円筒の中に脳髄だけが入って宇宙旅行をしているハスキル。 地球にやってきての目的は、文明のレベルを上げること。 それによって巻き起こる周囲の反応

ハスキル人 (角川書店): 1977|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

紀伊國屋書店のあらすじ

高度な文明をもつ遊星から飛来したハスキルが起す奇跡の数々。その目的は何か?謎の宇宙人をめぐる虚々実々の駆け引き。サスペンスあふれる長編

ハスキル人は、ファム・ファタールというか、生島治郎における赤城のような女性に滅ぼされるのですが、チョン・セランがそれを読んで、「かわいそう。わたしだったらぜったいハスキル人ほろぼさないのにな。大切にしてあげるんだ」と思って本書を書いた可能性は限りなくゼロです。

それで、オチがイキナリグレッグ・イーガン*3になります。しかもそこで、もう一度、主人公ハナは、パートナーと共生する中で、自分の人生のイニシアチブを自分が握り続けることの困難さにあらためて直面します。ううむ。そう落として来たかという感じ。

頁26、「軌道」のルビが「オビット」なのですが、「オービット」と伸ばす方が普通だと思います。オービットセブン。

チョン・セランサンの小説は、知らざる韓国社会の重大事件が入って来るので(小さなセマウル号事件など)勉強になるのですが、頁44の国家情報院、世論操作団、選挙介入事件などの単語に注釈が添えられてないので、ややさびしかったです。KCIAの時代は終わり、世論操作団の時代が始まる。

頁143に「ダイナミックコリア」という、めまぐるしい韓国社会の変化を礼賛する形容文句が登場し、ダイナミックダイクマは知ってたけど、これは知らなかったと思いました。

ハナは両親宅にパラサイト寄生しており、両親は普通の人たちに見えるのですが、頁218に「家系的にお酒のトラブルがある」という説明があり、ここはハナが連続飲酒をする場面なので、( ´_ゝ`)フーンと思いました。

Xの晩年が、あまりに理想的というか、もっと苦しんで苦しんで死ぬこともあるだろうにと思いました。

以上