『ポジティブレンガ』《积极砖块》(積極磚塊)"Positive Bricks" by Hao Jingfang 郝景芳著(アジア9都市9名連結アンソロジー《絶縁》)読了

アンソロジークリーンナップ。なにしろこの人はヒューゴー賞受賞者ですから、村田紗耶香サンやチョン・セランサンより世界的には有名かもしれない。といっても、ケン・リウ(刘宇昆)という英訳フィルターを通してですが…

が、しかし私はこの人の小説を読んだことがなく、女性であることすら知りませんでした。今慌ててブッコフで『折りたたみ北京』注文しました。近隣の図書館にないのは不思議。

ja.wikipedia.org

www.youtube.com

マシンガントークをくらえっ! てな感じで、ぺらぺらさべり、話の腰を折ろうとするオッサンと戦うケイホウサン。中文字幕付き。李娟を訳してる河崎みゆきサンは、こういうチョンクオのブンゲー界が鼻持ちならなくなって離開上海なのかしらとは思いません。

こういうふうに、かんばせはネットに出回ってるのですが、本書の日韓合同バンセン動画にはこの人は出てません。また、本作はアンソロジー中ただひとつ、再録です。初出が2019年10月。2020年4月に貴州出版社から出た《長生塔》という短編集*1に収録。めんどくさいことに巴金も《長生塔》という童話を書いていて、先にそっちが出ます。

下記が本作原文。

www.chinawriter.com.cn

このアンソロジーの幾つかは、テーマである「絶縁」を、コロナカのロックアウトと位置づけてるのですが、カクサンはコロナカギリ前の発表作品を持ってきてますので、何がどう転んでも、コロナカとは無関係です。ゼロコロナ政策のアレとかワイトパイパーとか、関係あるはずもない。カクフカクサンジョウヤクは核不拡散条約と書く。

お話としては、私は諸星大二郎フリークなので、当然の如く『感情のある風景』を連想しますが、そうでない人はまた別の何かを連想するかもしれません。欧米人からよく、日本人は何を考えてるのか分からない、いつも薄ら笑い(微笑)を浮かべている、と、ひと昔前はよく言われたものですが、欧米人があいそ笑いとしないかというと逆で、日本人からするとキョーレツでドぎつい、口角をバッチリあげた、ハッキリした笑みを浮かべて、うれしいうれしいどうして私のためにここまでしてくれるのこんなプレゼント初めて、ね、私が今何を考えてるか分かる、とってもうれしくて感動してるの、と、全人類がキャバ嬢になったかのような歯の浮くお世辞をだだ洩れさせて、止むことがない(偏見)中国人が、日本人と欧米人どちらかに近いかというと、この点では後者で、しかし根暗な悲観主義もまた彼らの大好物なので、その点では日中はかなり共感しあえたりします。両方ある。

版元の紹介文

ポジティブシティでは、人間の感情とともに建物が色を変える。

本作は再録ですが、終わりに著者によるあとがきがあって、訳者による解説はありません。革命世代は、マルクス史観からか、明日は今日よりよくなると信じなくてはならないと教えられてきたわけだし、中国には「大団円」を以てヨシとすべき価値観もある。でもね、中国こそ、オモテとウラの毀誉褒貶はすごいんじゃーと言いたいんじゃー、という。

そういう事情を背景としたSF小説と考えてもらえばよく、ほんとうに今の中国は、アネクトードすらなく、エスエフだけが息をつける世界なのかなあ、という。

レンガは日本語では煉瓦ですが、中文ではそうは書かないです。磚。アーサーとウェスリーは、原文では漢語による音訳表記でなく、"Author"と"Wesley"。この話は原題をうまくカタカナの日本語に変えてますが、カクサンの既存の邦訳は、『流浪蒼穹』だったり『人之彼岸』だったりで、そのまま日本語で読み下すのが苦しいです。北京語でそのまま読めばいいじゃん、リウランツァンチウとかレンジービーアンとか、と誘いをかけられてる感じ。

帯裏 このアンソロジーは、中表紙の後ろに参加作家サン全員の寄せ書きがあり、上のカクサンのことばはそっからなのですが、どうも違う気がします。

「誰もが勇気を持って本当自分に向き合えますように」と帯にありますが、

“愿每个人都能勇敢真实地面对自己”と書いてあるのが原文なので、

「誰もが勇気を持ってちゃんと自分に向き合えますように」ではないかと。

「誰もが勇気を持って本当自分に向き合えますように」なら、

“愿每个人都能勇敢地面对真实自己”だと思います。原文とちょと違う。

まあ私の中文能力なんてダメダメなので、私の文法理解が間違ってるのかなあ。

以上

昨年秋にチベット文学の新作がないか検索した時、ラシャムジャの新作収録で出た本。12月の刊行直後に買ったのですが、春まで寝かせてました。一作ずつ感想を書きます。

装画=趙文欣 装丁=川名潤 

オーディオブック同時発売とのこと。

絶縁

絶縁

  • 村田沙耶香, アルフィアン・サアット, ハオ・ジンファン, ウィワット・ルートウィワットウォンサー, 韓麗珠, ラシャムジャ, グエン・ゴック・トゥ, 連明偉, チョン・セラン, 藤井光, 大久保洋子, 福冨渉, 及川茜, 星泉, 野平宗弘 & 吉川凪
  • 小説/文学
  • ¥2,000

絶縁 | 書籍 | 小学館

日韓同時発売とのことで、韓国版は、さいごにチョン・セランと村田紗耶香の対談が入ってます。表紙のイラストや掲載のじゅんばんはいっしょですが、作家の帰属表記について、日本語版は日和ってると言うか、上海で中国ビジネスを営む小学館的に苦しいんだろうなあという書き方で、ウェブには個人名しか載せてません。対して韓国は直球。例:「라샴자(티베트)─구덩이 속에는 설련화가 피어 있다」

www.aladin.co.kr

表紙のイラストを描いた人は上海在住とか。ではなく、今は多摩美に学んでるそうですが、今後どうされるのか。

photoandculture-tokyo.com

絶縁というテーマは言い出しっぺのチョン・セランサンが出したものだそうです。

【后报】

(2023/5/24)

【後報】

大久保洋子訳。

ハングル版は、日本語版をホン・ウンジュというイファ女子大仏文出で日本在住の翻訳者がハングル訳したとか。

www.aladin.co.kr

下がホン・ウンジュサンの紹介箇所。

홍은주 (옮긴이) 
이화여자대학교 불어교육학과와 동 대학원 불어불문학과를 졸업했다. 일본에 거주하며 프랑스어와 일본어 번역가로 활동하고 있다. 옮긴 책으로 무라카미 하루키의 《기사단장 죽이기》 《양 사나이의 크리스마스》, 마스다 미리의 《여탕에서 생긴 일》 《엄마라는 여자》, 미야베 미유키의 《안녕의 의식》, 델핀 드 비강의 《실화를 바탕으로》 등 다수가 있다.
(グーグル翻訳)
ホン・ウンジュ (移転) 
梨花女子大学フランス語教育学科と同大学院フランス語文学科を卒業した。日本に居住し、フランス語と日本語の翻訳家として活動している。運んだ本で村上春樹の《騎士団長を殺す》《両男のクリスマス》、増田ミリの《女湯で出来たこと》《ママという女》、宮部美雪の《こんにちはの儀式》、デルフィン・ド・ビガンの《実話を土台として』など多数がある。

下が翻訳スキーム紹介箇所。

『절연』의 작업은 각기 다른 언어를 사용하는 9명의 작가들의 작품을 각 언어를 전공한 일본의 7명의 번역가가 번역하고 그것을 도쿄에 거주하는 홍은주 번역가가 다시 한글로 옮기는 방식으로 이루어졌다. 편집 과정에서 의문점이 발견되면 일본의 편집자와 해당 언어의 번역자를 거쳐 저자에게 전달되고, 피드백이 역순으로 되돌아오면 다시 홍은주 번역가와 문학동네 편집부가 논의하는 식이었다. 쇼가쿠칸의 편집자와 문학동네의 편집자가 각기 국내문학을 담당하고 있어 서로 한국어와 일본어에 능숙하지 않았는데, 이때 동원된 것이 웹 번역기였다. 한국의 편집자는 한국어로, 일본의 편집자는 일본어로 쓴 수십 통의 메일로 의견을 주고받았다. 각국 작가들은 직접 촬영한 영상으로 인사를 보내왔다. 팬데믹 이후 동시적인 소통을 위해 급속도로 발달한 기술들이 활용되었으니, 『절연』의 작업은 말 그대로 이전 시대와 결별하는 일이었던 셈이다.
표지 그림은 상하이에서 활동하는 일러스트레이터 자오원신Zhao Wenxin의 작품이다. 같은 그림을 일본과 한국의 디자이너가 각국의 정서에 맞게 재해석해 디자인한 것도 눈여겨볼 만하다. 이번에 한국과 일본에서 동시 출간된 『절연』은 추후 작품집에 참여한 다른 나라에서도 번역되어 출간될 예정이다.

(グーグル翻訳)

『絶縁』の作業は、それぞれ異なる言語を使う9人の作家たちの作品を、各言語を専攻した日本の7人の翻訳家が翻訳し、それを東京に居住するホン・ウンジュ翻訳家が再びハングルに移す方式で行われた。編集過程で疑問点が発見されれば、日本の編集者とその言語の翻訳者を経て著者に伝えられ、フィードバックが逆順に戻ると、再びホン・ウンジュ翻訳家と文学近所編集部が議論する式だった。小学館の編集者と文学近所の編集者がそれぞれ国内文学を担当しており、互いに韓国語と日本語に上手ではなかったが、この時動員されたのがウェブ翻訳機だった。韓国の編集者は韓国語で、日本の編集者は日本語で書いた数十通のメールで意見を交わした。各国の作家たちは直接撮影した映像で挨拶を送ってきた。ファンデミック以後同時的なコミュニケーションのため急速に発達した技術が活用されたので、『絶縁』の作業は文字通り以前の時代と決別することだったわけだ。
表紙絵は上海で活動するイラストレーター蔵王原神Zhao Wenxinの作品である。同じ絵を日本と韓国のデザイナーが各国の情緒に合わせて再解釈してデザインしたのも注目に値する。今回韓国と日本で同時出版された『絶縁』は、今後作品集に参加した他の国でも翻訳され出版される予定だ。

(2023/5/30)