『無』"NAUGHT" by Murata Sayaka 村田紗耶香(アジア9都市9名連結アンソロジー《絶縁》)読了

昨年秋にチベット文学の新作がないか検索した時、ラシャムジャの新作収録で出た本。12月の刊行直後に買ったのですが、春まで寝かせてました。一作ずつ感想を書きます。

装画=趙文欣 装丁=川名潤 

オーディオブック同時発売とのこと。

絶縁

絶縁

  • 村田沙耶香, アルフィアン・サアット, ハオ・ジンファン, ウィワット・ルートウィワットウォンサー, 韓麗珠, ラシャムジャ, グエン・ゴック・トゥ, 連明偉, チョン・セラン, 藤井光, 大久保洋子, 福冨渉, 及川茜, 星泉, 野平宗弘 & 吉川凪
  • 小説/文学
  • ¥2,000

絶縁 | 書籍 | 小学館

日韓同時発売とのことで、韓国版は、さいごにチョン・セランと村田紗耶香の対談が入ってます。表紙のイラストや掲載のじゅんばんはいっしょですが、作家の帰属表記について、日本語版は日和ってると言うか、上海で中国ビジネスを営む小学館的に苦しいんだろうなあという書き方で、ウェブには個人名しか載せてません。対して韓国は直球。例:「라샴자(티베트)─구덩이 속에는 설련화가 피어 있다」

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表紙のイラストを描いた人は上海在住とか。ではなく、今は多摩美に学んでるそうですが、今後どうされるのか。

photoandculture-tokyo.com

絶縁というテーマは言い出しっぺのチョン・セランサンが出したものだそうですが、作品によってその受け取り方が、大別して二種類あって、コロナカでロックダウンがあったか否かで、異なる結果になったようです。ロックダウン下の外部との絶縁状況を描くか、コロナカ関係ない普遍的な人類の孤独を描くか。日本人作家でも、例えばドイツでロックダウンに遭った多和田葉子サンに依頼してたら、おおかたの日本人が体験してないロックダウンを描いていたかも。

トップバッターの村田紗耶香サンの『無』は、ハングル版でも漢字表記です。「무라타 사야카(일본)─無」

版元紹介

突如若者に舞い降りた「無」ブーム。世界各地に「無街」が建設され――。

この人お得意の "if" もの。ひきこもりにヒントを得たのか、「無」という生活スタイルを追い求める若者が急増する世界を描いています。だいたいそういうのは、片付けが近藤麻理恵サンなように、カリスマナントカ、インフルエンサーが現われるものですが、それが自分の母というヤメ無女性の屈折がひとつ動線になっています。そういえば、作者は山田詠美の『風葬の教室』が好きだったんだよなあ、と思い出させてくれる聡明な少女も登場し、彼女の目を通しても母娘の関係性は語られます。無とは捨て去ることのはずなのに、人類社会である以上、やはりマウントとったり従属したりの人間関係がそこでも現出し、ちっとも〈无〉なんかではない。

母親の「無」システムの象徴が東京タワーで、これは、リリー・フランキーへの挑戦だろうかと思いました。だったらそれはそれでおもしろいです。アジアのほかの作家には理解されないかもしれませんが、まずとりあえず映画見せれば、なんとかなるかも。

頁32の右上に、「○」があり、その時はなんとも思いませんでしたが、頁50に、下記のような記号のラレツがあり、なに遊んでるのかと思いました。

頁050

       ▼●

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        ●●■

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「絶縁」というテーマに、まず痺れました。他の作家さんたちの「絶縁」を読んだとき、想像以上の世界、言葉と人間の鮮烈な蠢きがそこにありました。

帯 以上

【後報】

ハングル版は、日本語版をホン・ウンジュというイファ女子大仏文出で日本在住の翻訳者がハングル訳したとか。

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下がホン・ウンジュサンの紹介箇所。

홍은주 (옮긴이) 
이화여자대학교 불어교육학과와 동 대학원 불어불문학과를 졸업했다. 일본에 거주하며 프랑스어와 일본어 번역가로 활동하고 있다. 옮긴 책으로 무라카미 하루키의 《기사단장 죽이기》 《양 사나이의 크리스마스》, 마스다 미리의 《여탕에서 생긴 일》 《엄마라는 여자》, 미야베 미유키의 《안녕의 의식》, 델핀 드 비강의 《실화를 바탕으로》 등 다수가 있다.
(グーグル翻訳)
ホン・ウンジュ (移転) 
梨花女子大学フランス語教育学科と同大学院フランス語文学科を卒業した。日本に居住し、フランス語と日本語の翻訳家として活動している。運んだ本で村上春樹の《騎士団長を殺す》《両男のクリスマス》、増田ミリの《女湯で出来たこと》《ママという女》、宮部美雪の《こんにちはの儀式》、デルフィン・ド・ビガンの《実話を土台として』など多数がある。

下が翻訳スキーム紹介箇所。

『절연』의 작업은 각기 다른 언어를 사용하는 9명의 작가들의 작품을 각 언어를 전공한 일본의 7명의 번역가가 번역하고 그것을 도쿄에 거주하는 홍은주 번역가가 다시 한글로 옮기는 방식으로 이루어졌다. 편집 과정에서 의문점이 발견되면 일본의 편집자와 해당 언어의 번역자를 거쳐 저자에게 전달되고, 피드백이 역순으로 되돌아오면 다시 홍은주 번역가와 문학동네 편집부가 논의하는 식이었다. 쇼가쿠칸의 편집자와 문학동네의 편집자가 각기 국내문학을 담당하고 있어 서로 한국어와 일본어에 능숙하지 않았는데, 이때 동원된 것이 웹 번역기였다. 한국의 편집자는 한국어로, 일본의 편집자는 일본어로 쓴 수십 통의 메일로 의견을 주고받았다. 각국 작가들은 직접 촬영한 영상으로 인사를 보내왔다. 팬데믹 이후 동시적인 소통을 위해 급속도로 발달한 기술들이 활용되었으니, 『절연』의 작업은 말 그대로 이전 시대와 결별하는 일이었던 셈이다.
표지 그림은 상하이에서 활동하는 일러스트레이터 자오원신Zhao Wenxin의 작품이다. 같은 그림을 일본과 한국의 디자이너가 각국의 정서에 맞게 재해석해 디자인한 것도 눈여겨볼 만하다. 이번에 한국과 일본에서 동시 출간된 『절연』은 추후 작품집에 참여한 다른 나라에서도 번역되어 출간될 예정이다.

(グーグル翻訳)

『絶縁』の作業は、それぞれ異なる言語を使う9人の作家たちの作品を、各言語を専攻した日本の7人の翻訳家が翻訳し、それを東京に居住するホン・ウンジュ翻訳家が再びハングルに移す方式で行われた。編集過程で疑問点が発見されれば、日本の編集者とその言語の翻訳者を経て著者に伝えられ、フィードバックが逆順に戻ると、再びホン・ウンジュ翻訳家と文学近所編集部が議論する式だった。小学館の編集者と文学近所の編集者がそれぞれ国内文学を担当しており、互いに韓国語と日本語に上手ではなかったが、この時動員されたのがウェブ翻訳機だった。韓国の編集者は韓国語で、日本の編集者は日本語で書いた数十通のメールで意見を交わした。各国の作家たちは直接撮影した映像で挨拶を送ってきた。ファンデミック以後同時的なコミュニケーションのため急速に発達した技術が活用されたので、『絶縁』の作業は文字通り以前の時代と決別することだったわけだ。
表紙絵は上海で活動するイラストレーター蔵王原神Zhao Wenxinの作品である。同じ絵を日本と韓国のデザイナーが各国の情緒に合わせて再解釈してデザインしたのも注目に値する。今回韓国と日本で同時出版された『絶縁』は、今後作品集に参加した他の国でも翻訳され出版される予定だ。

(2023/5/30)