『逃避』Trốn thoát "Escape" Nguyễn Ngọc Tư グエン・ゴック・トゥ(アジア9都市9名連結アンソロジー《絶縁》)読了

七番バッター。ベトナムの人。私はベトナムというと、バオ・ニンとかそういう、いかにも社会主義国の検閲社会の優等生みたいなイメージが強かったので(タイが奔放で面白かったのと対照的に)どうも文学には今一つ親しんでないかったのですが、この人は若いせいか?面白かった。というかテーマがわたし的にナイスだった。

www.sachkhaitri.com

https://www.sachkhaitri.com/Data/Sites/2/Product/46819/viet-va-doc-chuyen-de-mua-xuan-2021.jpg本作は書き下ろしでなく、《Viết và Đọc》という雑誌の2021年春号掲載とか。左がその表紙です。

コロナカ前にベトナムの福祉事情を視察した福祉関係のしとが、あっちの福祉、精神医療やらなにやらは遅れているが、社会は活気があった。特にこどもや若者が多いので、老いゆく日本と対照的に、若い社会ということを感じさせた、と報告してたのですが、本書はそれと真逆というか、あっちにも四十越えて親のすね齧ってるオサーン(警備員をクビになった失業者)がいて、そのムスコは結婚離婚を経て、欠食児童みたいなガリガリの孫(表情も感情もとぼしい)を引き取らざるを得なくて引き取っている。息子と孫娘がいつでもいっしょにゲームやったりケーブルテレビのスポーツチャンネルをえんえん見ているそばで、そいつらの炊事洗濯をせねばならない、漫☆F・画太郎の描くような乳房の垂れ下がったBBAの溜息の話。すごいなあ。全然ベトナムの話とは思えない。

「ゲラウト」という黒人の強迫ナントカ的映画のベトナム語タイトルが同じなので、検索するとその映画も出ます。

vi.wikipedia.org

ゲット・アウト - Wikipedia

書き下ろしでない代わりに、「縁の借り Nợ của duyên――あとがきにかえて」という作者のエッセーが併録されており、訳者解説はないです。いくつになってもママはママ、みたいな、大人になって家を出ても週末には実家に帰って母親の手料理で癒される子どもたち(自分たち)そして、自分が生んだ、ピンクの手の赤子。自分もまた、母親の無償の愛を我が子に注ぐことが出来るのだろうか。自問。

広告動画のこの人は、上の寄せ書きを書いてる手しか写ってません。女性なのかな。そりゃ子ども産んだんだから女性だろうという。

その寄せ書きをグーグルレンズで翻訳した結果が上記。何も翻訳されてへんだ。

ホントに「ベトナム 2022年9月10日」なのかは分かりませんが、その上が作者名なのは分かって、そんで、アルファベット表記の文字はやっぱり手打ちもラクで、打ち込んで検索すれば発音記号付きのが探し出せるものなので(流石話者人口億越えのベトナム語)上の文章は復元出来たです。

Gửi đến bạn giấc mơ không bao giờ biến mất!

決して消え失せることのない夢をあなたに送る

名前の上の「有罪」になってしまう単語だけ分かりません。スペルすら分からない。

グエン・ゴック・トゥ - Wikipedia

ウィキペディアには写真がなくて(他の言語版も)画像検索すると下記の人です。

カンボジアのクロマーみたいなスカーフしてる写真があって、出身のベトナム最南部にはベトナム国籍のカンボジア人も混住してますので、その人たち、クメール・クロムかしらとも思いましたが、名前はフツーにベトナム人ですよね。ロアン・リンユィの〈阮〉にトラン・ゴクランの〈玉〉で、スミス(史密斯)の〈斯〉

以上

昨年秋にチベット文学の新作がないか検索した時、ラシャムジャの新作収録で出た本。12月の刊行直後に買ったのですが、春まで寝かせてました。一作ずつ感想を書きます。

装画=趙文欣 装丁=川名潤 

オーディオブック同時発売とのこと。

絶縁

絶縁

  • 村田沙耶香, アルフィアン・サアット, ハオ・ジンファン, ウィワット・ルートウィワットウォンサー, 韓麗珠, ラシャムジャ, グエン・ゴック・トゥ, 連明偉, チョン・セラン, 藤井光, 大久保洋子, 福冨渉, 及川茜, 星泉, 野平宗弘 & 吉川凪
  • 小説/文学
  • ¥2,000

絶縁 | 書籍 | 小学館

日韓同時発売とのことで、韓国版は、さいごにチョン・セランと村田紗耶香の対談が入ってます。表紙のイラストや掲載のじゅんばんはいっしょですが、作家の帰属表記について、日本語版は日和ってると言うか、上海で中国ビジネスを営む小学館的に苦しいんだろうなあという書き方で、ウェブには個人名しか載せてません。対して韓国は直球。例:「라샴자(티베트)─구덩이 속에는 설련화가 피어 있다」

www.aladin.co.kr

表紙のイラストを描いた人は上海在住。ではなく、今は多摩美に学んでるそうですが、今後どうされるのか。

photoandculture-tokyo.com

巻末の、小学館編集部:柏原航輔サン、加古淑サンの弁によると、本アンソロジーの、どの国のどの作家に依頼するかの選定作業には、韓国文学の邦訳などを行っている出版社クオンの金承福サンと伊藤明恵サンが関わり、実際の契約交渉は、イギリスの出版社でそうした業務に従事していたパルミェーリ・ターニャサンというエージェントが大活躍したそうです。

絶縁というテーマは言い出しっぺのチョン・セランサンが出したものだそうです。

【後報】

表紙に書かれた、ベトナム語の「絶望」は、Tuyệt Duyên.

(同日)

【後報】

野平宗弘訳。

ハングル版は、日本語版をホン・ウンジュというイファ女子大仏文出で日本在住の翻訳者がハングル訳したとか。

www.aladin.co.kr

下がホン・ウンジュサンの紹介箇所。

홍은주 (옮긴이) 
이화여자대학교 불어교육학과와 동 대학원 불어불문학과를 졸업했다. 일본에 거주하며 프랑스어와 일본어 번역가로 활동하고 있다. 옮긴 책으로 무라카미 하루키의 《기사단장 죽이기》 《양 사나이의 크리스마스》, 마스다 미리의 《여탕에서 생긴 일》 《엄마라는 여자》, 미야베 미유키의 《안녕의 의식》, 델핀 드 비강의 《실화를 바탕으로》 등 다수가 있다.
(グーグル翻訳)
ホン・ウンジュ (移転) 
梨花女子大学フランス語教育学科と同大学院フランス語文学科を卒業した。日本に居住し、フランス語と日本語の翻訳家として活動している。運んだ本で村上春樹の《騎士団長を殺す》《両男のクリスマス》、増田ミリの《女湯で出来たこと》《ママという女》、宮部美雪の《こんにちはの儀式》、デルフィン・ド・ビガンの《実話を土台として』など多数がある。

下が翻訳スキーム紹介箇所。

『절연』의 작업은 각기 다른 언어를 사용하는 9명의 작가들의 작품을 각 언어를 전공한 일본의 7명의 번역가가 번역하고 그것을 도쿄에 거주하는 홍은주 번역가가 다시 한글로 옮기는 방식으로 이루어졌다. 편집 과정에서 의문점이 발견되면 일본의 편집자와 해당 언어의 번역자를 거쳐 저자에게 전달되고, 피드백이 역순으로 되돌아오면 다시 홍은주 번역가와 문학동네 편집부가 논의하는 식이었다. 쇼가쿠칸의 편집자와 문학동네의 편집자가 각기 국내문학을 담당하고 있어 서로 한국어와 일본어에 능숙하지 않았는데, 이때 동원된 것이 웹 번역기였다. 한국의 편집자는 한국어로, 일본의 편집자는 일본어로 쓴 수십 통의 메일로 의견을 주고받았다. 각국 작가들은 직접 촬영한 영상으로 인사를 보내왔다. 팬데믹 이후 동시적인 소통을 위해 급속도로 발달한 기술들이 활용되었으니, 『절연』의 작업은 말 그대로 이전 시대와 결별하는 일이었던 셈이다.
표지 그림은 상하이에서 활동하는 일러스트레이터 자오원신Zhao Wenxin의 작품이다. 같은 그림을 일본과 한국의 디자이너가 각국의 정서에 맞게 재해석해 디자인한 것도 눈여겨볼 만하다. 이번에 한국과 일본에서 동시 출간된 『절연』은 추후 작품집에 참여한 다른 나라에서도 번역되어 출간될 예정이다.

(グーグル翻訳)

『絶縁』の作業は、それぞれ異なる言語を使う9人の作家たちの作品を、各言語を専攻した日本の7人の翻訳家が翻訳し、それを東京に居住するホン・ウンジュ翻訳家が再びハングルに移す方式で行われた。編集過程で疑問点が発見されれば、日本の編集者とその言語の翻訳者を経て著者に伝えられ、フィードバックが逆順に戻ると、再びホン・ウンジュ翻訳家と文学近所編集部が議論する式だった。小学館の編集者と文学近所の編集者がそれぞれ国内文学を担当しており、互いに韓国語と日本語に上手ではなかったが、この時動員されたのがウェブ翻訳機だった。韓国の編集者は韓国語で、日本の編集者は日本語で書いた数十通のメールで意見を交わした。各国の作家たちは直接撮影した映像で挨拶を送ってきた。ファンデミック以後同時的なコミュニケーションのため急速に発達した技術が活用されたので、『絶縁』の作業は文字通り以前の時代と決別することだったわけだ。
表紙絵は上海で活動するイラストレーター蔵王原神Zhao Wenxinの作品である。同じ絵を日本と韓国のデザイナーが各国の情緒に合わせて再解釈してデザインしたのも注目に値する。今回韓国と日本で同時出版された『絶縁』は、今後作品集に参加した他の国でも翻訳され出版される予定だ。

(2023/5/30)