山崎洋子を読んでみようシリーズ
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- ジャンル: 本・雑誌・コミック > 小説・エッセイ > その他
- ショップ: 楽天Kobo電子書籍ストア
- 価格: 540円
装幀/安彦勝博
単行本なのであとがきや解説はなし。書き下ろしなのかな? 読んだのは初版の一ヶ月後の二刷。
アマゾンの商品説明
両親をなくしたみづきは、祖母から横浜の古いホテルを引き継いだ。幽霊が出ると噂される建物、いわくありげな客たち、みづきへの殺人予告・・・。戦慄の傑作長編。(講談社文庫)
圧倒的評判を得た受賞作「花園の迷宮」につづく書下ろしサスペンスミステリー。横浜・中華街のホテル・オーナーとなった21歳のみづきの前に、続々起きる不気味な事件。クリスマスにフランス山で発見された射殺死体は誰か?みづきの出生の謎とは?
バブルをバブルと認識していなかった1987年の小説ですので、老朽化したホテルの再建に銀行が金貸してくれるのか、長期滞在者の立ち退きはどうなるのか、等々21世紀から読むと隔世の感がありますが、てゆーか隔世じゃん、当たり前田のクラッカーというか。
出だしが素晴らしいです。21歳で親の借金のため学校に通えなくなってスナックと弁当屋の掛け持ちしてる女子大生がヤサをサラ金?に感づかれて逃亡する場面。ワンルームマンションがグローバルスタンダードになる前の六畳一間の風呂なしアパートで(国鉄南武線の武蔵小杉駅から徒歩で十二分。頁7)片手鍋でお湯を沸かしてコーヒー飲んでまたお湯を沸かして体を拭いて、下着を手洗いで洗濯して。ジーンズにセーター。
イケメンの若手刑事が親切なので主要キャラになるのかと思ったらならなくて、オバーサマ差し回しの弁護士が自分で運転するブルーバード(弁護士が自分で運転するのは時代なのか、これが二作目の作者の勉強不足なのか)で一等地を無駄に占有する古びたホテルの世界に入り、セクハラという言葉が出来る前の世界なので、ねっとりしたマッチョな三十男にさわられまくるという、およそげんなりした展開になります。板前の修業中左手の小指を切断してしまい、それをちらつかせて他人を誤解させる、図体だけはデカい、脳みそはテンテンテンの、でくのぼうの幼なじみも登場します。何だこのヒロインの男運はと思いつつ我慢しながら読んでると、ご都合主義的に少しマシな若い男性が登場します。
頁6
頭がぼうっとしていた。何ヵ月も寝不足が続いている。若いとはいえ、もはや限界に近い。
百六十センチ、四十九キロという、かなり理想的なプロポーションだったのが、三キロ減ってひょろひょろしてきた。
歌手の小泉今日子に似てるね、と言われ、自分でもキュートだと思っていた小さな三角顔も、最近では眼ばかりギョロギョロしたアウシュビッツ風飢餓顔に変わってきたような気がする。
お腹がすいた。弁当屋で何か食べさせてもらおう。きのうのシャケ弁の残りか何か……。
借金の父は映画関係の仕事をしてたのですが、栄光は戦前の満映時代にあったとゆー人で、オバーサマは満鉄絡みです。ハルピンということで、大観園、傅家甸が出ます。単語だけ。あと、特務が出ます。戦前の党員だか何だかの人も。
頁26
最初にみたのは楽しい夢だった。みづきは友達に囲まれて、どこかの街を歩いていた。
季節は夏。みづきは夏が好きだった。八月生まれのせいかもしれない。ペリー・エリスのジーンズにピンクハウスのTシャツ。どちらもバーゲンの掘り出し物だ。
ショートカットの頭を振って、みづきは笑っている。
男の子が声をかけてきた。どこかの大学生だ。なかなかいいこだけど、二言、三言、言葉をかわしただけでさよならする。
男の子には不自由してない。
それより興味があるのは将来の夢。
ねえ、卒業したら女の子ばかりで情報プロダクション作らない? コンピューター入れてさ、世界中の情報集めて、それを企業や個人に売るの。
やろう、やろう、おもしろそう!
女の子たちは笑いながら手を打つ。
ああ、いい笑顔してるな、と、みづきは夢の中の自分を惚れ惚れと見つめた。
すごい美人、とは思っていないが、キラキラと活きがいい。水面に躍り出た飛び魚みたい。
次に海の夢を見た。夢が始まった頃は、気分のいい春の海だった。それがいつの間にか曇天の重苦しい海になり、黒い雲がどんどん頭の上にかぶさってきた。
頁69、関帝廟が焼け焦げてるのですが、不審火で焼けたのは文革のころのふたつの中国の対立のとばっちりだと思っていたので、1987年の一、二年前とか、そんな後だったっけ?と検索したら、そのとおり1986年の焼失でした。
頁69
庭の屋根にあたる部分は、すっぽりと焼け落ちていた。祭壇部分は無事のようだが、どこもかしこも煤煙で黒くなり、半分こげた座布団や、熱でぐにゃりと曲がった電気の傘などが、そのままになっている。
祭壇の前に置かれた供物と、林立するろうそくや線香だけが、生々しく新しい。
煤煙の黒とろうそくの赤、そして祭壇の金色が不思議なハーモニーをかもしだし、焼け跡の関帝廟には幽玄な美しさがあった。
「誰でもおまいりしていいよ」
老婆がニコニコしながら言った。
(中略)
祭壇は大きく三つに分かれている。中央が関羽様で、左側が地母娘娘ディーモニャンニャン、これは一種の土地神様だ。右側が観音菩薩、これは浅草のお寺からもらったものだ、と老婆は言った。
(中略)
みづきは手を合わせて祈った。眼を開けた時、妙な物に気づいた。長さ十センチくらいの赤い木片で、半月形をしている。
「それパオポイ。運勢、占うね」
老婆は木片をみづきの手に握らせた。
「あなた、願う。恋人のこと、一番良いね」
頁83、99等で、中国製煙草の「金建」というのが出てきて、そんな銘柄知らなかったのですが、確かに売られていたようです。ただし発音は「ジンジャン」でなく「ジンジエン」だと思います。
外国たばこ廃止銘柄|リビングショップ安藤|たばこ・シガー・パイプ専門店
頁99では、中華料理店のおかみさんが、亭主のべらべらトークをやめさせようと、「プスィン!」と叫ぶ場面があります。"不行!"ぜんぜん関係ありませんが、ある日本人の女の子が、長期にわたる中国生活で突然ささくれだって、道でぶつかってきた自転車のオバサンの腹をおもくそどついたら、"怎么回事!"とオバサンは言ってました。イキナリ通りすがりに若い女の子から腹にパンチ喰らうとは、ちょっと考えつかないですよね、中国では(日本でも考えつかないか)
ナントカブリッジ建設前の横浜ですが、どのみちそこは上の地図では切れてます。三吉橋が書いてあるのは、演芸場が出て来るから。この頃もう梅沢富美男とか有名だったのかなあ。トミオはハマじゃないですが。福富町も出てきますが、地図には記載されていません。フランス山、私は登ったことありません。作者はご自身のサイトで、実在の幽霊ホテル老朽化ホテルと重ね合わされて"我驚了一跳了"みたいなこと書いてました。驚くとぴょんと飛ぶ人は洋の東西を問わないですね。以上