『マスカット・エレジー』読了

 装丁 渡辺和雄 装画 杉田比呂美 初出「小説宝石」(光文社)1998~2000年。全七編。

マスカット・エレジー

マスカット・エレジー

 

 山崎洋子を読んでみようシリーズ。中国関係の本はいちおう、ハマのノンフィクションを除いては読んだかなと思うですが、これも一応横浜関連ということで、なんとなく読みました。読んだのは単行本。

マスカット・エレジー (光文社文庫)

マスカット・エレジー (光文社文庫)

 

 マスカットというかグレープで、主人公の30代後半独身極貧ライターというか放送作家(家は父親が残してくれた傾斜地の一軒家)と、父が晩年連れ込んでそのまま居着いた60代の何でも出来るが詐欺師っぽいキャラの女性との、人生珍道中です。横浜山手とは名ばかりの、傾斜地が連なる、売るに売れないあのあたり、という設定だそうで、そのヒロインの名前が、「葡萄」なので、マスカットという… 太目で、奥手で、押しが弱いという、そんなライターいないだろうという女性で、おひたしとかさっと茹でたのみたいなあっさりしたおいしいものが大好きだが、料理は以下略。容姿も以下略。母親の顔は知らない。なくなった父親は自営業の、画家で、といってもペンキ絵からタウン誌のカットまで手掛けていたという。それで一話完結方式の短編が四つ。いや七つ。最後には持ち家まで同居オバハンが以下略。

頁12

 大工の若者は、ロング・ヘアを鮮やかな臙脂に染めていた。(中略)ズボンは、大工さんや植木屋さんがよくはいている、太股から膝にかけてふくらんでて、膝から足首まではぴったりという、あれ。 

 ニッカボッカだと思うのですが、山崎洋子ともあろうお方が、何故知らない。

頁95、牧歌的な時代なので、弱小やくざの組が、大金を、何かのカタに預けられている売れない中国むすめ(福建人)と、出入りのラーメン屋の中国人バイトの共謀に、以下略、という、そのむすめの名前が、「暁芙」と書いてシェンフーとルビが振られてるのですが、実際は "xiao3fu2" のはずです。しかも、例の三声二声。ほうりん子物語の「法輪」と同じ三声二声です。こないだ見たNHKのハングレの番組で、ハングレのルーツを、東京東部の残留孤児二世三世の族チームに求めてましたが、彼らが黎明であったとしても、成り立ちは完全にエスニックグループですので、のちの海老蔵絡みでやたら報道されるようになった、「暴対法にしばられない連中」とは全く違うと思います。むしろ、六十年代だか七十年代だかの大阪の日韓連合と比較して、時代による違い、エスニックグループによる違い、等を考察した方がいいんじゃいかと。人によりチャイニーズドラゴンと呼んだり、白龍/白竜はくりゅうと呼んだり、名前からして一定してない。ゆるい。なんだったのかなあ。千葉をえんえん描く立原あゆみの漫画でも、『仁義』では、残留孤児の子どもかマゴのきょうだいが登場し、姉はやくざの情婦になって抱かれて、弟は鉄砲玉になって、みたいのを安全な場所から哀歌として描いてましたが、『極道の食卓』になると、久慈雷蔵は中華料理だけは作りもしないし口にもしないほどの強烈な中華アレルギーのやくざとして登場し(唯一許せるのが「和風」のソース焼きそば。したがってラーメンもNG)中国系への恨みの一例として、取引して仕入れた松茸が、石ころ詰めたりのカサ増し、松茸スプレーでニオイつけは当たり前で、中に五寸釘埋めてカサ増しの例まである、松茸ガブリと咬んで歯が欠けた、と初期の回で書いてたのを、NHKの番組で抗争の回想をやってたとき、思い出しました。書籍の差し入れも、中文書籍なのかな。むかし山科で、天理教のひとがそういう本も差し入れして喜ばれたと聞いた思い出があります。

肩の凝らない気楽な読み物、おとなのラノベみたいなもんですが、それにしても、主人公の名前が有吉葡萄って、何がどうしてそうなるのか。酔ってたのか。賭けに負けたのか。濁音濁音の女性のオウンネームなんて、前田美波里以外初めて聞いた。(暑いので、てきとうに書いています)以上