山崎洋子サンが、主人公や、この小説執筆時のコレットと同年齢の頃に、同年輩の読者に向けて、エッセーで、サガンの『ブラームスはお好き』と共に紹介した本。
装画◎望月 通陽 装幀◎木佐 塔一郎 解説は吉川佳英子 年譜、訳者あとがきあり。
裏表紙や版元公式、アマゾンの内容紹介などの文章
50歳を目前にして、美貌のかげりと老いを自覚する元高級娼婦のレア。恋人である25歳の青年シェリの突然の結婚話に驚き、表向きは祝福して別れを決心しつつも、心穏やかではいられない…。香り立つような恋愛の空気感と細やかな心理描写で綴る、「恋愛の達人」コレットの最高傑作。
こう書いてあるので、ホストに入れ込んだ年増のオバサンの話かと思って読んだですが、違いました。この若い恋人は、おしめをつけてた頃から、もしくは小便小僧しーととと、の頃から、ヒロインの奥巴桑は知ってる子で、同業者の友人の息子(シングルマダー)です。それが青年になる頃、奪って恋人にしてしまうというのが、モラルハザードとしてありえないです。なんじゃそりゃあ。
コレットとゆう人が、解説にあるように、おっそろしく奔放に生きた人で、だいたい自身の体験がベースという、それを理解したうえで、さらになんじゃこりゃあと思いました。本小説のベースの話は、再婚相手の連れ子をコマしたというヤリチン列伝。松田優作が来るしかない。なんじゃそりゃあ。
生涯バイセクシャルでヴィシー政権に協力した(不本意だったそうですが)オバサンを国葬にするんだから、フランスという国は、ほんと挑発的というか、国をあげてパリ革命です。エロい描写は、何のことやら分からないので発禁に出来ないくらいエロい。でも、50歳で胸が崩れてないって、おかしいでしょう。経産婦でないにしてもや(コレットは出産経験あるが、育児は人任せ)ヒロインは高級娼婦ですが出産経験なし。カソリックの国だから、信用するとして。この時代まだシリコンによる豊胸手術はないです。
ヒモというか若い燕、友人の息子は、えてしてこういう人はそうですが、働かないで湯水のようにヒロインのカネを使うわりには、出入りの業者のピンハネを見抜く目とか、仕入れ値を把握して見積もりを叩くとか、そういうウデがあります。で、不思議なのが、1920年の出版時、モータリゼーションでもう自動車があるのですが、自分では運転しない。必ず運転手を雇って、その費用がバカにならない。ここ、なんでか分かりませんでした。コクトーのアンファンテリブル、恐るべき子供たちでは、アメリカ人の青年実業家の青年が、オープンカーをマフラーして運転中マフラーがタイヤに絡まって首締って窒息車もドカーン! 遺産は主人公一味が山分けでしたが、この小説のホストは運転しない。
で、若い青年は一度は自分より若いションベンくさいネンネの娘と結婚して出てくのですが、この娘サイドの語りが、かなりえんえんあって、とても意外でした。年増以外の視座があることすら想像出来なかったので。思い込んだら視野狭窄で、他者の視点なんか考えられないくらい燃えた、という小説だと思ったのに、複眼とは。
さいご、怒濤の展開で、帰って来たシェリとレアは燃え上がるのですが、気持ち悪いとか口臭くないかとか思ったら負けです。5歳児のチコちゃんの中の人、キム兄ぃかて最新の結婚は五十代やないか。で、その後のさばさばした展開が、よかったといえばよかった。愛と青春の旅立ち。卒業。
頁56に付箋をつけてるのですが、見返して、何をメモろうとしたのかサッパリ分かりません。レアがキスの名手ってことしか分からない箇所なので。ああそうか。夏の夜に庭で過ごしてるので、蚊に食われないか気になったのか。
光文社古典新訳文庫は、現代語の新訳で、古典に新しい息吹を吹き込もうという企画なのですが、この箇所はさすがにあれっと思いました。
頁30
「ちぇっ! またヴェールしてきたのかよ。すげえきらいなんだけどな、それ」
岩波だとどう訳してるか調べて、それを後報で書いて、終わりとしたいです。では
【後報】
「ちぇっ、またヴェールをつけてるな。ぼくそいつは大嫌いなんだぜ」
総じて、官能シーンは光文社古典新訳文庫に軍配が、それ以外は、原書が100年前のことばで100年前の感性と風俗を描いたものですので、岩波の新劇調のせりふまわしに軍配が上がると、個人的に考えます。奇しくも訳者はどちらも著者と同性ですが、理由は分かりません。
岩波の解説(訳者執筆)によると、本書刊行まで、不義密通の義理の息子とはまだ出逢いがなかったそうで、仏語版ウィキペディアの、義理の息子さんの項を見ると、1920年から付き合いだしたけれども、その時点でもう『シェリ』は半分出来ていたんだとか。つまり、不道徳小説を書いてから不道徳なことをしたということで、事実は小説より奇なりじゃないよ、空想の後追いだよと言いたかったのか。
Bertrand de Jouvenel - Wikipedia
本書初出は、「ラ・ヴィ・パリジェンヌ」という大衆週刊誌で、1920年1~6月まで連載され、翌7月単行本化だとか。『青い麦』は「ル・マタン」という週刊誌だそうですが、大衆向けかどうか分かりません。
で、この、岩波文庫『シェリ』の表紙イラストが誰か分かりません。
"ANDREE SIKORSKA"とあり、シコルスカはシコルスキーのポーランド語の女性形だそうなので(ロシア語だとシコルスカヤになるんだとか)検索すると、マン・レイの写真なんかが出るのですが、どこの誰だか分かりません。ウィキペディアもない。岩波文庫のどこにもその説明文が見つけられない。
Artist Andree Sikorska by Man Ray (1928) | FROM THE BYGONE
なんなんでしょうか。
(2020/1/7)