『趣味で腹いっぱい』読了

 ほかの人のブログで拝見した本。装幀…名久井直子 装画・本文イラスト…ちえちひろ 初出はしんぶん赤旗の連載。大幅加筆修正。

趣味で腹いっぱい

趣味で腹いっぱい

 

 ①「腹」という字はそのまま訓読みすると「はら」、おをつけて「お腹」だと「おなか」と読みます。鼓腹撃壌(こふくげきじょう)。この絵で作者のセックスを笑うなだから、『おなかいっぱい』な気がしたのですが、『はらいっぱい』 関係ないですが、ハングルはどんだけ日本との関係性が深まっても、ついにハングルに読み下し文を受け入れなかった。漢字をあてるのは音読み的なことばだけ。そこに引かれた線は、日本ごときでは微動だにしなかった。話を戻すと、「おなかいっぱい」より「はらいっぱい」のほうがガサツな言い方の分、より切実な気がします。或る依存症の人が、依存症がやまって何がいいか自問自答して、「うん、腹いっぱい食べれるようになった。前は支給日の前に金が足りなくなって腹いっぱい食べれなくなってた」と言ってたのを思い出します。「おなかいっぱい」でなく「はらいっぱい」だと、思い出すのはそういうこと。"你吃饭吃饱了吗?" "饱了" 

趣味で腹いっぱい

趣味で腹いっぱい

 

 ②私は三権分立同様に、第四の権力であるマスコミもほかの三権から独立すべきであるとの信条から、特定政党の機関紙である赤旗を、その内容如何に関わらず購読しませんと言って、民青の知人から「読んでみてよ」と言われたのをからくも逃げた経験があります。母体の政党批判できひんやんけ、社会の木鐸たりうるのかタリバン、みたいな。で、その知人は東大出て弁護士になりました。検索すると、博報堂のひと同様、バリバリご活躍のインタビューなんかが出ます。とほほ。赤旗連載は、古田足日というフザケた本名の作家のジュブナイル『宿題ひきうけ株式会社』だけ読んだことがあります。

古田足日 - Wikipedia

 1円起業出来なかった時代に株式会社ないやろ、は置いといて、本書と非常に似ています。理屈っぽい点と、お金にこまかい点が。

新版 宿題ひきうけ株式会社 (新・名作の愛蔵版)

新版 宿題ひきうけ株式会社 (新・名作の愛蔵版)

  • 作者:古田 足日
  • 発売日: 2001/12/01
  • メディア: 単行本
 

 分からない。もし中国共産党陳独秀とかオットー・ブラウンとかのままだったら、日本共産党のようなイクジスタンスだったかもしれません。でも朱徳とか彭徳懐とか、毛沢東とか林彪とかがいて、農村が都市を包囲したわけで、日本共産党はそうでないですね。それで日共や民青に物足りなかった人が新左翼極左冒険主義で遊撃戦論とかやったんでしょうが、衆目の一致した見方として「日本は狭かった」探し出されて撃破。台湾映画の悲情城市でも、山家のアジトを急襲されて逃げ惑う活動家が描かれ(ホウシャオシエンの時代考証がおかしいと指摘される数少ない場面)、党員のほとんどが華人だったというマラヤ共産党マレー半島における末路もそんなんだったそうで、世界同時革命なんてそんなもんさ、という。

この小説がそれだけだったらそれだけが読書感想なのですが、痛快なことに、池上永一とか半沢直樹みたいに、少年ジャンプの闘いの原理がこの小説に持ち込まれており、「友情・努力・勝利」が後半この小説を席巻します。びっくりした。日共とジャンプの融合って、風俗嬢が赤旗まつりの思い出を語りあうのと同じくらい(読んだことがある)、あるといえばあるんでしょうが、まのあたりにした。配偶者との友情。趣味達成のための努力、自己実現、承認欲求充足のための努力。そしてこれがいちばん大切な、勝利。勝利なくしてカタルシスなし。カタルシスを読者に与ええないエンターテイメントはありえない。"蛙答吸の啊答馬恐姑里デスカ" ⇐これも日共で思い出す事ですが、省略。

正直私は山崎ナオコーラ原田マハ田口ランディの区別がついてない人ですが、住井すゑホラン千秋と違うことは分かります。

st.benesse.ne.jp

本書著者紹介のページに、ウィキペディアにも書いてない「目標」があり、ううむと唸りました。

目標は、「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。

 一瞬井上ひさし座右の銘の応用のようで、DV野郎とは違うんだよ的矜持も見え隠れ。

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ウィキペディアの、「日本の女性作家」に何故か作者の名前がありませんが、東野圭吾の前か後ろの乱歩賞受賞者で、38歳で美人作家として売り出された山崎洋子サンもいないのだから、大丈夫です。

この小説の主人公、風魔の小太郎は作者の人格のひとつを投影されているようで、彼の小説のつくり方は、まるで東野圭吾のようです。東野は理系、風魔の小太郎は生涯獲得賃金とか奨学金返済とかの世の諸々の諸事情を鑑みて、高卒で社会に出る人です。でもって、銀行マン。転勤が多いから家買わないのかな、でも社宅とかあるだろうに、なぜにふつうの賃貸、とは読んでて思いました。こういうふうに、お金について自然に考えさせられるのです、エンゲルスエンゲル係数を発明した、イエスかノーか。

頁64、グリーフケアの意味が分かりませんでした。

kotobank.jp

頁70、ふつうなら「剥いても剥いても玉ねぎの皮 山頭火ウッキー」としか出来ないのに、主人公夫妻(妻は日本文学の院卒で、崩し字が読める)は「鱗葉」とか、ウィキペディアにもコトバンクにもない単語で会話してるんですね。玉ねぎ本体を指す「鱗茎」と区分が不分明なのと、葉玉ねぎみたいな商材があってややっこしいので、「鱗葉」は使われなくなり始めてる、に10,000ペリカ

頁87、土産物をそのまま土産物を持ってきた来客に出すことを「おもたせ」というそうですが、本書で読むまでそんな単語知りませんでした。「おまたせ」の誤記かと思った。

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おもたせお持たせ】 相手がみやげに持参した菓子などを、その場で接待に使う時に、そのみやげの食品を指す敬語。  「―で失礼ですがお召し上がりください」

dic.pixiv.net

頁144の「DEN」も分かりませんでした。

suumo.jp

風魔の小太郎は、うっかり本名でデビューしてしまい、兼業ナントカの問題より、「オイオイ俺を書かないでくれよん車谷長吉」的な目に職場で遭い、ネットでも「ブサイク」と言われ続けます。いやー、今や世界のハルキ・ムラカミが、俺の歌を聴けとか書いてた頃、あんな顔してアイビー好きなんだぜとか言われ続けて、私もアイビーの意味とか知らないで、ボタンダウンがアイビーなんだろうくらいの理解で、やーいアイビーとか世界のハルキ・ムラカミに言っててすみませんとしか言えない。神の子どもたちはみな踊るとかアンダーグラウンドの頃から、冴えない黒一色のオッサンファッションにさせてしまって、すみませんでした。阪神淡路のせいではなく、口さがない一部のアレが、あんな顔でアイビーと言い続けたからですよね。頼むからもう一度アイビー着てほしい。そしたらプゲラうそです。

そういうわけで、本書の趣味は、登山がちょっとだけ(夫妻は運転しないからか、キャンプや天気図手描き大好き人間にはならない)絵手紙、手芸、菜園、俳句(イヤな感じの句会でなくてなによりです)、同人誌、田舎ライフ、週末カフェ_ヴィーガン(?)、です。村上龍のようにテニスボーイの憂鬱にならないし、草野球も、ゴルフも、麻雀も、釣りも、テツも、ラーメン食べ歩きも出ません。趣味図鑑のような本ではないです。

奥サンはハズの授賞式に、武田百合子の髪型で出席します。これ、現実の授賞式ではどうだったんでしょう。寂聴の髪型ではないと思います。ハズだとすると、誰の髪型だったのか。ひかりごけカットか。そんな髪形はないか。

頁169、東南アジア料理と天ぷらのお店がある嬉野、ちょっと行ってみたいです。でも行かないだろう。白老にも行ってないのに。福岡から釜山までは行きました昔。スケ番刑事の再放送が船内で見れた。横のガキが「ままーあの人日本人?」と母親に聞いてた。鼻血ください。以上