ハヤカワミステリマガジン HAYAKAWA MYSTERY MAGAZINE No.733 3 March 2019 |特集|華文ミステリ THE CHINESE MYSTERY 半分読了

Cover & Color Pages Design 日高祐也 ◆ Illustrations 佳嶋/菅野研一/駒井和彬/シライシユウコ/フジワラヨウコウ

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たぶんこれは、痛快!布マスク新聞がまだ潰れてしまえ新聞と呼ばれていた頃に、日曜の読書欄で取り上げていて、それで読もうと思ったはずです。

2019年の2月25日に、買おうか迷ったけどやめたと日記に書いていて、2月26日に、三軒まわって買って、SFマガジンヨコジュン逝去を知ったと書いています。同年8月29日に、まだ未読と書いていて、その後積ん読で忘れてしまっていました。

今日、ニュクスの角灯の最終巻の書きかけだった読書感想を書き上げるために、"Here lies a Hampshire Grenadier Who caught his death Drinking cold small beer. A good soldier is ne'er forgot Whether he dieth by musket Or by pot."の邦訳やらなんやらを探して、本の山を引っかきまわした時に、再発見し、今日読み終えるはずの本が読み終えられないこともあって、さくっとこれを斜め読みしました。

というか、台湾文學のシンポジウムで拝見して、語言出身だから台湾絡みだと早口に怒りっぽく話すのかなあ、自信がアレとかで、と思った『歩道橋の魔術師』邦訳者の天野健太郎さん*1逝去の追悼が編集後記に載っていて、私はそれを、二年後の今読んで知ったです。合掌。膵臓ガンとのことで、昨日の年賀状からニュクスの角灯最終巻読書感想までと因縁めく酒🍶由来だったのか、そうでなかったのか。あの時怒りっぽく見えたのは、抗がん剤の影響もあったのだろうか。台湾を描いた日本文学のレジュメは、かなり読まさせて頂きました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

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巻頭言みたいなページ。『13・67』の翻訳者も天野健太郎

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東野圭吾は台湾でもベストセラーなので、それらが徐々に中華圏に浸透して、と思ってましたが、ここで公案小説とまずバシッと言われて、あーそうだった、大岡裁きの元ネタとか、私も平凡社東洋文庫宮崎市定訳鹿洲公案オンデマンド版を買って、これも積ん読状態だった、と、ハタと頭を手で打ちました。チャウ・シンチーの《九品芝麻官》は見てるのですが、アテナ・チョウが出て来て腹を蹴られる映画で、でもなーという映画だったと思います。

鹿洲公案 - 平凡社

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イラストレーション シライシユウコ この小説の原題*2*3を知ろうと思って少し検索したんですが、見つからず、現在金沢在住で日本語でツイッターの配信までこなすこの北京人が、外号〈姐姐〉なので女性と勘違いしていた大陸百合派の絶句が見つかっただけでした。どう考えても、「あまちゃん」の「じぇじぇじぇ」の音訳から来てるとしか思われない渾名なのに、シスターの意味と誤解した大陸百合派少女の武運長久を祈ります。祝你万事如意、一切好!!!

tieba.baidu.com

陸秋槎 - Wikipedia

ハッサン中田考を知ったので、もうこういう人には驚きません。中田考のほうが数段以下略

下は、陆秋槎のプロフィール。たぶん自身で直接日本語で書いた感じです。小説や映画は普通なのですが、この若さでピクニックアットハンギングロックが入っていたりして、じぇじぇじぇと思っていると、マンガは大陸ではアレなので読んでないのか入ってなくて、イキナリ好きなゲームと好きなアニメで何かが全開になっています。

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ぱにぽにだっしゅ!」なんてアニメ知りませんでした。下の段は、「ラブライブ!」のことしか書いてありません。「好きすぎて」とか書く中国人、イカス。

ぱにぽにだっしゅ!

https://www.douban.com/people/chiyocoffin/

以前のハンドルネーム〈斜阳院〉は、ダサイも好きだったみたいなので、それででしょうか。金沢在住なのは、いいなあとも思うし、吉田ケニチ先生も好きということはないだろうかと思いました。たぶんそれはないでしょう。何かのアニメの聖地だから住んでると考えたほうが理に適う。

下は、何故か早大学生会館で行われたというトークイベントの再録。しばし百合について熱く語った後、日本の漢語ミステリマニアにも知られた中国のミステリ専門誌が紙版から電子版に完全移行するけど、大丈夫?と聞かれ、サスガ知日派、そもそもミステリ雑誌自体がマイナーだし、中国ではさらにそもそも雑誌が一般書籍と流通経路が異なっていて、雑誌や新聞は街のスタンド〈书报亭〉で扱っていて、その書報亭じたいが減少しているので、それで発行部数もジリ貧なんデスヨ、と、異郷の推理小説業界事情を、実に分かりやすく解説してくれます。私はこの本を買った日、そのまま中国語教室に出たのですが、中国語の先生は、どうも質問を的確に把握せず、違ったことを答えるのですが、生徒の邦人も、なんか嚙みあってないなと思いつつ、そこは日本人なので、その場で納得するまで突っ込むということをせず、フラストレーションを腹にため込むだけ、という人が多く、先生がもし、陸秋槎サンのように勘が効く人物であれば、どんなに助かるか知らん、と思いました。

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なぜ警察が」の全文は、「なぜ警察が解決しないんだ」です。で、この後、中国の映画業界は今いろいろな問題が発覚して大変デス、言わないので、勝手に随便調べてね、と不穏な投げかけ(司会談)でトークショーを終えています。なんぼなんでも中国公安も金沢まで拉致には来ないだろうし、この程度ならなんもないだろうので、よかった。来たら九段会館金大中以上の事件ですよ。

その後、アジアミステリ研究者によるガイセツのページがあります。

この後、人類史上初めて、ノックスの十戒のひとつ「推理小説に中国人を登場させてはならない(フー・マンチューのようなキャラのこと)」を破って、中国人探偵陶展文(キンペーチャンと同郷の甘粛省蘭州出身。得意な料理は、硫黄を餌に混ぜて育てた鶏を使った官保鷄丁)を登場させた陳舜臣が、1997年に日本推理作家協会会報に書いたエッセーを再録していて、1997年の旅行のはずなのに、天安門事件前のような記述で、文革で壊滅した中国作家協会はまだ再建途中とか、バラックを意味する中国語は唐山地震以降変わったとか、廖承志と朝食会をするとか、頭がクラクラするような記述が続き、過去の旅行の回想じゃないのかな、ホントに発表時の中国描写なのかな、と思いながら読んでくと、「推理小説」をそのまま普通話の音で読んでもあちらの作家協会の人に通じず、あいだに入った日本文学研究者が、"霍姆丝(斯)那样的小说"(ホームズみたいな小説)と言って、初めて相手に通じたという話が披露されます。相手は肩書だけのコネ役員というわけでなく、立派な研究者の息子であることがこの後記され、終わるのです(息子なら、やっぱコネやないかい!とも思える)

そもそも「小説」という言葉自体が、うそんこのよみものという感覚があちらにはあって、少し軽んじる人もいるわけです。

その次は、躍進いちぢるしい中国SF作家の短編。その次は、それぞれ専門家による、大陸ミステリ、香港ミステリ、(何故か)韓国ミステリの紹介。それから、台湾ミステリ界から陳浩基の短編。先日ミャンマー料理を食べにワセダ界隈に行った時、「台湾華語」と書いてある語学教室の看板が目につき、「要するに國語じゃん」と思ってしまう自分がいるわけですが、南京官話から台湾華語へ、閩南語とかホーロー語と誤解されないよう、民國色を抜いてゆくのもたいがい大変だな、と思います。今回、中文ミステリでなく華文ミステリという明るいワードでパラダイムシフトを計ってるわけですが、成功してるといいですね、と。

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〈中国語〉が要するに普通话。

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コロナカの自宅引きこもりで、けっこうミスマガ(と略していいのか知らない)も売れてるみたいなのですが、この号はまだ在庫あるようです。上述の姐姐大哥は、「バカミス」みたいな単語に訳されることばも駆使していたようで、ひょっとしたら「バカミス」は「バカミス」でそのまま使っていたかもしれず、そうすると、私は個人的に、中国に親和性が高いのは「イヤミス」ではないかと思います。しかも、行間を読み、斜め読みして、メタファーによる風刺を必死こいて解読するようなミステリー。《围城》『結婚狂詩曲』がミステリーになったら、池莉がミステリーを書いたら、買ってはみたものなかなか読めないラジャムジャ『雪を待つ』がミステリーになるにはどうしたらいいか、等々。Add oil!Add oil!Sino-Mistery!

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以上