『櫻の園』"Sakura no Sono" Akimi YOSHIDA(白泉社文庫)読了

 『ビルマ文学の風景』の読書感想を書こうとしたのですが、入浴したら疲れてしまい、毎日《鬼話連篇》の読書感想でお茶を濁すのもなんなので、その辺にあったこれを読みました。

櫻の園 (白泉社文庫)

櫻の園 (白泉社文庫)

 

 カバー・イラスト……作者 カバー・デザイン……三枝泰之+Drawing Sense"LUNACY" 装幀ーー羽良多平吉&エディックス 読んだのは1994年12月18日の初版。解説は中原俊という映画監督で、非常に有名なこのまんがの映画の監督をした人ですが、私は映画見てませんし、解説読んでも映画の話は一㍉もしてませんので、不要な解説と思いました。それだと言いすぎか。

櫻の園 (漫画) - Wikipedia

吉田秋生というと小学館ひとすじのイメージがありますが、このマンガはめずらしく白泉社の「LaLa」連載で、私が読んだ文庫本に初出は書いてないのですが、上のウィキペディアによると、1985年から1986年にかけての掲載だったとか。

頁70

おまえたちみたいなあばずれがヤクザにつかまって性風俗ギャルになるんだよ!

 派手なグループが平日昼間喫茶店で喫煙中、補導される場面のせりふ。このまんが全体を覆う時代の空気にそぐわないものを感じながら読む中で、このせりふだけ素直に頭に入ってきて、老いてゆく自分は、作中人物たちが夢見る成人、夢見るおとなとまったく違った方向に進んでしまって残念閔子騫、と思いましたが、そういうことだけでなく、今現在の時代が、「JK」の商品化が過度に進んだ世界であるのに対し、作中世界は、援交だの淫行条例だののしばりがまだまだ有効で、この子たちを商品化することにためらいというか禁忌が強かったせいもあるのではないかと思いました。SNSの未成年に対する危険性、暴力性をあらためて言うようなことばを私は持ちませんが、この時代は確かにこの子たちは今より守られていたと思います。でなきゃ補導なんか来ない。今でも補導って、あるのかなあ。

先日松本に行った時の話ですが、登録した人の位置情報が分かるアプリを入れたJKが、「こわいね」「こわいね」と言いながら松本行きの電車に乗ってました。誰が松本駅周辺にいるか分かるらしい。自分たちも松本に向かっていることが、そのアプリを入れて、GPSを登録した相手には分かるらしい。遊ぶ場所が松本しかない状況だからそういうアプリが生きるのだろうか、誰かが近くにいることが分かると、声をかけるか無視するかの選択が発生するし、それが相手にも伝わるんだなと思いました。

映画が有名なこともあってか、百合のイメージが私にも非常に強かったですが、読んでみたらけっこう男女愛の話も多く、しかし、よく出来た彼氏ばかり登場するので、あれか、社会人デビュー男性が不良高校生マンガ読むようなもので、社会人恋愛デビューの女性がおくてでなかった高校生の恋愛を漫画で追体験するようなおや、誰か来たようだ

ピンクハウスのブラウスとか、ブルックス=ブラザースとか(綿シャツもしくはオックスフォードと書いてありました)エッチオーエムエムイーと書いてオムと読むとか、ラコステのポロが似合う男とか、西友のスラックス(綿ギャバというらしい)とか、いろいろ書いてありましたが字が小さい(特に手書き)で読めない文字も多かったです。

頁116、トラッドという単語が出てきて、この、伝統を意味する英語由来のカタカナ外来語は、トレンドという、似た音でかつ意味の異なる単語(トレンドは流行を意味する( ー`дー´)キリッ)との同音忌避から使われなくなったのだろうなと思いました。

本書は至るところに「ボイン」という単語が登場し、それもそのはず、この当時まだ「巨乳」ということばはなかったです。アダルトビデオも、現在に至るような形式のものはまだなかったと思います。どうでもいいですが、この感想を書くにあたり、Kindleで『櫻の園』を検索したところ、フランス書院文庫の『櫻の魔園 淫女教師と早熟女子高生』という本も出ました。アダルトが出るとはおどろきです。

本書の核心部分の百合パートだけ時代を超越していて、それ以外ぜんぶ21世紀に至る時の流れの洗礼を受けずにはいられない、そんな気がしました。あと、併録の『スクールガール・プリンセス』に出てくる生後数ヶ月の娘の名前が「伽里伽」というのですが、キラキラネームのはしりと考えればよいのか、それとも何かすごい意味があるのだろうか、分からないです。本当に分かりませんでした。なんなんだろう。

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櫻の園―――――――――――― 数百本の桜に囲まれた丘の上の女子高校、桜華学園。花の季節になると、薄紅のかんむりをかぶっているように見え、誰が名付けたのか、そこは「桜の園」と呼ばれていた。桜華学園演劇部では、その名にちなみ春の創立祭には、必ずチェーホフの「櫻の園」を上演するのが伝統になっていた―――。そんな演劇部に所属する乙女達の思春期のほのかな心情を桜の花に寄せて綴る―――。

奥付によると、チェホフ『桜の園』は岩波文庫版を引用してるそうです。以上