船戸与一『運河の流れに』<東京難民戦争、前史 第一話>を読みました。『男たちのら・ら・ば・い』"Men's Lu.lla.by.e." (問題小説傑作選3⃣ハード・ノベル篇)Mondai shōsetsu kessakusen Vol.3 Hard Novel anthology(徳間文庫)Tokuma Bunko に入ってます。

プラ・アキラ・アマロー師の集英社文庫『東京難民事件』を検索していたら、これに収められている船戸与一『運河の流れに』から始まる<東京難民戦争、前史>シリーズと、佐々木譲『真夜中の遠い彼方』が、同じ題材をモチーフとして小説に昇華させていると個人の方のブログにあり、後者は貸出中で、前者はアマゾンに伍拾壱日元で出品があったので買ってみました。ご教示多謝です。

送料参佰日元。アマゾンポイントが玖拾玖日元あったので使って、実際に支払うのは弐佰伍拾弐日元。デフレ脱却。日本の古本屋などでもう少しはマシな価格、五〇〇円くらいの出品があるかと思ったらなかったです。どういう時代なんだろうな、ほんと。五十一円てさあ…

で、船戸与一はこのシリーズをあと二作書いて、そのままお蔵入りにしているそうで、解説の結城信孝によると、

インドシナ半島の取材スケジュールが調整不可能となり三話で中断。壮大な物語を構想していたという。単行本未収録となっているのは、以上の理由による。

と書いてあるのですが、私が一作目だけ読んで思ったのは、逆ではないか、現地へ行かずとも出来た取材の範囲内で、フィクションとしての初期構想と、経済難民擬装難民が錯綜する現実との齟齬に、以後の執筆を断念したのではないか、ということ。

頁475

 インドシナ半島の難民、とくにベトナム難民とカンボジア難民が協力して何かをやりだすと知ったら世間は何と言うだろうか? この梶木荘でもベトナム人カンボジア人のあいだには何となくわだかまりがある。だが、難民救援センターに保護されている連中に較べれば、おれたちの対立なんてしれたものだ。あそこではベトナム人カンボジア人はたがいにそっぽを向いて口も利きはしない。そういうベトナム難民とカンボジア難民が組めると考えている新聞記者がいまひとりでもいるだろうか? 

 これくらいは調べた上で書いてるということ。ヘン・サムリンを操ってカンボジアに侵攻したベトナム

 頁450

「そ、そんなの、はじめて聞いたぞ」

カンボジア人は頭が悪いからな、だいじなことは何も知らないんだ」

 ふだんならこれがきっかけで口論のはじまるところだったが(以下略)

 上の会話の相手はベトナム人

頁459

「みんなの前じゃ日本語を使う約束じゃないか。おまえがカンボジア語を使うなら、おれだってベトナム語を使うぞ」

「い、いくら貯まるかを計算してたんだ、一年間で。ボーに一万円渡すから、月々浮くのは三万円だろ? それをそっくり貯めるとすると……」

「三十六万円じゃないか! やっぱりカンボジア人は頭が悪い。こんな簡単な計算もすぐにはできないんだから!」 

 こういう会話をする彼らの大半は、歌舞伎町と、老華僑絡みの、横浜中華街、福富町等の飲食店(裏カジノ含む)かけもちで働いていて、事件の発端となるラオス人の少女だけが、品川の喫茶店。その子の帰りが遅いとなると、すぐ、店の経営者は日本人なのか韓国人なのか、という怒鳴り声の質問が飛び交います。それが日常、考えるべきことという。

ベトナムの諺が二つ出ます。卵の欲しい病人は値段を釣り上げるものだ(頁457)五頭の水牛が河から出るためにはまず最初の一頭が水から出なければならない(頁476)

この作品は問題小説の1985年1月号掲載。二作目は『巣窟の鼠たち』というタイトルで同年7月号(通号213号)三作目は『銃器を自由に!』で同年10月号(通号216)国会図書館に複写サンビスを頼んだのですが、

通号213号、214号、216号は現在所在が不明です。 

 とのことでした。

f:id:stantsiya_iriya:20210521171219j:plain

ほかに蔵書がないかちょろっと図書館検索したのですが、ないデスネエ。珍しく問題小説のバックナンバー保管してくれてる目黒は1988年からだし、大宅壮一文庫はこれ持ってないし、日本近代文学館国立情報学研究所に1970年代のバックナンバーがあるそうですが、読みたいのは1985年の。

これくらいのことはほかの人も検索したようで、ウィキペディアの「読楽」(問題小説の後継誌)の、主な掲載作品という項目に、このシリーズがババンと書いてありました。

f:id:stantsiya_iriya:20210521171845j:plain

読楽 - Wikipedia

でもまあ読めないんだろうな。いきなり船戸与一が探検部後輩の助けを借りて、大幅に構想を変更した<群馬経済難民戦争、継承>シリーズ最終章『飛光よ💛飛光よ💛』を突然発表するとかしたら日の目を見るのかもしれませんが… もうおなくなりにならはった。どっとはらい

船戸与一 - Wikipedia

男たちのら・ら・ば・い (徳間書店): 1999|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

『男たちのららばい』の他の作品もおもしろかったので、稿を改めて書きます。以上