カバーフォト=島田達彦 カバーデザイン=熊沢正人 カバー印刷=真生印刷株式会社
解説 結城信孝
男たちのら・ら・ば・い (徳間書店): 1999|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
簡易検索結果|「問題小説傑作選」に一致する資料: 9件中1から9件目|国立国会図書館サーチ
解説によると、問題小説創刊30周年企画としてスタートした傑作選は、この巻を以ていったん完結の運びだったそうです。しかし実際はこの後もロマンポーノ小説を中心に刊行され、実に全九巻という、長期シリーズになっています。その中で、本巻はちょっと毛色がちがうような。そもそも「ハードノベル」という言葉自体がこの巻の為の造語で、1999年の新刊時点で馳星周がもう世に出ているのだから、「ノワール編」でよかったと思います。なんでわざわざ造語で勝負しようとしたのか。そうでなくても、ハードアクション、バイオレンス、クライムノベル、なんぼでも既成の形容句があったような。そのどれにも当てはまらないというなら、どうしたら。男根主義小説とでも呼ぶか。
巻頭作は、例の、かんごくからきだ、空母赤城にケツの毛まで毟られて、葬式代も捻出がたいへんだった(と、大沢在昌のインタビューで読んだ気瓦斯)小泉喜美子のエクストラハズバンドの作品。1967年、問題小説創刊号巻末を飾ったそうで、日本文芸社『死は花の匂い』に収録されてるそうです。このアンソロジーで、単行本未収録は、船戸与一の難民逆襲小説と、河野典生という、この人だけ私が名前知らない作家さんの、二作のみ。あとはなんしかほかでも読めます。
この話は、戸塚の社宅から横浜に満員電車で出勤するサラリーマン男性が、最近精力の減退に悩んでいることもあり、前にぎゅうぎゅうにくっついた女性に痴漢を試みて即糾弾され、同じ社宅の住人に目撃され冷笑されたので、もうダメだ~と、給料袋ごと寿の簡易宿泊所に蒸発して、うまい具合にワケアリだが誠実で腕も立つ二人組と知り合い、日雇いにありつき、それが手ひどいピンハネで知られる組の仕事だったので… という話。きわめて小市民的なオチになるのがひどく面白く、だからこの本は「ハード・ノベル篇」なのかなと思ったりしました。
サラリーマンがいきなり沖給仕のような仕事が出来るわけなく、手配師は最初断りますし、すぐアゴ出たりするのですが、この辺は作者の学生時代の実体験も影響してそうです。スティーブン・キングの小説で、復讐のため、歯を食いしばって慣れぬ肉体労働に必死でついてゆこうとする『ドランのキャディラック』みたいのも読んだことあるので、どっちに進めたほうがおはなしとしてよいのかなあ、と考えたりしました。小市民が小市民の世界に回帰する小説か、涓滴岩を穿つ、雨垂れ石を穿つの小説か。
stantsiya-iriya.hatenablog.com
てひどいピンハネの手配師は、読んでて、沖給仕でしたので、小泉一族(ボソッ と思ったりしました。別れた奥さんの喜美子さんの小泉でなく、横須賀のほうの、お・も・て・な・し・のしとのパートナーの人のパパ「殿、ご出陣デスゾ反原発」のせんぞ。
頁12
電車は鉄橋を越え、小さなバラックの並ぶ崖っぷちを通過した。その周囲はさまざまな紙屑の山が積みあげられ、汚い服を着た子供たちが元気よくその山によじ登っていた。
――見ろよ。
心の中の声がささやいた。
戸塚から横浜に向かう東海道線から、1967年としても、こんな、スモーキーマウンテンというか、トンド地区というかの風景って、あるんかなあと思いました。横浜過ぎて川崎へ向かう途中もしくは、根岸線の車窓風景ではないのか。東海道線横須賀線。う~ん。
日当と書いてデズラと読む。死体と書いてロクと読む。以上