『ゴールドヒルのサムライ』"SAMURAI OF GOLD HILL" by Yoshiko Uchida 読了

ゴールドヒルのサムライ (ひくまの出版): 1999|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

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吉田悠紀子 訳 / 小坂茂 絵 いっしゅん、琉球のびんがたかと思ってまいましたが、会津藩です。ならぬものはなさぬことです。兄は白虎隊で戦死という設定。

NDC 933  247p  217mm×157mm

ひくまの出版 - Wikipedia

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 1869年(明治2年)6月、徳川幕府ばくふが倒たおれ、まだ混乱こんらんが続いている日本の会津若松あいづわかまつ(福島県)から、ひそかに太平洋を越こえ、アメリカに渡った人々がいた。さいごまで、政府軍に抵抗ていこうして破やぶれた会津藩あいづはんの武士松坂源之助まつざかげんのすけにひきいられた一行いっこうだった。彼らはアメリカに移住いじゅうしてそこに会津の新天地を建設けんせつしようという、壮大そうだいな夢ゆめを描えがいたのだった。その中にまだ12歳の幸一こういちとおけいがいた。  この物語は、初めての異国で夢を追い求め、傷きずつきながらも成長する少年少女の魂たましいの記録である。

1992年5月、訳者が前書邦訳刊行を報告に初めてサンフランシスコ郊外の著者邸を訪れたさい、翻訳を勧められた本。それから作者急逝、いくばくか時を経て、1999年、アンゴルモアの大王が降臨するななの月の前の月にやっと刊行されたとの由。正直、作者の先祖の話ということでしたので、士族の移民の苦労アンドサクセスストーリーかと思いましたが、サクセスしなかった。おどろきました。挫折と失意のまま、児童ものの話が終わるのかと(いちおう、へこたれないという前向きにはなっています。が)

原書も、電子版は見当たらず。2005年に出た版が最新みたいです。

頁90によると、明治政府の官民移民が初めてワイハーに到達する1885年にさかのぼること16年前にすでにカリフォルニアで、会津藩再興を目指す人たちが植民を開始していたという、まさに事実は小説より奇なりの実話ベースのおはなし。仲介をしたスネールさんという会津藩出入り商人のオランダ人と、そのお手伝いのおけいさんだけが実名で、あとは仮名とのこと。じっさいにこの人たちは「ワカマツ・コロニーの人たち」として、資料が何点かアメリカに現存しており、関係者が肉筆で書いた登場人物の墓碑もあるとか。

沖縄のひるぎ社から出ていた沖縄文庫『福州琉球館物語』は、琉球朝貢使が福建省の福州に置いた清国側拠点のおはなしですが、廃藩置県後、一時期、福州に琉球の亡命政府が存在していたことが書いてあります。そういうことって、同時多発的に、それなりにあったんだなあと。

福州琉球館物語 : 歴史と人間模様 (ひるぎ社): 1989|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

会津若松にはたいそうむかし行ったことがあるのですが*1会津藩士のカリフォルニア移民のことは知りませんでした。当時は興味がなかったのかな。

ja.wikipedia.org

https://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/j/rekishi/jinbutsu/jin20.htm

rafu.com

ムッソリーニの顕彰碑のことは、地元の学芸員の方から伺ったんですが、若松コロニーは知らなかったです。あと、企業や農協の団体旅行がなくなったので、会津に観光に来る人が激減したと、データ上から立証されたという話も聞きました。

buono-italia.com

まあなんというか、本書によると、計画はすごかったんですが、結末がメチャクチャな話で、生糸が日本の主力産業だったわけなので、カリフォルニアでも養蚕と生糸製造を試みて、蚕をタマゴのままカリフォルニアにもってくことに成功するのですが、育てている間に病気か何かで蚕が全滅してしまうという。同様に、会津の誇る漆工芸なども主力な商品にしようと、腕の立つ職人さんたちをピックアップして連れて行くのですが、漆の苗が根付かずぜんぶ枯れてしまい、開墾仕事ばかりで先の見えないコロニー暮らしに疲れ果てた職人さんたちは、三々五々、村を離れて、街やほかの農園で雇われて現金収入を得るようになり、地元の女性と通婚するものも出てくるという、そういう、イッセイの先駆として、そうなるかなあという展開。

とどめは、ダンス・ウィズ・ウルブスにも、西部の荒くれのなかのしょうもないの(英語もメチャクチャ)が出てきますが、そういう連中とトラブルになり、白人優位ですので、水利権のある彼らが河川を堰き止めてコロニーの灌漑を日干しにして、おしまいという。そういう苦難を乗り越えて成功するとこまで行ってオチるということがない。悲惨なままFA。どらえも~ん、タスケテー。

先住民の友人が出来て、砂金のとれる場所を教えてもらうも、これもフォーティーナイナーズたちに見つかって、白人優先採掘権で、ぜんぶ横取りされる。先住民の集落でポトラッチみたいな収穫の祭りがあるのですが、そこでも、まわりにうろうろ白人の見物客がいて、先住民は白人ガン無視で祭りを続けるという。白人は祖霊崇拝がないわけですが、邦人はあるので、このように年イチで大量の供儀をするより、日本人方式で、毎日ちょびっとずつ仏壇にお供えをするほうが、食品ロスが少ないんじゃない、などと主人公が考えるくだりは興味深かったです。こんなとこでも民族間の比較するのか。

で、主要キャラのうち、実在した人物の死に方が、びっくりで、本編では元気でピンピンしたまま終わるので、てっきり登場人物の誰かと結ばれて、ウチダさんのご先祖にでもなってるかと思うと、あとがきと訳者あとがきで今北産業で終わってて、なにそれという。

www.aizukanko.com

アメリカ人は日本人のストーリーでもこういうふうに、自助とか自立をたっとぶので、甘いオチは作らないのかしらと思いました。いやいやハリウッド映画もご都合主義いっぱいあるはずだし、う~ん。作者が質実剛健というか質素倹約というか、美徳を持っているのかも。日系人サクセスおっけーのつもりで読んで、びっくりでした。どらえも~ん。以上