装丁 成原亜美(成原デザイン事務所) カバー写真 Chongtian/EyeEm/gettyimages
ななつめの話。
帯裏 まだ15歳なのにいち牧童として残りすべての人生を捧げることを決意した少年に襲いかかる、羊泥棒やら足場の悪い岩場に取り残されたはぐれ羊レスキューなど、矢継ぎ早の試練。毎日オカンが作ってくれたお弁当を持って放牧に向かうだけの人生だったはずなのに、どうして放生ひつじまで盗まれちゃうのさ、という人生の難しさ満載小説。そのまま人生をまい進したとて、ヨメの来てがあるのかどうか。農家嫁不足はチベットにも共通する問題や否や。15歳の牧童は山中から携帯電話で自宅と連絡とりあってます。電波来てるんですね。
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『西の空のひとつ星』より、いっそう上記イタリア民俗誌との近縁性を感じさせる小説でした。いつまでもこの仕事を続けたいが、まわりはどんどん廃業して、羊売買による現金収入を得て、県城や省会に出稼ぎにゆくばかり。自分はそうした生活が好みでないが、さりとて、いつまでこの仕事が続けられるのか。瞑目して考える。
羊泥棒はケサル王伝説と比較されるほどの悪党です。
頁167
「ごろつきラクトゥクっていう泥棒野郎だがな、ケサル王の敵、ホル国の武将アガ・テプトゥクの再来とまで言われているそうじゃないか。濁世じょくせ末法の時代には泥棒までこんなふうに威光を放つなんて驚きだな」
じょくせと読むそうで、チベット関係者はしばしばすっごく仏教用語に堪能だと思うときがあります。職業柄そうなるのでしょうか。あるいはそういう人がチベットにも関心を持つのか。
酔生夢死 | スピーチに役立つ四字熟語辞典 | 情報・知識&オピニオン imidas - イミダス
「酔生夢死の一生を送ることは、別な意味で考えれば幸福なことかもしれない」などと使ったりする。
吾輩は猫であるのラストとも違いますが、この小説のラストもまた無常を感じさせると言えば感じさせます。彼のような後ろ向き志向の人生の場合、これでよかったのかもしれない、とのたまう人が絶対いそうでこわいです。こわいこわい。こんな最後よくないですからね。以上