(北海道文学全集)<Complete Works of Hokkaido Literature.>第十二巻 Vol.Ⅻ『北辺の観照』"NORTH SIDE SIGHTING" 立風書房刊 TACHIKAZE SHOBŌ 読了

森村桂のオトーサン、豊田三郎サンの小説を読もうと思って図書館で検索したところ、これしか出ませんでしたので、借りて読みました。豊田サンが北京について書いた小説は、日本の古本屋でバカ高い値がついてるだけで、それはちょっと手が出ないです。

北海道文学全集 (立風書房): 1980|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

『熊の出る開墾地佐左木俊郎著. 昭和四年四月執筆

『闘争する二十三人 金子洋文著. 昭和四年十二月執筆

月寒の女まで 下村千秋著. 昭和四年十一月短編集収録

帯広まで 林芙美子著. 昭和十一年七月雑誌掲載

函館病院 吉川英治著. 昭和七年二月雑誌掲載

嘱託医と孤児 石坂洋次郎著. 昭和十年八月短編集収録

ノツケウシ 野上弥生子著. 昭和九年五月雑誌掲載

突棒船 間宮茂輔著. 昭和十三年十月短編集収録

鮭と共に 大江賢次著. 昭和十三年十月雑誌掲載

酪農 鑓田研一著. 昭和十四年七月雑誌掲載

蝦夷日誌 村上元三著. 昭和十四年雑誌掲載

光を背負う男 荒木巍著. 不詳

金山插話 大鹿卓著. 昭和十四年四月雑誌掲載

暁闇 丹羽文雄著. 昭和十六年八月雑誌掲載

林檎畑 豊田三郎著. 昭和十六年八月雑誌掲載

五稜郭落つ 榊山潤著. 不詳

北海 福田清人著. 昭和十七年九月短編集収録

北の旅 徳田一穂著. 昭和十年十月雑誌掲載

人魚の海 太宰治著. 昭和十九年十月雑誌掲載

解説 佐藤喜一

戦前戦中に発表された北海道にまつわる短編小説を集めた巻みたいです。内容は、プロレタリア文学あり、転向生産文学あり、大衆文学ありの盛り沢山。戊辰戦争ものを除けば、テーマは北海道の開拓ライフを描いたものが多いです。私としては、やはり大衆文学の書き手(林芙美子吉川英治、石坂洋二郎ら)がウマいなあと。

全集本についてくるオマケの小冊子には、『父と北海道への旅』徳田一穂『風土と文学 ー北方の文学気質ー』相馬正一(北海道史断想)連載7『地主制について』永井秀夫 と、編集室だよりが入っています。

■編集室だより

▼(略)発刊以来一年目を迎え、好評のうちに進行致しております。読者の皆様のご支援に深く謝意を表します。▼すでに雪の便りも聞き及びます。新年もご健勝のほどを。

地主制について、道と府県の比較で語っていて、おもしろかったです。いくつかのお話の背景のお勉強にもなります。

監修委員 井上靖 更科源蔵 船山馨 八木義徳 
編集委員 小笠原克 木原直彦 和田謹吾

『闘争する二十三人』にパンジュウという言葉が出てきて、さっぱり理解出来ず、どういう死語だろうと思ったら、和菓子の名前でした。

ja.wikipedia.org

函館病院』は、司厨人と書いてコックとルビを振っています。

ajca-hokkaido.jp

奈良・平安の昔から、食事を調理する所を「厨房(ちゅうぼう)」と呼んでいました。この「厨(くりや)」は、「食糧を保管する所、食物を調理する所、台所」を意味します。「厨を司る人」から、料理人は「司厨人(しちゅうにん)」と呼ばれていました。

この本に収録された小説は、発表当時の伏字や空白がそのままです。戦後なので、もう書いたまま印刷してよいはずなのですが、そのままです。

『酪農』には、「パアル・バックの小説「✖✖」」という記述があり、『大地』以外選択肢がないと思いました。

また、『五稜郭落つ』は、「恐れ多くも             天朝のお思召は寛大であらせられ」と、十三文字空白になっています。昨今の、女性・女系天皇反対から一転した、眞子サンと小室サン叩き嵩じて秋篠宮家叩きを見るにつけ、戦前だったらけっこう皇族叩きのコメントは不敬罪になるんだろうな、錦の御旗が大衆にある時代でヨカッタデスネ、と思い、この空白を見ても同じところに思いを馳せました。

あと、吉川英治サンの小説は、せりふのカギカッコが、なべて二重カギカッコになっています。理由は分かりません。

『光を背負う男』には、熊手に似た工具、「まんが」が登場します。掘り起こした土を細かく崩すのに使用するとか。初めて聞きました。

「メノコ勘定」という言葉は私も聞いたことがありましたが、『暁闇』では、「介抱」と呼ぶのだと書かれています。

『暁闇』

 元禄元年、水戸光圀が巨船快風丸を石狩に派して蝦夷と交易をしているが、そのときの交換比率は、一俵一斗二升の米に対して、生鮭百尾であった。交換比率は絶対に動かされなかったが、証人は品質を下げ、量目をごまかすようになった。はじめ米一俵は二斗入であったが、幕末には七升入の俵が現われた。が法令の「米一俵」にはちがいないのである。この蝦夷との交易を介抱と呼ばれていたが、蝦夷人は和人からずいぶんひどい介抱をうけてきたわけである。

北海道開発振興機構 12 よく聞かれるアイヌ民族に関する単語 09 アイヌ勘定

https://visit-hokkaido.jp/ainu-guide/pdf//ainu_guide_p12.pdf#page=6

https://visit-hokkaido.jp/ainu-guide/ainu_guide.pdf#page=112

『林檎畑』林檎の袋貼りの箇所

「手数がかかるものですね。一日、どの位袋が張れますか。」

「そうですね。二三千でしょう。一万という記録はありますがね。僕などは五百で、最低ですな。あすこに働いている母は、四千は楽に超えますよ。」

(略)

「伯母は朝は三時に起きて、夜八時にならないと畳の上に坐らないのよ。」

「一つあなたも袋張りをするのですね。」鏡子に対する私の希望はそれだった。

「出来ないわよ。二三分で脳貧血だわ。」彼女は眼鏡をふきながら答えた。私は働いたことのない、箒さえ重いという彼女の細く青い手を見つめて哀しんだ。実際そうにちがいない。二分間で脳貧血を起すような人間がどうして生きていてよいのだろうか。彼女はもう裕福なお嬢さんでもないし、便利な都会の住人でもない。北国の土の上に生きなければならない女なのだ。教育がまちがっていたのかも知れない(以下略)

北海道文学全集の全貌は下記。

(1)

CiNii 図書 - 新天地のロマン

(2)

CiNii 図書 - 漂泊のエレジー

(3)

CiNii 図書 - ヒューマニズムの照明

(4)

CiNii 図書 - 自立の道程

(5)

CiNii 図書 - 旅情の軌跡

(6)

CiNii 図書 - 抵抗と闘争

(7)

CiNii 図書 - 北方人の血と運命

(8)

CiNii 図書 - 開拓の礎

(9)

CiNii 図書 - 大地との闘い

(10)

CiNii 図書 - 朔北のドラマ

(11)

CiNii 図書 - アイヌ民族の魂

(12)

本書。

(13)

CiNii 図書 - 青春回帰

(14)-(15)

CiNii 図書 - この風土(フウド)に育つ

(16)

CiNii 図書 - 存在の探求

(17)

CiNii 図書 - 女流の開顕

(18)

CiNii 図書 - 国境の海

(19)

CiNii 図書 - 凝視と彷徨

(20)-(21)

CiNii 図書 - さまざまな座標

(22)

CiNii 図書 - 北の抒情 : 詩・短歌・俳句編

別巻

CiNii 図書 - 北海道の風土と文学

やはり大衆文学は面白いってことで。以上