『「ずる賢さ」という技術 日本人に足りないメンタリティ』"THE ART OF <CUNNING>. The Mentality that Japanese people lack. " by Morita Hidemasa (Japan National Football Team : Samurai Blue) サッカー日本代表 守田英正 読了

なんとなくアマゾンを見ていたら、出て来た本。ずるがしこさを肯定する本を、邦人が書いた点に興味をひかれて、読んでみました。中国でずるがしこさを兼ね備えたヒーローに人気があるのはデフォで、でも邦人がそれを言うんだという。邦人なら、その中国代表が日本代表にずっと追いつけないことを言ってFAだと思ったので。また、本書「はじめに」でも、歴代外国人代表監督が異口同音に「日本人にはマリーシアが足りない」と言ってるセリフが列記されてますが、加茂監督にしろ岡ちゃんにしろ森安監督にしろそういうことは言ってないみたいで、邦人監督のそうした発言は書いてありません。

ja.wikipedia.org

ほんとに今のサッカーはマネーゲームで、守田サンのウィキペディアは四十五の言語で出てきます。沢木耕太郎サンですら日本語版しかない活字の世界とはおおちがい。本書のタイトルをグーグル翻訳してみたのですが、「ずる賢さ」がカンニングになってしまい、日本ではカンニングというと、チートというかんじで、騙し合いの頭脳戦勝者のイメージがなく、「ザ・カンニング、IQゼロ」なんて映画もあったので、英語でも同じイメージかと思ったのですが、あれはフランス映画で、しかも原題も英題も、カンニングなんてひとことも入ってませんでした。

ザ・カンニング IQ=0 - Wikipedia

悪知恵って英語でなんて言うの? - DMM英会話なんてuKnow?

"sneaky"や"sly"も「ずるがしこい」を意味する言葉らしいのですが、頭を使ったクールでスマートなずる賢さというと"cunning"になるようで、しかもその日英のズレはpixiv百科事典に詳しく説明されてました。

dic.pixiv.net

ずるがしこさ肯定といえば聞こえはいいのですが、たいがいの人はその努力?を、「サボる」ために使うと思います。

頁67

でも僕は今のままで終わりたくないんです。

W杯とUEFAチャンピオンズリーグ(以下、CL)で優勝したいんです。

こんなこと言わない。小林まこと『柔道部物語』では、主人公三五十五の次の代がその高校で最強世代になるらしいのですが、その次の代は最弱世代になるようで、名前がぜんぶ実在のマガジンの漫画家で、だからかと一発ギャグとして読んでたのですが、そのうち具体的な描写がありました。三五の同級生にサボリの名人がいて、純真真面目な下級生たちに微に入り細に入り練習の手の抜き方、サボリ方を教え、下級生たちが、何故手を抜くのか、やってるフリだけするのかと問うと、「つかれるだろ~」と言い、疑うことを知らない下級生たちは「なるほど~」と心底納得し、そこから最弱の道が始まります。世の中そんなもんじゃないでしょうか。

頁26

 大学のときに、遊びにかまけてドロップアウトしていくやつは腐るほどいました。

「おまえら何しに大学来たの」

 心の中ではそう思っても、僕は上を蹴落としてでも這い上がらなければいけない立場ですから、何も伝えませんでした。

 もったいないな、かわいそうだなと思いつつも、「俺だけは上に行くよ」と強く思っていました。

職場でもこういうガツガツした人間がいる一方、あっそう、おだいじに、俺はのんびりマイペースで毎日楽しく生きるから、みたいに返して落ちこぼれというか、規律違反ばっかりの人もいるわけです。ただ、この両者は表裏一体で、他人の足をひっぱったり、根も葉もないうわさを流したり陰口を叩いたり、人たらしをしたりで、前者は出世、後者は不祥事を大目に見てもらったり尻拭いをしてもらったりするわけで、組織としてはダメです。上記、中国代表が何故日本代表に~の答えでもあるわけですが、守田サンのように、試合中のマリーシア例を手を変え品を変え説明し、相手を慢心させたり、びびらせたりすれば1mのスペースで局地戦に勝利出来、強いてはルール・ザ・ゲームとまではいわなくとも、試合に勝つことが出来るという方向には向かいません。私はこの本を読んで、この人は、自分を理解してほしいからこの本を書いたとあるけれど、実績を積み上げることとずる賢さを両立させる思想は、どこから来たのだろうと、とても興味を持ちました。

www.sankei.com

www.asahi.com

五歳離れた高校保健体育の教師でサッカー部監督のお兄さんや、中学で全国三位になった時のチームメイトでセレッソユースに進みながらその道をやめてしまった親友を検索したら、さすが代表周りというか、記事がすぐヒットしました。なので、ウマが合わなかったという高校サッカー部監督サンや、流通経済大学サッカー部の同期で後ろから削ってくるヒドい奴で筋トレ仲間で卒業後住宅販売会社の営業で全国トップテンの成績をあげてる人も記事になってるのだろうと思います。その一方、伴侶となったモデルサンの同僚がサシデートがイヤでダブルデートを主張し、おかげで守田ファミリー結成の契機となったというフロンターレの先輩や、たばこを毎日一本めぐんでくれた喫煙者の流通経済大選手は、名前が出ないので、マスコミもわざわざつきとめて記事にはしてないと思います。コタツを出てコンフォートゾーン(頁62)を出て仕事をする意義もないですし。たばこをめぐんでくれた選手もまた「ずる賢さ」を発揮して、ライバルを蹴落とすためにタバコを恵んでたのかもしれませんが、それはベクトルがちがうよと。

守田サンはカメレオンのようなペルソナ人格者で、相手によって態度を変えるのではなく、キャラを変えるタイプのようです。その彼は大学時代仕送りをパチンコで浪費していたそうで、どこがマリーシアやねんという感じですが(さらにいうと大学四年間は恋愛禁止を自らに課してたそう)その親御さんの仕事の箇所を読んで、これで「ずる賢さ」をいい方に使おうと次男が考えたのではないかと思いました。軟式テニスで国体に出た経験があるスポーツ一家、というステレオタイプだけが独り歩きしてるかもしれませんが、父親の仕事の箇所がとてもよかった。

頁141

 父は化学工場のプラントで働いており、たとえば樹脂が固まらないように溶剤で希釈しながら顔料を混ぜ、塗料をつくるといった仕事をしています。

実務でスキルをあげられる仕事である反面、危険と隣り合わせで、実際、効率化のために工程を短縮した時事故が起き、樹脂の爆発でおとんの人は頭がい骨骨折の大けがをします。

浅野選手の大家族や、三苫選手が小学生時代カギっ子で家に入れず、同じマンションの孤独のグルメの人の部屋に入れてもらって暖をしのいでゲームをやってた件など、私のようにあまりニュースを見ない人でもそれぞれの選手の形成における家族の役割は少し分かる気もしますので、守田選手の場合も、本人が父親を見て世をすねるパターンではない、陽の当たる道を歩むのにはわけがあると、思いました。

守田一家は一家でカラオケBOXに行くそうで、家族カラオケって職場でもあまり聞かないので(昔の人は豆カラなどやりましたが)なるほどな~と思いました。

守田サンは一歩間違えると人から信用されなくなるかもしれませんし、オバトレ症候群をたくさん見てきたから「ユルく」気を抜くことの重要性を理解してるとしつつ、細かい忘れ物をするクセが治らない、絶対にマネしないでくださいといいつつ試合前はカフェイン過剰摂取の一歩手前だったりなど、バランスのとれた人間ではないことも見て取れます。しかし五歳上の兄がカタい仕事なので、志村けんのように、メチャクチャ道を外れはしないと思いました。

誰とでも合わせることが出来るといいつつ、高校サッカー部の監督とはまったくソリもウマもあわず、反撥ばかりだったようですし、そうした自分の性癖を、もうひとりの自分という人格を作り出し、自分で自分にツッコミを入れるようになって克服したというくだりもよかったです。あと、中学サッカー部はランニング十周の罰が頻発だったので、それで「ずる賢さ」を「サボる」という方向に進めなかったのかもしれません。罰って今ではほめられたことではなくなってしまいましたが、効能はあるのだと。

「おわりに」で、幻冬舎編集者箕輪厚介サンと、代理人事務所「HEROE」龍後昌弥サンほかに謝辞。ブックデザイン トサカデザイン(戸倉巌 小酒保子)編集アシスタント 篠原舞 木内旭洋(幻冬舎) 編集 箕輪厚介(幻冬舎

表紙の、帯の下の部分。この、ヤマネコみたいな表紙の意味は分かりません。ヤマネコみたいな選手なんでしょうか。フロンターレACLで優勝出来ない理由の分析も、日本ならでは同調圧力だそうで、「ガツガツしない」同調圧力がエゴイストを生みにくいクラブのふいんきを作り出し、ガツガツくる韓国チームなどが苦手なので、それでだとか。なるほど。以上