『1984年に生まれて』《生于一九八四》郝景芳 "Born in 1984" chapter 10, 11 and 0000. by Hao Jingfang 第十章、十一章、0000章 読了

十章は、一ヶ月の入院生活です。日本も滝山病院とかいろいろありますが、別にこの小説は中国の精神医療を糾弾する意図があるわけでもないので、その辺はありません。むかし、北京の銭湯を描いた映画「こころの湯」を見た時ですかね、中国の精神医療もいろいろありそうと思いました。

この小説について言うと、この章は北京五輪の期間ですので、一切北京五輪が描かれないな、と、ずいぶん後になってから、気づきます。主人公はその時入院中で、その後の生活でも、北京五輪とあまり関わらなかった。井上尚弥を破ったウズベキスタンの選手が中国のわりと年くった選手に敗れたこととか、内村航平のライバルの武漢の選手が好きなテレビ番組《奥特曼》(ウルトラマン)と書いていたこととか、内モンゴルの女子柔道選手のブログを私が読んでいたこととか、香港の富豪と婚約した飛び込み女子の選手は、実は好い仲の恋人と引き裂かれたというゴシップとか、女子水泳選手で、徐サンと田サンの子どもなので、両親の姓をそれぞれ名乗った復姓の徐田龍子サンが、日本人のような名前に見えるので、私もずいぶん彼女にまつわるネットの風評は追っかけたものですが、そのこととか、すべてこの小説の主人公には関係ナッシング。

十二月に父親と連絡をとって、二月、春節の時期に、主人公は渡米します。父親は英国に十年、イタリアに六年、ドイツに四年、チェコに二年いた後、米国に移住しました。チェコは冒頭出て来るのですが、例の東欧一旗組新華僑と混同させるような書き方でしたので、まさかこんな流転とは、というのが正直な気持ちです。米国といっても、「平原の広がる小さな町」で、「飛行機を降りても何も見えなかった」平屋建てばかりで「家と家の距離はかなり離れており」そんな街に州立大学があるので中国人留学生もいて、父親は中華料理店を経営しています。ビュッフェ形式のレンチン中華とおぼしき店で、厨房は人を雇って、毎日父親が考えたメニューを渡して作らせています。客の三割は米国人で、邦人や韓国人も來るとのこと。「入り口とメニューの中国語がなければ、ここが中華料理店だとはわからないほど」

主人公はこの街が好きになります。

頁241

 (略)二人で小さなレストランで地元のハンバーガー、巨大なビフテキを食べ、甘すぎてどうしようもない特大アイスクリームを舐め、ルートビアを飲み、地元バンドのギター演奏を聴いて(以下略)

これが、私が中国小説で初めてルートビアの出る場面を読んだ瞬間です。すごいなあ。ルートビアの出る中国小説。日本の小説にだってめったに出ないのに。

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荒野の湖にドライブします。考えごとがまとまらない時、父親はここで釣りをするんだとか。そこで、ふと、希死念慮というわけでもないのですが、主人公はやらかします。父親を動揺させます。殺伐とした米国中部の自然風景の描写を読んで、じっさいはもっとゴミや、地元のワルガキの痕跡があるだろうと思ったです。コラゲッサン・ボイルサンの『夜の精』"Greasy Lake"という小説のように。

『ごちゃまぜ』"GREASY LAKE & OTHER STORIES" by T. Coraghessan Boyle T・コラゲッサン・ボイル=著 須藤晃=訳 読了 - Stantsiya_Iriya

第0000章。主人公が対話してる相手は、深奥の自分だったのかという。以上