『N女の研究』中村安希 "The Research of N-Women(ENU-JO. It means〈NPO WOMEN〉) " by NAKAMURA AKI「第4章 女の人生は変化していくもの ーN女のライフイベントと柔軟な働き方」'Chapter 4 : A woman's life is ever-changing: Life events and flexible working styles for N-women' 読了

編集 二橋彩乃 デザイン 小林剛(UNA)  巻末に参考文献一覧。集英社WEB文芸RENZABUROに2015年1月から2016年4月まで連載を加筆修正・再構成。読んだのは2017年2月15日の2刷。第三章でトーンダウンしたように見えたのですが、そこからまた盛り上げて来ました。リバウンドメンタリティー。まだこんなに書くべきことがあるのかという。鷲田清一サンも折々のことばネタが多くて困ったことでしょう(鷲田サンがこの本を読んだかどうかは知りません)

N女の研究

N女の研究

Amazon

最初はビッグイシュー基金部門。「資金繰りが最も苦しいといわれる社会福祉NPOの新たなモデルとなれるのか?」の前振りで始まります。ビッグイシューの表紙にはよく有名人が出ると言われてるので「ビッグイシュー 表紙 有名人」で検索しましたが、下記のような結果です。

二段目左から三人目の女性をクリックしたら、ビッグイシューコリアの表紙が出ましたが、特にハングルが前面に出たデザインではないので、割愛します。なんとなく、ビッグイシューの表紙というとポール・マッカートニーのイメージが私の中では強いのですが、上にはそれが入っていないので、検索ワードを「ビッグ・イシュー ポール・マッカートニー」に替えて画像を出した最上段が下記です。

THE BIG ISSUE JAPAN502号 | ビッグイシュー日本版

https://www.bigissue.jp/wp-content/uploads/2025/04/31556_%E8%A1%A8%E7%B4%99%E7%94%BB%E5%83%8F.jpgたぶんすぐ見えなくなると思いますが、左に2025年5月1日発売号の表紙の画像URLを置いておきます。うまいこと検索結果に並んでくれなかった。最新号はジェーン・スー。その前はピアーズ・ブロスナン。その前は知らない黒人のひと。その前の前はインタビューがレオ・レオーニ(表紙ではない)でその前はレレー・ガガ。その前は枝元なほみという人の追悼表紙だと思うんですが、インタビューはデミ・ムーア。そのしばらく前にはヨシタケシンスケサンもいました。

それとは関係なく、基金のしとのインタビューは、自助グループのフェローみたいな感じで、みんなで料理を作って食べる「定例サロン」の場面から始まります。調理の大半は元調理師や飲食業界にいたホームレスの販売員サンだったので、おそろしくテキパキ作業が進んだそうです。中村サンはそこにだけ幻惑されたかもしれませんが、落ち着いてよく観察すると、どこもそうですが、雑談にだけ興じて何もしてない人が目についたり、しかもそういう人がみんなから挨拶されたりして、ある種の上下関係というか権力の所在が見えたりするかもしれません。

インタビュイーは慶應ギャルで信販会社というかカード会社が前職で、3.11で、やりたいことをやらないと人はいつ死ぬか分からないという思いを強くし、結婚が決まったことから「せっかくお給料のいいところにいるのにどうして」という親族らの反対、背後から撃たれる心配を排除した上でNPOに移ります。中村さん曰く「寿転職」だそうで、二正面作戦を回避したのはよかったと思います。前門の虎はいかんともしがたいが、後門の狼はいないにこしたことはない。前のジョブトレの人もそう言ってたのですが、ビッグイシュー基金部門は若年層ホームレスの社会復帰をやっていて、年配のホームレスに比べ、若年層はメンタルやネグレクトの影響、アディクトなどが大変だそうで、たぶん上のフェローというかサロンで、ボスキャラに挨拶しないで「俺は誰も恐れないぜ」と言いながら逃げたりとか、いろいろあるんだと思います。なので、そこのインタビューは、底が見えないので、そうそうに「NPOに求められる人材とは?」に話はシフトし、当のインタビュイーの人も、渡米する夫を追って退職、米国で出産育児にいそしんでいるソウデス。ということは子どもは米国籍があるのかな?

頁137 同様に離職渡米、パートナーのいる米国で大学院に通った難民支援協会の人のセリフ

「私が面接を受けた数少ない経験からですが、民間企業では、仕事に就いていなかった5年間はブランクです。ダラダラしてたんでしょって感じでネガティブに捉えられる。一方でNPOは、その5年間を貴重な人生経験を積む機会としてポジティブに捉える傾向がありました」

その後は、くだんの中村さんの友人のギロッポンN女の後日談。彼女はけっきょくNPOをやめて、もといたIT業界に戻って働きます。NPOでなくても社会貢献は出来るから、がその理由。

頁241

 ある時彼女は、団体の説明会にやってきたある女性について、次のように話していた。

「社会貢献がしたいんです、っていう希望だったんだけど、その人が言う社会貢献って何なんだろうと思ってさ。その人は、仮設住宅とかを回って被災者のお話を聞いたりすることが社会貢献だと思ってるみたいなんだけど……」

「ああ、それってよくいるタイプなんじゃないかな。NPOに応募してくる人って、社会貢献イコール人的援助みたいに思い込んでる人が結構多いみたいでさ。だけど、そういう人に限って実務能力がなかったりするから、団体としては雇いづらいみたいな話、結構聞いたことあるよ」

 すると彼女は、実は応募してきた女性には実務能力があるのだと言った。前職では、経理をやっていたらしい。

経理ができるって、それは強みだよ。十分貢献できるじゃん」

「でしょ? それがさ、本人はそう思ってなくて、経理しかできないから、社会に貢献できてないって思ってるらしくて」

経理できるほうが、社会の役に立ちそうだけどな……。被災者のお話を聞くとか、そういうことなら誰にでもできそうだし。もったくなくない?」

「う~ん、だから社会貢献ってさ、被災地行かないとできないとか、そういうことじゃないからさ」

 この手の話を何度か耳にするうちに、社会貢献っぽいことがやりたい人と、目の前の実務をこなすことで結果的に社会に貢献できている人は、違うのではないかと思うようになった。(後略)

この女性は、森ビルでばっかし仕事して、ちっとも現地に行けないのもストレスだったはずなのですが、ちがったかな。ともかく、この会話は最後の一文、N女をヨイショする一文を抜いてキリトリするとちょっと刺激が強すぎるのですが、でも中村サンは上からの文章であってもこれを載せずにはおられなかったのだろうなと思うと、メモしておきたくなって、やっぱり置きます。ちなみに、こういう時に「じゃんか」言葉を使うのは、いかにも関西人。関西人はネガティブな時に「じゃんか」言葉を、微妙な標準語的言い回しとしてあえて使う。

次は、「働くお母さんには、37.5度の壁がある」(頁243)子どもが発熱すると保育園が預かってくれなくて仕事を休んで看病せざるを得なくて、それでシフトに穴を開ける時が多くなると、「不公平ですよ独身の私はなかなか休めないのにあのしとはしょっちゅうこどもが熱出して休んでる」的状況下の強い味方、自宅まで訪問して「病児保育」してくれる大阪発祥のNPO。そんなのあるんですね。すごいなあ。ニッチを探し当てられるのも才能なのか。ちなみ、今、職場でお子さんのコロナニンバス看病で休んでる同僚がいるのですが、案の定「嫁さんは何してるんだ」と言われてます。いいじゃんどっちが看病したって。①朝八時までに受けた依頼は100%対応。②必要なら子どもを病院へも連れて行ってくれる。③会員制で、毎年二倍弱の勢いで増殖。出版時は入会制限中。すごい右肩上がりの成長デスね。ビッグコミックオリジナルの介護の闇まんがに出てくる悪の組織なら、わざと問題を起こすタイプの人物を雇わせてスキャンダルを起こし、組織がガタガタになったところで二束三文で買い叩くんだろうなと思いながら読んで、ふと、ほかのNPOでは問題が生じて運動コンセプト瓦解をそれほど思わなかったのに、これに限って強く頭に浮かんだのは、それだけこれがNPOというより営利ビジネスモデルとして成功要因が多く、かつまたあやうい要素も多いからだと思い至りました。

ホームレスの雑誌販売も、教育困難地帯への若者派遣も、従業員の発展途上国NPO就労も、演劇も、軌道に乗せて収益を出すのがせいいっぱいな気がするのですが、これは成功の匂いがプンプンしてて、しかし赤の他人が自宅に来て親の不在時に幼児を看るわけなので、信頼を裏切る要素もまた多数あると言わざるを得ないです。

で、このインタビュイーは当NPOの広報部マネジャーで、中央大の法科卒で、リクルートヤメ組です。本書の取材者10名(連載時は13名だったようなのですが、単行本に載ってるのは10名。頁262より)のうち2名が中央大法学部で、2名がリクルートヤメ組ということになります。これが、「2名が共産党員」とか「2名が創価学会員」とかだと読者にインタビュー対象がかたよってる印象を与えると思うのですが、「2名が慶應女子高」だとそういう印象を与えないのも不思議なところ。よりカルト度の高い、「つるこ教が2名」「Z2名」とかだと、あまりオープンに中村さんにそれを明かさないでしょうから、中村さんが知る可能性は低いですが、おのずとアレで分かると思いますので、まあその手の可能性は低いかなと。

この人は女性が結婚や妊娠出産育児、夫の転勤などで、あっさり仕事を離れてしまうケースが多い点について、その時疲れてきていたら、それはアリなんじゃないかと感じていて、中村サンはそれに同感し、「女の本音」ではないかとしています。

頁249

「女性って恵まれてるなって、そのときはちょっと思いましたね。出産や育児で小休止できるじゃないですか。男性は休みたくてもそれができないので、ありがたいなというのは正直ありましたよね」

実際、この人のパートナーはこの後、働き過ぎでメンタルがで休職しており、傷病手当の給付期限が近づいてもそんなに好転せず、この人が腹をくくる展開になり、中村さんは沈黙してしまいます。が、それは先の話。この人はリクルートで職場復帰した後、育児と仕事の両立が出来ず、クルシミマス。独身者や家事育児一切をやらない既婚男性の生活サイクルで仕事をしたら私生活は何も回らない。兼業主婦が、親に食事を作ってもらうような実家住みと同じレールで競争させられても勝ち目は低い、という。だって家のこともしたいから。

で、このNPOを知るわけですが、そのあたりで、インタビュイーは仕事と家事どっちも手に入れたいというのは「欲張り」だと言われ、中村さんも(独身なのに既婚者から)同じことを二回も言われてるので、大いにその件で盛り上がります。なんで男ってだけでこどもをほっぽらかして仕事して許されるのに、女が子どもがいて仕事を続けようと思うのが欲張りとか、ないだろうと。さらに、男はそういう女が苦手と言われ、ムキーとなります。どうも子育てしながらの政治家の話だったようなので、オブッチードーターのことだったのかな。私は勉強不足なので、なんでゆうこりんが叩かれるのか分かってないです。

このインタビュイーはNPO転出後、週に三日九時五時で出勤し、週二日は九時六時在宅ワークするワークスタイルを手に入れます。コロナカの五年前。いちばん最初のインタビュイーが夢見た「女性のキャリアパス第三の道」の理想的実現なんだそう。

頁259

つまり、これまでの男女共同参画とは、女性が男性の土俵に上がることを許可するものであって、女性たちが自らの手で土俵をつくることは想定されてこなかったのではないか。

 ノーベルの働き方は、女性が職場をデザインするとこうなります、という分かりやすい一例である。

人生舐めずに、飴舐めてェ~の会社ではないです。女性デザインの仕事場は、給料は減るが、心は豊かに安定して暮らせるといいます。「NPOって、新しい価値を作っていく仕事、世の中の価値観を変えていかなくてはいけない仕事なんです」

女性の敵は女性なので、専業主婦からの攻撃がもっともてごわい、だったかな。インタビュイー13名のうち一年半で5名が離職、再就職したのは1名(頁262)それでもNPOを続けるのは大変で、「営利でも社会貢献は出来る」方に舵を取るのもやむなしな面はある、と。

スーパーウーマンや専業主婦の中高年は「女の敵は女」になり、「そのような夫を選んだあなたが悪い」「我慢できないあなたが悪い」「あなたは気楽でいいですね」と言ってきたりするが、N女と中村サンが呼ぶインタビュイーは、そのようなとげのある物言いを一切しなかったと言います。

ナカムラサンのルポはここで美しい大同団結を見せ、マザーテレサやら専業主婦からの攻撃やらをすべてまとめあげて大結論を出しています。無縁社会の孤立から来る諸問題の当事者を責め立てるのでなく、手を貸せ、と。うまいこと当てはまる一文はないので鷲田清一「折々のことば」には入りませんが、そういうことで。このあとあとがきがあって本書は終わりますが、中村さんはあとがきでも毒を吐いてます。すごいほんだな、これは。以上