『吉田健一対談集成』 (講談社文芸文庫)読了

吉田健一対談集成 (講談社文芸文庫)

吉田健一対談集成 (講談社文芸文庫)

図書館で目について、借りてみました。それだけ。

頁79
池島 横須賀入隊は、いっしょだったんだ。だけど、あとあなたは一○一部隊という御曹司だけの優遇部隊。こっちは北海道の土方部隊。差つけられましたなあ、あんときは……。
吉田 そんなこと、あのときは知らなかったんですよ。すべての軍艦にあるんだってね、一○一ってのは……。
池島 そうですか。事務分隊ね。
吉田 かならず一○一っていうんだってさ。

頁83
吉田 いや、それでちょうどいい気持になるんだから、かまわんでしょう。残ったお銚子二、三本ぶんは、翌日の朝酒に飲むんだ。
池島 えらいもんだよ、まったく……。イギリスへごいっしょしたときなんか、感服したな。往きの飛行機から飲んじゃってさ。窓あけて飛行機の外へ出るだの、窓にかかっているネービー・ブルーのカーテンを切って寄越せとか……。スチュワーデス、困ってた。

頁288 解説
「担当のプロデューサーの話では、吉田さんは気持を落着かせるために放送局の近くで或る程度のものを飲んで来たそうである。何をいくら、何をいくらと御自分でいった。一種類ではなかった。その書評は十五分か二十分くらいの内容ではなかったかと思うが、無事に録音を終って私たちの前へ現れた吉田さんは、難関を突破した喜びと安心とで酔いが一遍にまわったらしい。意気揚々としていた」
 とある。座談会が始まると、「吉田さんはウイスキーを所望した」。角瓶が一本。四人の前に水割り用のグラスが並べられた。

私の最近気にしてること、人間は複数言語で高度な思索活動を成し得るか、
周到な読解能力は複数言語で身に着けられるか。
ケンブリッジ中退のケニチさんは当然出来るわけですが、
出来て欲しくないと思う人もいたようです。

頁90
池島 ぼくらを案内したイギリス外務省のお役人が、聞くんだよ。「ミスター吉田の英語はとてもすばらしいんだが、日本語はどうだ」って……。ぼか、いってやった。「日本語はきわめて怪しい。ときには、何いってるかわからない」とね。そうしたら、彼いわく、「そうであろう。二つの言語をそんなに自由にしゃべれるわけがない」。そういったよ、あいつ。(笑)


最後に、大物のエピソードで。
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頁259
河上 君は大岡と年はいくつ違うの?
吉田 三歳ちがいます。大岡さんの方が上ですね。
河上 中原とはどうだい。……中原中也大岡昇平より二歳下だ。
吉田 中原中也さんとは一度ぐらいしかお目にかかってないですよ。
河上 なんだ、そんなものか。
吉田 「はせ川」であった。そのころからすでに悪評さくさくでね、つまりつき合いの話ですよ。詩の世界では知らないさ。その前の晩やずっと前の晩に、中原中也さんがビールびんでだれか殴ったという話を聞いてね、ひでえ奴だと、いろいろな悪口の話ばかりしていた。そうしたらちょうど入ってきちゃったんですよ。あんな写真の感じじゃないよ、まる坊主みたいな感じだったね。すっときて、それで、ぼくのまん前にすわられた。
河上 こわかったろう?
吉田 こわかった。だってね、足もとに空ビンがゴロゴロ並んでいるの。(笑)ぼくに向かってドイツ語で話しかけてきてね。びっくりした。
河上 あいつ、ドイツ語できないよ。
吉田 だって、言ったよ。「おれはほんとはおまえみたいな顔が好きなんだ。そういうシュタイニッヒな!」と、シュタイニッヒというのはその時はじめて聞いたよ。それでいつあの手が下の空ビンにとどくかと思ったら幸いそのままにおわった。
 そのとき、助かった、と思った。何か言おうと思ったら、隣にちゃんとえらい人がいたね。それっきりですよ。中原中也におめにかかったのは。
河上 それはうまいことをしたねえ。