『最高のハッピーエンド』"The Happiest Ending" by Yoshiko Uchida 読了

日系二世作家ヨシコ・ウチダさんの代表作、リンコ三部作の完結編。

f:id:stantsiya_iriya:20220321203005j:plain
f:id:stantsiya_iriya:20220321203009j:plain

表紙画 かるべめぐみ ひくまの出版の倒産は2014年で、まだ先のことですが、だんだん苦しくなっていたのか、本文イラストはありません。表紙、裏表紙、中表紙のみ。そのかわり、ひくまの出版創設者の那須田稔サンによる解説があります。

最高のハッピーエンド (ひくまの出版): 2010|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

ひくまの出版 - Wikipedia

ヨシコ・ウチダ - Wikipedia

那須田稔 - Wikipedia

f:id:stantsiya_iriya:20220321203014j:plain
f:id:stantsiya_iriya:20220321203020j:plain
 カリフォルニアに暮らしている日系二世の少女リンコは、あまり得意でない日本語の勉強のために、スギノ夫人のところにいくことになった。そこで出会ったさまざまなひとびととの交流の中で、リンコが、ほんとうに素晴らしい人とはなにかを見つけるまでの物語。アメリカ社会での差別のなかでけんめいに、希望に向かって生きる日系の人々の姿を、少女の目を通して描き出す。カリフォルニア児童文学最高賞を受賞した日系二世の児童文学作家ヨシコ・ウチダの遺作「リンコ三部作」の完結編。

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/B1O54AYsWCS.jpgカバー折のイラストは、スギノ夫人の子息、ボクちゃん。

英語版表紙のボーズ頭の小僧も、同一人物なのかなあ。リンコの弟のジョージのような気もしますが、凧持ってる子がジョージかもしれない。

二作目を読んでないのですが、二作目『リンコの逆転ホームラン』は、霊とか出てくる話かもしれません。この話でもリンコは交霊を試みますが、気の持ちようで霊を見たと思い込んでるだけの霊感レベルなので、成功しません。

この話の主題は、対白人バトルではなく、日系人同士のむずかしい問題、配偶者さがしです。

頁108

 スギノさんの顔はもう既に梅酒でも試飲したようにボーッと赤らんでいた。そして、変なことに私はスギノさんを見ても何の動物も思い出せないのだ。たぶん、なんとなく好きになれないことが原因となっているようだった。私は蛇をのぞいて他の動物はほとんど好きだ。

このスギノさんとスギノ夫人は写真結婚で、スギノさんは別人の写真を自分の写真といつわって日本に送ってました。スギノさんはアル中で強迫的ギャンブラーです。頁151。ヒサエ・ヤマモトさんの作品にも『ラスベガスのチャーリー』という、同じテーマの作品がありますが、そちらは妻子を失って(子どもは二世部隊で欧州で戦死)そうなるので、この話のように、30年代が舞台で、一旗組が貯めたお金を言葉巧みに借りてぜんぶ溶かしてしまうような人物は、なかなか出るもんじゃないです。ヒサエ・ヤマモトさんの小説には、ほかに、中国人が開帳してる賭場に出入りして首が回らなくなる男の話もありますが、そっちでも、苦しめてるのは家族までです。この小説のように、他人からカネを投資させて、その金を溶かすまでやらかす移民は、なかなかいないし、いてほしくない。

リンコの兄は、キャリフォルニアで生まれたので名前がキャリフォルニアです。キャルと呼ばれている。すごい名前だなあ。弟はジョージ。リンコとその友人のタミは、英語っぽい名前に憧れる年齢らしく、タミはキャサリンという名前を発明して自分をそう呼ばせ、リンコもキリスト教徒としてエバンジェリンというミドルネームをひねり出し、さらには「E」から始まる別の名前、エミリー、エマ、エリザベス、そしてユウフェミアという名前に変えよっかな~という感じだそうです。ユウフェミアが分からなかったので検索しましたが、たぶんエウフェミアです。

ja.wikipedia.org

リンコはジョージからリンキーとかなんとか、二回くらい名前をもじって呼ばれています。一回目は付箋をつけ損ねましたが、二回目を見ると、リンキーディンクと呼ばれています。

ejje.weblio.jp

私だったら、リンコのもじりでぜったいリンカーン大統領出すと思うんですが、「あーる」の"Rinko"のもじりで「える」の"Loncoln"を出すなんて、"懊悩レツゴー"Ⓒプリンスと呼ばれた男、ネイティヴのニセイにとってはアウトオブ眼中なんだろうなと思うです。

頁90、リンコは終戦記念日が好きなんだそうで、どきっとしましたが、第一次世界大戦終戦記念日でした。「オーバーゼア」と「ティペレリーへの長い道」を歌うことになって、「もう待ちきれません!」だそうです。

www.youtube.com

www.youtube.com

この頃は欧州大乱を収め、世界を平和にするため、いさんで進軍してたのになあ。新大陸どうした、って感じ。

頁112、アメリカで成功した日本人の例として、誰も育てたことのないデルタ地帯でジャガイモを育てたジャガイモ王と、サンペドロで鮑を見つけて大漁業市場を作り上げた例が出ます。

リンコはおいなりさんを、「キツネの耳」という名前で呼んでます。キツネの耳に似てるからだそう。ニセイって、そういう遊びをするんですかね。頁188。

解説によると、翻訳者の吉田悠紀子さんは二作目の邦訳中に急逝し、夫の滋さんが遺稿を整理して、二作目と三作目を刊行させたそうです。

f:id:stantsiya_iriya:20220321212518j:plain

こういう年譜と、生前の悠紀子サンの写真がたくさん載った表裏印刷の一枚紙が入ってました。図書館の方に感謝。さすがに写真をスキャンするのはどうかと思ってしてません。浜松大學の教授にまでなって、蜘蛛膜下出血。五年後に原稿整理をおわらせてこの本が出たわけで、感謝致します。ご冥福とご多幸を祈念します。以上