『太陽の子』読了

太陽の子 (理論社の大長編シリーズ)

太陽の子 (理論社の大長編シリーズ)

太陽の子 (角川文庫)

太陽の子 (角川文庫)

だいぶ、記憶と違っていました。
笑っている女の子の表紙、と思っていたら、泣き顔だったし。
ウチナー口、と思ってたら、神戸弁ばかりだし。
関西の蝟集力ですね、沖縄出身者同士でも、関西では関西弁を話す。
ウチナー口は、ちむぐりさ肝苦りさ(胸が痛む)が印象的に使われます。
作者は詩人でもあるので、沖縄民謡のタイトルはだいたいウチナー口。
テンペストにも出てくる琉球の伝統詩も出てきます。
あと、料理もすごく詳しい。
池上永一で知ったジューシー、中身汁ポーポー、マーミナなど、みなこの本に既に出てくる。
その反面、代表的な沖縄料理であるゴーヤーチャンプルーが出てこないのは、
植物検疫があって持ち込めず、本土では苦瓜が栽培されてなかったから。
その事情は以前川崎や横浜で出稼ぎして島に戻った人から聞いていて、分かりました。
波照間島の、西表ぱいみだ強制疎開マラリアも聞いており、
その件では、沖縄の、倒産した出版社の新書シリーズ*1に書いてあった、
最終的に西表(と石垣)のマラリアを根絶させたのは、
戦後米軍によるDDTと石油散布によるハマダラ蚊ボーフラ絶滅作戦、
ということも思い出しました。
結局日本ではなく、アメリカーなんです、マラリアを掃討したのは。
この小説が書かれ始めたのは1976年、昭和五十一年で、本土復帰から数年たってますが、
小説中の神戸沖縄コミューン形成は明らかに戦後かつ復帰前、
渡航にパスポートが必要だった時代です。
作者が小説を書くきっかけになった事件はたぶん60年代。
まさにドルの軍政から日本へ渡航していた時代です。それも書いてほしかった。

この本、読まずにいままで過ごし、いまやっと読んだわけですが、
いまやっと読むための条件が少し整ったのだな、と思いました。
ふうちゃんのお父さんの苦しみは私には分かりませんが、
日本兵が隊列を組んで行進してゆくのを眺めていた私に、
隊列を離れたひとりが、「見つけた」と言って私の腕をつかむ夢を見た頃の私、
もうほんとマブイが抜けてるんじゃないかと思っていた頃の私は、
読んではいけなかったのだなと、いま改めて思います。あぎじゃびよ。

【後報】
本土の大都市に、戦前から泡盛を飲ませる飲み屋があったことは、
一銭五厘たちの横丁』*2でも読みました。
けど、この小説の登場人物は、沖縄で戦争を体験して、いま神戸に暮らす人ですので、
戦後本土の沖縄コミュニティーは再構成されたのかな、と思ったのです。
(2014/4/22)