『検証 財務省の近現代史 政治との闘い150年を読む』 (光文社新書)読了

検証 財務省の近現代史 政治との闘い150年を読む (光文社新書)

検証 財務省の近現代史 政治との闘い150年を読む (光文社新書)

ほかの方のブログの紹介を見て、興味を惹かれたので。
しかし。
以下後報。
【後報】
頁99で、盧溝橋事件に触れ、
嫌がる参謀本部を無理やり戦いに引きずり出したのは、近衛首相と廣田外相とあるのに興味を惹かれて読みました。
近衛については理解出来ますが、廣田の名前が出てくるのがよく分からなかったので。
ところが、その後の記述に、近衛について触れた箇所はあれど、
廣田についてはないわけです。
頁102、近衛はソ連のスパイだったのではないか――そう言いたくなります。
近衛本人に関しては決定的な証拠がないので断定は差し控えますが、
彼の側近に関しては明確です。

側近として出てくる빨갱이もとい「アカ」は、
尾崎秀実、西園寺公一犬養健らです。近衛側近だったかどうかはアレですが、
右か左かでゼロサム回答を求められたら、前二者は無論、さいごのひとりも左の人ですね。
犬養息子はリベラルだと思いますが、リベラルは勿論左。
新編 愛情はふる星のごとく (岩波現代文庫)

新編 愛情はふる星のごとく (岩波現代文庫)

フライ・フィッシング (講談社学術文庫)

フライ・フィッシング (講談社学術文庫)

揚子江は今も流れている (中公文庫)

揚子江は今も流れている (中公文庫)

廣田について、何がダメなのか前の頁まで遡って探すと、
2.26事件後の廣田内閣組閣時に、東大同窓の馬場硏一を蔵相に起用したのが悪、
ということみたいです。馬場硏一は、この本の戦前編最大の巨悪で、

頁104
なお、馬場が作成した恒久的増税案は、所得税の大衆課税化を軸とする昭和十五年の税制改正で正式に恒久化されます。日本人が汗水働いて生み出した富は、中国大陸に消えていきました。

   *   *   *

 歴史に興味を持つ人ならば、誰もが一度は「なぜ日本は負けるに決まっている戦争の道に突入したのだろう」と思ったことでしょう。
 しかし、それは違うのです。「負けるまで戦う」仕掛けをされたのです。
「軍事行動の拡大(歳出の必要)→政治家の扇動と世論の支持→国債増発などあらゆる手段による財源の確保・最終的には増税→さらなる軍事行動の拡大(増税によって可能に)」
 この仕掛けを止めない限り、日本は滅びる運命にあったのです。

この仕掛けを作ったのが近衛と馬場、ということなのですが、
馬場硏一という人がどういう人となりで、どうやってこんな永久機関を思いつき、
そして周りはなぜ誰もそれを止められなかったのか、などについて触れてないので、
とても不満が溜まってしまいました。
戦前編はほかにも、日本の国連脱退について内田康哉は出すが松岡洋右を出さない(頁82)、
頁77で西園寺公望陸軍の中にアカが相当に紛れ込んでいる」の出典、
ソ連陰謀説を出すなら田中上奏文捏造なんかも書けばよかったのに、
と思いました。戦前編のその前の時代部分では、
城山三郎『男子の本懐』はフィクションで事実と違うとしていますが、
そこに興味も知識もなかったので、スルーしました。

男子の本懐 (新潮文庫)

男子の本懐 (新潮文庫)

戦後編でも面白い記述はあって、

頁191
アメリカは、中国共産党を後ろ盾とする田中角栄に手を出すことができません。こうして、内政で無敵となった田中により、大蔵省は壟断されていきます。

ニクソン訪中のほうが田中より先なわけですし、
結局田中角栄を失脚させたロッキード事件アメリカが仕組んだ(リークした)んじゃないの、
とみんな穿ってると思うので、手を出せないは言い過ぎかな、と思いました。

ただ、田中は大蔵省の、埋蔵金というか隠し資産を帳簿から読み取る秘密能力があり、
それが彼の大蔵省支配の源泉だった(頁157)などは目からウロコでした。

また、頁178で、金権政治の反対は恐怖政治(クリーン政治ではない)というのは、
これはヨーロッパ現代史をやった人間にとっては非常にうなづける言葉で、
東欧諸国は、民主政体下で、共産勢力はまず軍隊と警察のポストだけを掌握し、
ダブスタによる恐怖支配であっという間に国を東側陣営にしたわけなので、
(しかもイチバン偉いのが共産党「書記」、稗田阿礼のような語り部
 記録をつかさどる人間がすべて支配するという…)
これは分かりました。

で、この辺まで読んで、ぱらぱらとあとがきを先に読むと、
果たして民主党政権下で書かれた本なので、こう書かれています。

頁264 追記
 自分たちの伝統に反する恒久的増税を通すために、帰化もしないで参政権という特権を求める一部の外国人に屈服したとなれば、大蔵省の先人たちはこの状況をどう思うのでしょうか。不安を抱かざるを得ません。

ということは、戦前の馬場硏一同様、
自民党から民主党への政権移譲の理由なんかもあるかな、
と思って後半最後を読んだのですが、それはなかったです。
ただ、闇将軍化した田中角栄の傀儡政権連投に勝って、
細川政権を作った立役者のひとりとして、小沢一郎が描かれています。そうなんだ。

でまあこういう感じで読んで、アレだなあ、と思いつつ第7章「失われた十年」を読んだら、
ここは面白かったです。竹下時代について書いた箇所ですが、
大蔵省と云いつつ日銀がかなり強く出てきます。
第7章だけ、何故か国士樣の色がないんですね。

この本には繰り返し、ネトウヨを装ったブサヨ、빨갱이もといアカに関する記述がありますが、
無色透明かつ非常に面白い第7章を、
いかにもな戦前編現代編でサンドウィッチする構成は、
自分でもそれをパスティーシュしてるのか?と思ってしまいました。
作者に、あなたはだれ、まっくろくろすけ?と尋ねるつもりもありませんが、
でも尋ねてみたいかな、というところです。
(2014/6/27)