- 作者: 本田靖春
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1984/10
- メディア: 文庫
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著者の別の本*1を読み、外地出身者、コロニア生まれであると知り、
この本は、タイトルから類推するに失われた植民地での自分史かな、
同化と異化のはざまみたいな…と考えて借りました。当たらず、かつ遠かった。
(帯はオオウソです。そんなナマな本ではない)
解説は生島治郎。ソウルと上海の違いが完全に無効化されるほど、
よく似た近似値的な幼少期を送っていて、びっくりしました。
今日ママンが死んだ。太陽がまぶしかったから、みたいな。
本田靖春 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AC%E7%94%B0%E9%9D%96%E6%98%A5
生島治郎 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%9F%E5%B3%B6%E6%B2%BB%E9%83%8E
で、半島での幼少期から現在までのオーラルヒストリーかな、と思って読むと、
確かにそれはあるのですが、ナポレオンケーキのようにあいだに層を成すほかの記事、
それと、火を噴くような、作者の、謝罪せねばならぬ、永遠にだ、という思想と、
ヘイトを予知したわけでもないでしょうが、日本の大多数の潮流の中で自分は少数派だ、
という思いが江湖に満ちており、読みにくい本であることは確かです。
アレルギーのある人は完全にダメでしょう。いきなり序盤、下記の人の遺稿集や、
在日機関紙のアジテーションが激烈に引用されており、ここで引く人は引く。
山村政明 - 梁政明 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E6%9D%91%E6%94%BF%E6%98%8E
下記は成人した筆者と母親の論争に於ける母親の弁。
頁33
「あなたは二言目には『日本が悪い』というけれど、私たちが、どんなわるいことをしたんですか。鉄道もないところに、内地より立派な鉄道を敷いてあげたじゃありませんか。電気がなかったところに電気をつけて上げたのも日本ですよ。物がなくなってからだって、朝鮮人にも同じだけ、砂糖を配給してあげたのは、いったいだれなんです」
嫌韓流ならここで主人公は、そうだ、なぜ日本が悪いんだ、おかしいぞ反日日本人、
と思うのでしょうが、作者は、これを、差別はいかにして生まれるかの例証としています。
読売新聞が日韓国交正常化前年に連載した『近くて遠い国』について、
先輩記者がオフタイムに説教したセリフ(の記憶)
頁16
「おい、あの続き物は君がいい出したんだってな。いったい君は、どういうつもりなんだ。冗談じゃないよ。どうしてオレまでが、朝鮮人なんかに謝らなきゃいけないんだ。オレがあいつらに、何をしたっていうんだよ。やったのは帝国主義者と軍閥じゃないか。それを、君は、どうしてこのオレにまで謝れっていうんだ。謝りたいなら、謝りたいやつだけが謝りゃいい。いいか、オレは、あいつらには絶対謝らんぞ。不愉快だ。きわめて不愉快だ。それだけは、君にはっきりいっておく」
作者は、この先輩を、加害者責任を階級意識ですり抜ける、“良心的”“進歩的”
エセ左翼と断罪しています。
もうこの辺で右も左も誰もついていけなくなっただろう、と作者は判断して、
『諸君!』の取材で訪れたソウルから記事を書き始めます。振り落とされてはいけない…
ここでいきなり帰化在日コリアン、それでは正確でないか、コリアン系日本国籍者の、
親睦団体成和会の記事が始まります。成り立ち、活動の現状、幹部へのインタビュー。
もうここで読者は作者のコペルニクス的転回にいいように呑まれてしまいます。
私も、福岡安則の著書などで、民団とも総聯とも距離を置かざると得なくなった、
帰化日本国籍取得者たちが結婚紹介良縁斡旋等、コミュニティーを形成してる、
と読んだことはあったのですが、このようにナマナマしい描写や取材があるとは、
まったく知りませんでした。本は、アレルギーを持たず、読み進めなきゃダメですね。
ただし、国籍取得(帰化)のあらまし詳細、文科省法務省の同化政策のおかしさについては、
時代もあるのでしょうが、作者の記述ははなはだ???ですので、
下記などで認識を補正したほうがよいと思われます。これにしたって紙版は1993年ですが。
- 作者: 福岡安則
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2013/11/08
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違反しても別にまったく罰則はありませんし、
(ブラジルのように永遠に国籍離脱を許さない国もあるので、そも一律適用は㍉)
多国籍を保持してるかどうかのチェックもあるんだかないんだかなので、
民団幹部が、日本国籍とってもほとんど韓国籍捨てませんね、とオフレコで発言し、
それを収めてる本も21世紀になってから、出てたりします。
- 作者: 小島一志,塚本佳子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/07/28
- メディア: 単行本
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同胞として扱っているのと非常に異なっていて、作者はのどに小骨をさすのが、
本当に得意だったのだな、と出だしから思ってしまいました。
で、その次は日立就職裁判です。これを私もWikipediaで読んではいたのですが、
地元愛知県西尾市*2の労働基準監督官がまず彼の背中を押し、
次に日立ソフトウェア工場(戸塚ですかね)でダメ出しされた帰路、
たまたま通りすがり、ビラまきをしていたべ平連の学生に助けを求め、
ここから弁護士や支援団体、法廷闘争、カンパにつながっていたとは、知りませんでした。
また、日立の人事担当者が、履歴書のウソの本籍記載だけを指摘すればいいのに、
なぜ、当社は一般外国人は採用していない、とか余計なことを喋ったのか、
よほどのんびりしていた時代だったのだな、と思いました。
頁23、日韓会談第三次・第四次首席代表沢田廉三の朝鮮懇親会席上発言、
「われわれは三度たって三十八度線を鴨緑江の外に押し返さなければ先祖に申し訳ない。これは日本外交の任務である」
これは素晴らしいので、ひゃくたさんにも言ってほしいと思いました。
頁63、コリアン系日本人親睦会幹部の懸念事項として、自分たちがそうならないかと言ってる、
アメリカの日系二世部隊が日本に砲門を開いたとかあるのはウソ。こういうのがあるので、
ほかの本と併用しなければいけないのが難点です。作者でなく、相手の発言ですが…
通訳とかと混同したんですかね。厚木基地の近くの人だし。
頁132、キム・タルスの岩波新書『朝鮮』からの引用文で、白丁に、ピャクチョンと、
ルビを振ってますが、ネットでホンタクとかの嫌韓ネタに親しんでる人なら、
ペクチョンと読むはずなのに、と、不思議に思うと思います。
金達寿の田舎の訛りでしょうか。
頁154で、筆者も半日本人に、ハンチョッパリとルビ振っており、白丁の発音には、
気がつかなそう、と思いました。
諸君!のソウル取材に戻ると、作者は、取材中、ある時点から、
ソウルでメシがのどをとおらなくなります。幼少時に赤痢にかかり、
母親が一切朝鮮人の手を通した食べ物を食べさせず、きつく禁じた思い出が、
唐突に蘇ってきて、作者を縛ったのです。
(解説で生島治郎が同様の上海体験を書いている)
で、作者は、自分が懐かしく訪ねたのは、朝鮮でなく、かつての日本、
失われた外地日本だったのだ、と、そこで論理完結します。
称揚。止揚。昇華。
話はほかにも、ニューヨークで在日認定された作者が、認定したバーのママを、
この本で認定し返す場面や、金大中事件は、日本にまったく非がないので、
おおっぴらに韓国を叩く事が出来て、んだもんで、寝ていた子がみんな起きた、
西ドイツの韓国留学生大量ナントカ事件は騒がずこちらだけ騒いだのはそういうことだ、
(内政干渉になるかどうかをネットの政治好きな人はすぐ気にするので、
それでだと思いましたが…)
などなど、文章は続いていきますが、私が感銘を受けたのはそんなとこです。
確か作者には、もう一冊、私たちのオモニ、という韓国関係のタイトルの本があるのですが、
この本のように、題名からは想像も出来ないネタの宝庫なのかどうか、
読むべきかどうか悩むところです。以上 (読む気がします)