『『むつ』漂流』読了

http://ecx.images-amazon.com/images/I/51JupO5h2FL._SL500_.jpg

『むつ』漂流 (1975年)

『むつ』漂流 (1975年)

作者の本をもう少し読もうと思って、借りた本。
ホントに、船のことになると、真面目ですね。作者は。

表題作以外に、通産省の外郭団体?余暇開発センターの初企画クルーズが、
乗客の途中下船キャンセル大量発生という無残な結果に終わった
シャリアピン号」の反乱、と、国内各フェリー会社の奮戦を描いた、
フェリー太平記、それから、同じ原子炉を陸上で作って実験してから、
船作れよ、あと、中央と辺境のコンプレックスもあるか知らんけど、
東京から来た左翼マスコミが地元の漁師や労働者を無責任に焚きつけた、
的なことも歯に衣着せず書いた表題作の三編から成る本です。

ホントに船を愛してるんだと痛感しました。私は、船酔いする時もあるし、
ほかの交通手段、ヒコーキのほうが安かったりもするご時世なので、
作者程船に没頭出来ないです。そう思いました。以上

【後報】
シャリアピン号の反乱」
通産省外郭団体/研究機関である財団法人「余暇開発センター」の理事長佐橋滋さんは、
 元通産事務次官で、城山三郎『通産官僚たちの夏』主人公のモデルとか。

頁45
 この時間、私の略歴を述べ、私を紹介すべき余暇開発センターのスタッフは、ウラジオストック・バーで一杯機嫌だったのです。午前中はデッキスポーツの説明をさぼり、今また、クルーズ最初の講座の進行を忘れてしまったのでした。すでに船内では、食事の不満から、主催者の無責任さへの不満とだんだん拡がっていました。

ソ連船籍の船をオーストラリアの会社が中抜きしてるので、
劣悪なソ連社会主義サービス、中抜き前提の原価で仕入れ提供される食材、
何故か和食メニューなので、コックが妄想ニホン料理*1状態で作るミソスープ、サカナが、
ロシア式給仕で提供されるみょうちきりん状態。スープ皿のミソシルや、
ライスが一皿ごとに給仕される。そして、前評判の高かった理事長も、
全然アテンド調整の任を取らず、親睦パーティーでもでんと座ったまま。

「フェリー太平記
頁139、前の船の悪趣味かつ維持にカネのかかる装飾を止めたら逆に銀行が渋い顔を。
金をあまりかけないで、かえってすっきりと落ち着き豪華に見えるのです。
世の中こわいですね。

「むつ」漂流

頁180
 しかし、母港の決定はかならずしも順調ではありませんでした。第一候補は本船を建造した石川島播磨重工が造船所を持っている横浜だったのですが、地元の港湾業者も了解して、十中八九まで大丈夫とみられていたにもかかわらず、港とは直接関係のない後背地の磯子方面の住民の反対が出て、飛鳥田一雄革新市長は、母港の拒否をきめてしまいました。むつ市が選ばれたのはその後です。

著者は横浜在住で、むつ寄港地としての横浜に賛成しています。
理由は、広瀬隆の『東京に原発を!』とまったく同じですが…
頁223、戦艦陸奥爆沈の真相として、二等兵曹の放火説を一行で紹介しています。
もっと知りたかった…

このころは、原子炉の民間活用みたいな未来図もさかんに描かれていたのだな、
と今にして思います。映画ゾンビで、主人公たちが立てこもるショッピングセンターが、
自前の原子力発電で動いているので、無人でも電気が供給出来ており、
主人公たちはいつでも新鮮な冷凍食品を堪能出来た、という説明的シーンがあり、
そういう未来は永遠に実現しないとみなが分かってしまったのが現在だな、
と思います。永遠に人力で維持保守しないと廃炉しても数百年安全が保たれないとか、
だから無人で動き続けるとかありえないとか、テロや悪用考えると、
無秩序な原子力の民間運用などありえないとか、私たちはいろいろ分かったのだと思います。
以上
(2015/10/4)