『ヨコハマB級ラビリンス』読了

 読んだのは単行本。ブックデザイン 山口聡子 イラストレーション 山科潤 初出は1996年~1998年の小説すばる、壱エピソードだけ同時期の小説現代

ヨコハマB級ラビリンス

ヨコハマB級ラビリンス

 
ヨコハマB級ラビリンス (集英社文庫)

ヨコハマB級ラビリンス (集英社文庫)

 
ヨコハマB級ラビリンス

ヨコハマB級ラビリンス

 

カバー折の作者写真は、下記推理作家協会の写真と同じ時に撮ったっぽいです。微妙にポーズが違うのですが、髪形も服も装身具も背景もいっしょ。本のほうが、ひじをついて両手を絡ませて相手を見ている顔で、ふぜいがあるなと。

会員名簿 山崎洋子|日本推理作家協会

山崎洋子 - Wikipedia

下記は同姓同名の別人な気もします。

www.shinchosha.co.jp

 下記の復刊とその続編を知人に勧められ、まず作者の本を読んだことないので、それで本書を読みました。

天使はブルースを歌う

天使はブルースを歌う

 

私はなんでこの人が横浜にこだわってるのか知らないので、本書のように野毛の商店街にちょいちょい取材して、「おもしろい話」を聞いて、書いていいか許諾を得た上で小説にするとかまでやってるのが不思議な気もします。でも誰かがこういう仕事をしてくれると後世に残るからいいかなとも。バブル崩壊後の就職氷河期に書かれた短編小説集ですが、野毛の商店街には地上げなんか一軒もなかったかのように、元気に商店街が存続していて吃驚します。高齢化老朽化チェーン店食産業大企業の進出は今世紀の出来事なのでしょうか。

本書では「余毛」となっている野毛の話。実在モデルも多数いるらしいとアマゾンレビューその他書評などで拝見しましたが、私は知りません。

<目次と感想>

・うつ鮨事件

 この話に限らず、本書は、住人の記憶に残る、奇妙な寸借詐欺が何度も何度も登場します。それと、かなりの確率で登場人物は複雑な家庭環境で、今ならネグレクトとかACとかを忖度されるのではないかと思います。忖度の用法がおかしい。しかし、この話の主要登場人物は、焼け跡世代を除き、複雑な背景はありません。ヒドい寿司屋、前世紀はけっこう存在してたなあと。アライグマが寿司屋を開いたらこうなるのかも。ネタを洗う。

・朱雀事件

 寸借詐欺の話。名前が似てるので、枝雀とか、映画の方の後妻業の釣瓶とか連想しましたが、そういうキャラでは無論ないです。舞台はスナック。

・パダム・パダム

 オカマバーの話。たぶん。店の区分が明記されてないので推察です。ショーパブではないだろうと。マダムキラー(オカマ含む)の病的ギャンブラーの話。今読み返したら、回想を語る現時点では「シャンソニエ」というタイプの店でした。シャンソンの店はそう呼ぶんですね。

・四月の夢

 GS詐欺。野毛大道芸。冒頭マディソン郡の橋が、老いらくの恋に狂った母親を持った娘(JK)の視点から、これでもかとこきおろされます。頁106、白髪混じりの長髪を後ろでまとめたレンタルビデオ店の店長(元GSボーカル)が商店街のカラオケ親睦会で、けっこう毛玉のついた赤い下記ブランドのセーターを着てくる場面というか娘の観察力こわいですね。

クリツィア - Wikipedia

・いつか王子様が

 この話はこの話として、背景にある、米兵とパンパンとか、根岸外人墓地の嬰児なんとかとかは、べっとノンフィクションとして、上記の本にまとめられているのではないかと。育ての親とハーフタレントブーム(は何回もあったような展開で)の話。孫の世代になって、お孫さんが小説書く子で、出版者の人が、日本のマルグリット・デュラスと言われるようになると絶賛するのですが(頁161)、現時点でそういう方はいらっしゃいますでしょうか。

www.youtube.com

hark3.com

ラマンで越南在住で、華僑の白人愛人だったのに、いつの間にかナチス占領下。そんな人の邦人版って、予想出来ないというか。

・幽霊レストラン

 横浜マリー・セレスト号伝説。

メアリー・セレスト - Wikipedia

野毛にドイツ料理のレストランがあったかどうか知りませんが、実在の同名カフェも閉店してて、こわーいと思いました。

【閉店】ウィーン (WIEN) - 関内/コーヒー専門店 [食べログ]

・余毛・三文オペレッタ

 売れない役者とその家族の話。売れる売れないより、無駄なこだわりへの固執が。21世紀の今ならこういう人は家族作れません。孤独死

・芝居の時刻

 大道芸の最中にやってる素人芝居、六条御息所、憑依。アルマーニのスーツ着てエルメスの百万円のケリーバッグ持った四十代キャリアウーマンの女性が出てきます。ショートカットで上品な茶色で赤のメッシュがくどくない程度にすっすっと入ってるとか。それで四十代キャリアウーマンと言われても想像出来ない。一流商社の課長クラスだったかなんだったか。

・踊る女

 弁護士。イラン人。ベリーダンス。タトゥー。癌。

頁293

 打ち明けていいますとね、彫ってもらってる時の、あの痛み、あれが忘れられないんです。背中の(略)を思い浮かべながら針を受けてますとね、その一刺し一刺しが、えも言われぬ快感に変わるんですよ。あれは、(略)その痛みです。あの愉悦を知ってしまったものは、もうほかのことでは満足できなくなるんです。

 ご存じかどうかわかりませんが、背中一面に刺青を入れた者は、必ずほかのところにも入れたくなります。腕、腹、足、頭、そして性器にまで、びっしりと、もうどこか残っているスペースはないだろうかと、必死に捜し回るほど、針を刺してもらわずにはいられなくなるんです。

 ふくらはぎとかおしりまで入れてる人を銭湯で見ますが、あれはそういうことなのかと。メチャクチャ高いだろうに、その若さでお金稼いでるんだな~くらいにしか思ってませんでした。

以上