『マスードの戦い』(河出文庫)読了

カバー装幀 渋川育由 写真 長倉洋海(作者)フォーマット 栗津 潔

河出文庫は1992年初版、2001年11月新版初版、読んだのは同年12月の二刷。単行本は1984朝日新聞社刊『峡谷の獅子 ―司令官マスードとアフガンの戦士たち』で、文庫は、マスードがテロで斃れた後新版になってるので、単行本から文庫化した際付け加えられた「その後のマスードとアフガンⅠ(一九八四~一九九二年)」に、さらに「「その後のマスードとアフガンⅡ(一九九二~二〇〇一年)」 が付け加えられています。

マスードの戦い (河出文庫)

マスードの戦い (河出文庫)

 

 まえがきにあたる部分はマスード逝去後の追加で、「マスードよ、安らかに眠れ!」です。さらに巻末に参考・引用文献があります。そしてさらに、今ではかなり豪気な編集になってしまった、折りたたみのアフガン全土地図が入っています。

単行本は作者がマスードのゲリラ戦に同行した1980年代初頭の記録。なぜ作者がペルシャ語が話せるのかは、結局一㍉も書いてません。虱と蚤と南京虫がところどころにいます。

ソ連撤退後、マスードのカブール入城にあわせて取材し、「なぜ五年間も顔を出さなかったんだ」と、一度縁の出来たところに、そうちょくちょく行けないと必ずこうなるという見本のようなやりとりが最初の文庫本。ジャーナリストとしては本懐のような、取材対象の大願成就ではあるわけですが、マスードゲバラともカストロともカダフィとも違った道を歩んだので、世界的に脚光を浴びることもなく、作者としては残念だったでしょう。

じっさい、対ソ連と同量の、ゲリラ同士の諸勢力の内ゲバというか内戦の記述がけっこうあって、ヘズビ・イスラミがほとんどですが、マスード死後の改訂版には、ドスタム将軍や、タリバンも出ます。タリバンの記述は、かなりアルカイダのそれと混同がある気がしますが、じっさいもそうだったのかもしれません。構成員の四割だか六割が外国人という…

獅子と虎なら、虎のほうが強い、ライオンは狩りをしないナマケモノ(特にオス)、と私も動物番組の知識からそう思ってしまうのですが、腹がいっぱいなら必要以上にほかの動物を襲わないからライオンは王者なのだ、弱い者いじめをしないし、無益な殺生もしない、というアフガン人のライオン観が頁46に出て来て、なるほどなと思いました。

イスラム圏で人の家に招待されると、たいてい、その辺のレストランの辛くてちょっぴりなカレーとチャパティなんかとは大違いの、やわらかくておいしい肉たっぷりと乳製品や野菜、フルーツにありつくわけですが、もちろん内戦中のアフガンの、行軍中の民泊にそんな贅沢があるはずもなく、しかしそれを恥と思うサーバーの少年などの、内戦でものがないからこれしか出せない、まだ本気出してないだけ、という泣きそうな弁明の場面が胸を打ちます。今でもこうだと、相当疲弊しつくしてると思う。

で、そういう粗食なのに、作者よりスタミナも瞬発力もものすごい戦闘員や指導者たちに作者は舌をまきつつ、彼らが日本人より五歳は老けて見え、平均年齢も五十歳くらいであることを頁146に書いています。乳幼児の死亡率はここでは計算に入ってないと思うので、やはりシビアでタフな社会なのでしょう。

いま、こういう本を読んで、当時は、群雄割拠の諸事情が分からない中で、考え方に色がついてしまうことを嫌ってこういう本を読んでなかったなと思い返しました。今も状況が好転せず、かえって暗中模索であるのが、深刻です。ほんとうに。