The Citi exhibition "Manga マンガ" The British Museum / 大英博物館マンガ展図録 鑑賞

Manga

natalie.mu

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諸星大二郎の『商社の赤い花』が日英両文で全頁掲載されているというので注文して、届きまんた。

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Hello, We thought you'd like to know that we've dispatched your item(s). Your order is on the way, and can no longer be changed. If you need to return an item or manage other orders, please visit Your Orders on Amazon.co.uk Arriving: Monday, July 22

七月八日の発送メール。二十二日到着予定となっていますが、実際には、七月十七日か十八日に到着しています。オーダーは七月五日。

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インボイス」なんて単語久しぶりに読みました。泣けてくる(棒

ブリティッシュミュージアム公式では£29.95、29ポンド95ペンスと読めばいいのでしょうか、なのですが、ユーロアマゾンでは値引されて£20.96、値引き分がほぼ日本への航空便(印刷物価格)で、それでまだ公式の頒価より1ポンド安い£28.94です。1ポンドの福音、というやわなボクサー漫画を高橋留美子が描いたこともあった。

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

シリングって貨幣単位は、もうないんですね。知りませんでした。

『商社の赤い花』は、もともとヤンジャンの『地獄の戦士』か『子供の王国』収録だったと思います。アダムのすけ骨系列の、宇宙のどこかの星に行ってセンス・オブ・ワンダーな話。

頁216、ヤマザキマリの後、星野之宣の前が『商社の赤い花』です。英題が"Red Flower"で、「商社」が抜けています。"Red Flower of Sogo Shosha"だと意味が日本的なサムシングに限定されて、色眼鏡チックになるので、避けたかな。

https://en.wikipedia.org/wiki/Sogo_shosha

To read this story in the correct order, please start on p. 239 and work back to p. 216.

上記の但し書きをつけて、左とじのカタログの中で、右から左に読ませるようにしています。下記のようなあんばい。

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こう読み進めましょうという、コマ割り指南と、各セリフの英訳。「セッちゃん」is "Setchan"

頁220は本漫画の山場、まるまるセリフなしのコマ展開で、当時は受験戦争とマザコンを風刺したつもりだったのでしょうが、今見てもまったく色あせないという作者の真髄みたいなページですが、そこはコマ割りの説明なしです。自由に読みなさいよと。

ぜんぶチェックしたわけではないのですが、英文、もう少し考えてもいいかなと、英語がダメな私でもところどころ思いました。上のページで、「…ばか……」と女性が言っているのは、女性の気持ちに気づかない主人公をなじっているわけですが、"What a fool..."と言ってしまうと、社畜経由自殺行きの主人公の行く末を呪詛しているかのようで、なんかちが~うと思いました。"So you fool..."とか"You're idiot..."ではダメでしょうか。

主人公が父親を、日本語で「パパ」と呼ぶのはいいんですが、英文でも"Dad"や"Daddy"でなく"Papa"としていて、カソリックなわけもなし、"Papa"と書くことで日本人らしさを出しているのかと思いました。なら題名から「商社_shosha」抜かなくてもいいのに。

226で、「今日もいくのかい どうしてそんなに会社に尽くすのかね?」”Today, you're going yet again, Why do you work so hard to serve the company?" と問いかけるバーテンに、「社員ですから…」と答える場面。英文が"Because he is a company employee..." となっていて、ヒーじゃない、アイですと思いました。別人格が現われて、主人公のメイン人格をヒー扱いしてるわけでもなかろうに。

というか、図録めくってみて、短編乍ら、ストーリー漫画が最初から最後までまるっと収録されてるのは『商社の赤い花』だけですので、これほどオナーなこともなかなかないよと思いました。なぜこれをチョイスしたんだろう。ほんと。名作ですけど。でもここで使われている、主人公の目の前の風景に過去の人物がダブって話し出す演出って、ほかの誰もやってないと思うんですが、どうでしょう。フィルム焼きつけ時代の映画の、二重露出とかをマンガに転用した技法と思いますが、ほかでこれやってるの、ぱっと思い出せない。特異点大英博物館の展示にバーンと出すというのも、凄い話です。

諸星大二郎のマンガは、商社以外だと、実際の展示には海神記もあるそうですが、図録だと、頁326に『暗黒神話』の、尖石考古館の場面が載っています。そのページの「戦後」を総括する文章とあまり関連してない気もしますが、現在の茅野市の尖石考古館は移転してすっごく立派なものになっていますので、往時の展示室を知る貴重な絵です。今も昔も尖石考古館は駅前から遠くてバスの本数もないので、中学生だか高校生が、たとえ中央線は特急あずさを使ってとしても、ひょいひょい日帰りで行ける場所ではないのですが、もうそんなお約束に対するツッコミをしても仕方ないくらいこのマンガも古典になった。免許があれば茅野駅前からレンタカー。タクシーは人数いれば、ワリカンでどうかなあ、それでも高いかなあ。茅野駅にレンタル電動自転車でもあればいいですね、今ということですと。

このカタログには、ほんとにいろんなマンガが載ってるんですが、この展覧会のコンセプトはなんだろうかというと、勤勉な日本人が、いつどこで「描け」という神の声を聴いてマンガを描いているのか、を考察することかとも思いました。欧州の漫画家も日本同様アーティスティックに個人作業で描いてるはずですが、欧州人は日本より直接的に日夜、完全分業制で描かれたアメコミの物量と猛威にさらされているわけなので、極東でこんなんずっとずっと続いてるけど、それはなんでやろ、をさぐる企画かと。

頁270/271にコミケの鳥瞰写真が載ってます。今でもこんな感じなんですかね。むか~し、晴海に行った時はこんな感じでした。数年前、川崎市民ミュージアムの漫画展に行ったら、栄えある第一回コミックマーケット川崎市民プラザで開催されたと堂々大得意で説明されていて、梶ヶ谷のゴミ処理場の隣には人知れないすごい歴史が埋もれてるんだなあと思ったことがあります。関係ありませんが、あの辺は、新作という地名が、ハロルド作石の『BECK』に出てくる夭折したアーティストと同名なのでこわいなあとも思っています。以上