『聖アントニオの舌』"La Lingua del San Antonio" by Bando Masako (角川文庫)読了

 カバーデザイン/TROPICOULEURS は 17-9 解説 陣内秀信

聖アントニオの舌 (角川文庫)

聖アントニオの舌 (角川文庫)

 

陣内秀信 - Wikipedia

吉田類が『酒は人の上に人を造らず』でハチキン女性として紹介している中の一人が、イタリアものをよく書いているというので読んでみようシリーズ三冊目。 

聖アントニオの舌 (角川文庫)

聖アントニオの舌 (角川文庫)

 

 単行本は下記のタイトルで、文庫化にあたって『聖アントニオの舌』にしたんだそうです。もちろん作者が元気で、タヒチ在住だったころの文庫化です。死後、売らんかなでそういうタイトルにしたわけではない。

イタリア・奇蹟と神秘の旅 (文芸シリーズ)

イタリア・奇蹟と神秘の旅 (文芸シリーズ)

 

 初出が何かの連載だったのか、書き下ろしだったのかは、文庫に書いてないので分かりません。連載企画のような気がしますが。イタリアの、ダヴィンチコードとか薔薇の名前みたいな、ヒストリカルかつオカルトっぽい話を現地在住の強みを活かして取り上げた本です。本書執筆時はタヒチでなくイタリアのパドヴァという街に住んでいて、表題作は、そこに祭られてる聖人が、舌がミイラ?になって聖遺骸として崇拝の対象になっているというところから来ています。

Google マップ

日本語版ウィキペディアの「パドヴァのアントニオ」は舌の件に触れておらず、英語版のアンソニーもさらっと触れてるだけなので、イタリア語版を引用します。

Antonio di Padova - Wikipedia

 Molto significativo è infine il "pellegrinaggio delle Reliquie" del Santo, che i Frati della Basilica di Padova si impegnano a svolgere in Italia e in molti paesi del mondo, per consentire ai numerosissimi devoti e figli spirituali di sant'Antonio di poterlo incontrare con maggiore intensità anche nell'impossibilità di recarsi a Padova per venerare il suo corpo e la lingua incorrotta.

 もちろん私にイタリア語が読めるわけがなく、グーグルクロームの翻訳機能を使いました。

次が謝肉祭の話。ふと、サスペリアも舞台イタリアだったかなと思いましたが、検索したらドイツでした。ダリオ・アルジェントがイタリア系というだけか。シルベスター・スタローンも父親はイタリア系。ヴェネツィアの仮装カーニバルとミラノのそれと比較し、さらに、鎌倉の神輿が担ぎ手がいなくてよそからプロを呼んだら、鎌倉は元来「わっしょいわっしょい」なんて掛け声をしてなかったのが、プロはそうするもんだから、このぶんじゃ全国どこに行ってもそのうち神輿の掛け声は「わっしょいわっしょい」になるんじゃねーのと考察してます。ヴェネツィアの仮装は観光客のも多いし、観光客に見せるための雇われプロも混じっているとのこと。でも、21世紀の京都の街頭の和装がほとんど中国人であるよりはマシだと思います。舞妓も、そのうち本物の舞妓はんは歩かずドアtoドアのタクシー移動になって、中国人の裾捌きでない歩行者は、都をどりを叩きこまれたプロのコスプレイヤーだったりする時代になるんじゃないでしょうか。

次は魔女の話。場所は、「魔女の街」として観光客誘致に積極的と、今ではウィキペディアにもそのように書かれる町。

トリオーラ - Wikipedia

作者は四国なので、犬神(くだぎつねみたいなやつ)憑きとか邪眼の話になります。目つきが異様にけわしい人は現代にもいて、その中には、医療的に説明されるケースもあると、私も経験則でだんだん分かってきました。接客業としては以下略

次は鞭打ち苦行僧の話になります。戦前までその文化が残ってた街があったとか。

kotobank.jp

私はイランの、自分を傷つけ回るお祭りを思い出しました。

アーシューラー - Wikipedia

下は、翻訳してみたらアフガニスタンのニュースでした。2018年かな。

https://cdnuploads.aa.com.tr/uploads/Contents/2019/09/10/thumbs_b_c_b82f45c5dd200a0a1b7061b88648f4e9.jpg?v=172334

برگزاری مراسم عاشورا در افغانستان

次は、異端の話。

ワルドー派 - Wikipedia

カタリ派は世界史で習いますが、ヴァルド派は知りませんでした。ヴァルド・トトロはチベット死者の書

ja.wikipedia.org

チベット死者の書 - Wikipedia

頁102

 つまるところ、異端が発生するには、正統が必要なのだと思う。正統によって弾かれた異端は、その反作用として活力を得ることができる。しかし、異端が認可され、正統の亜流になってしまうと、異端であるがゆえのエネルギーは消滅してしまう。異端の異端としての存在理由は失われてしまうのだ。

これまで讀んだ中の作者の論考で、初めて引用したくなった箇所。ヴァルド派の谷に活気がなく、観光客もロクに引き込めず、四つ星のはずのホテルが、宿泊客は日本からの自分たちだけで、お湯が出ない状況をこう解説しています。

 https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/81iO4CMKrdL.jpg作者の取材旅行の、これはオール邦人スタッフです。あともうひとつどこかで、やはり日本人だけのがあったはずで、それ以外は、単独旅行か、イタリア人の家族連れに便乗みたいな感じな印象を受けました。自分で運転はしないようです。時間に不正確なイタリアのバスと列車。この回は邦人だけで、運転役が別にいるのですが、ナビが作者で、よく似た地名に間違えて一行を誘導してしまいます。この辺の気まずい空気の中で、どうも謝らなかったか何かだったような感じが、ドライバーはやさしいので何も言わず気も悪くせずだった、という描写に込められている気がしました。

次はトリノの話。魔女狩りもそうなんですが、けっこう作者のこの本は、元ネタの本があって、邦訳を読んでる場合もあれば、この回のように、イタリア語をガンバって読んでる場合もあります。左の本です。

https://www.amazon.com/Torino-citt%C3%A0-magica/dp/8886492081

マドカマギカ。

トリノの話の頁106に、作者が初めて児童文学に応募して賞とって、書き物の仕事を始めた秘話が書いてあります。このデビュー作は読んでみたい気がしました。その後の1989年当時は、フリーライターだったとか。

次は、ミイラから始まって、プラスティネーション技術が世に現れる前に、同様の技術を確立させていながら、門外不出の職人芸にしたために、一代で隔絶された研究者の話。彼の作品が残されているはずの博物館に行くと、劣化したので非公開になったとか、持ち出されて今はない、誰が何処へとかは知らん、とか、話をはぐらかされたりとか(イタリア人の知人女性とその11歳の娘と行くのですが、11歳の娘が、チクってくれる。あなたにはしらばっくれてるけど、あっちで職員同士でその話してるよ、とか)ばっかりでナゾの話です。この話で作者はシチリアパレルモに上陸してるのですが、特にそっち(マフィア)の感想は書いてないです。

 次は、『チーズとうじ虫』の著者が、次に書いた、夢の中で豊作のために、悪魔と毎年戦い続ける、選ばれた人たちの話の舞台を尋ねます。

ベナンダンティ―16ー17世紀における悪魔崇拝と農耕儀礼
 

 次は、中世の秋と、ローマ帝国衰亡記のあいだに横たわる、ロンバルドやらフンやらオドアケルやらテオドリックやら西ゴートやら東ゴートやらの時代と、ローマ以前のエトルリアの話です。エトルスキと書いてるので、なんのことかと思いましたが、エトルリアラテン語読みなんだとか。

kotobank.jp

作者も、イタリアというだけでは武器にならないので、塩野七生ともヤマザキマリとも違う路線を探そうとしたのかと思います。もっと現地に相棒がいればよかったのに、とも思う。ジャンクロード・ミッシェルという人がフランス人でなくイタリア人だったらもっと役に立ったのかもしれないと思うのですが、こればっかりは。でものはれものだったのだろうと。

作者と塩野七生ヤマザキマリパンツェッタ・ジローラモの対談とかないかと、名前ふたつ並べて検索しましたが、何も出ませんでした。さびしいなあ。次読みます。

以上