『台湾 好吃フォーチャア大全』(とんぼの本)読了

 積ん読シリーズ 読んだと思ってましたが、ちゃんと読めてませんでした。

台湾 好吃大全 (とんぼの本)

台湾 好吃大全 (とんぼの本)

 

 帯

何を食べても「フォーチャア(旨い)!」独自の重層的な歴史と文化が育んだ「食の世界遺産」の醍醐味をアジア文化の第一人者が食べ解く。

 このね、北京語だと「好吃」はハオチーじゃないですか、そこからしてホーロー語で攻めて来るところでまず混乱してしまい、以前はつっかえて読めませんでした。この「フォー」は唇を擦り合わせるf音でなく、h音です。聴くと分かる。

好吃の閩南語の発音

で、吃飯は「ジャップン」じゃないですか、福佬語では。ホウシャオシエンの「ナイルの娘」でも、大半國語なのですが、ゴハンですよ~、だけは「ジャップンロウ」 それが「チャア」って、どないやねんって思って。forvoで聞くと、「ジャア」に近い音に聞こえる。閩南語でも有気音無気音は清音濁音にあらずルールを使ったのか。

福建って、蝸牛考的に、「吃」でなく「食」使ってないのかなとか、余計なことを考えてしまい、それで読み進められなかったです。頁088、昔は(病人食の)米ばかり食べている人は“食米人”(チャビイラン・弱虫)と呼ばれた、というくだりを見ても、「吃」でなく「食」じゃん、みたいに。

 最近読んだ本に、潮州は広東より言語的には閩南、とあったのも、なんか混乱に拍車をかけています。そうだっけかな。スワトウとごっちゃにしたかな。

アートディレクション_藤本やすし+Cap

デザイン_加藤京子 田島嗣土 米山菜津子 舘森則之

表紙フォーマットデザイン_平野甲賀

シンボル・マーク_久里洋二

写真撮影 寥俊彦 葉英晋 平野久美子 平野星良 宮下直樹 三島正 佐藤慎吾(新潮社)

写真、資料提供 秋江紀念博物館、PANA、共同通信社毎日新聞社、葉英晋

巻末に協力店掲載店一覧、台湾の歴史(オランダ人が台湾にコーヒーを持ち込んだこととは無関係に、家康が駿府アミ族と接見したことなども入れてる)いくつかの料理のレシピ。甜不辣(テンプラ)とか久しぶりに見ました。とんぼの本と気球の本を私はよくごっちゃにするですが、豪勢でいい本です。

四部構成で、第一部がヌーベル・フォルモッサとでもいうか、原住民由来の蒸し焼き料理、野草料理、カフェ飯、現代の家常菜など。第二部が本省人の伝統食。第三部が日拠時代の忘れ形見。第四部が外省人メニュー。

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第四部を開くといきなりデター、チャンカイセックと蒋宋美齢。私は台湾の牛肉麺台湾料理と思ってましたが(蘭州牛肉麺とあまりにちがうので)本書によると外省人料理なんだそうで。本土のどこの省ならと思います。あと、ξ臭豆腐外省人料理のカテゴリーです。

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第三部の蓬莱米(台湾語でポンライビィ、台湾のジャポニカ米)のカット。いわゆる沖縄のクバ笠と同じものを被る台湾農民。これがまた香港に行くと、ゴミ回収の客家女性のかぶりものになってしまうという。で、私がこれをかぶってカンボジアに行くと、ベトナム女性のかぶりもの「ノン」をかぶったヘンタイベトナム人男性と思われて口々に攻撃されるという… (UNTAC時代になって二週間くらいでしたので、ヘンな店ではありません。ふつうに市場。プロスティテュートの人は既にベトナム人女性が出稼ぎで来てましたが…)

第三部では「黒輪」と書いてホーロー語でオーレンと読む、オデンの話が出ます。私は台湾で最後まで普通話ヘイルンが何を指すのか分からなかった。本書によると、セブニレブンの「関東炊」ののぼりのオデンは日本式で、台湾式のオーレンとは異なるそうですが、私はセブニレブンでしかオデン試してません。「かんとだき」は関西でのオデンの言い方ですし、けつねうろんと同じ理屈でオデンがオーレンになったのではないかと考えます。つまり関西人が台湾におでんを持ち込んだ。

 【後報】

眠いので途中で寝てしまいました。今日は翌日、ごがつ・とおかです。続けます。

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"黑轮"がオーレンになるだけでなく、上のように、本省人の料理はたいがい、「タイワニーズ」の発音を便宜的にカタカナで表記しています。それに対し、國語の料理名は、「マンダリン」の発音を、これもカタカナで記しています。官話のカナは、清音濁音は有気音無気音に非ずルールと、堂々濁音表記の併用。台湾風に倦舌音がズーズー弁になるところはそのままズーズーと書いてます。ハオチーがフォーチャアとなる台湾語(閩南語)は、私には分かりません。奥付にルビについて説明があり、あくまで「めやす」ですとのことでした。

(例)

頁066:"炸虾卷" Taiwanese:チーンヘイクン Japanese:台湾式エビフリャーライ

「なんでザーシャージュエン(ジュアル)と読まないんだ~」というプートンホワマンの嘆きを強調するために、あえて簡体字で書きました。原本は繁體字。

頁083:"木瓜牛奶" Taiwanese:ボッグェグーリン Japanese:パパイヤミルクシェーク

「なんでムーグワニウナイと読まないんだ~」というプートンホワマンの以下略。日本語は、「シェイク」と書く人もいれば、「セーキ」と書く人もいると思います。本書で紹介してる店は、水を一切加えず、自家製ミルクを特製ミキサーで作るので、たいそうクリーミーだそうで、「ミルクと同量の水を入れる店は避けるべし」だとか。

頁112:"烧饼油条" Mandarin:シャオンヨウティアウ Japanese:釜焼きパンの油條はさみ

焼餅を「シャオン」でなく「シャオン」と書く。そして、「油条」ってそのまま書いて、日本語で通じるのかどうか。

同 :"豆浆" Mandarin:トウヂャン Japanese:豆乳

豆漿の「豆」を「ドウ」でなく、「トウ」と書くところは清音濁音は有気音無気音に非ずルール。

頁114:"北方大饼" Mandarin:ペイファンダービン Japanese:円盤型北方パン

ン」でなく「ン」なのに「イファン」でなく「イファン」

頁022:"吴郭鱼石煮" Mandarin:ウーゴユー・シーズー Japanese:呉郭魚の石煮

ポリネシア系の焼き石料理を漢語で「石煮」と云うらしいです。「煮」をジューと書かず、「ズー」と書くところが倦舌音のズーズー弁。でもこの次のページに出てくる「油炸昭和草」「炒山蘇花」は「ヨウャーャオフーツァオ」「チャオシャンスーホワ」で、「ヨウザァオハンツァオ」「ツァオサンスーホワ」ではないかったです。呉郭魚はテラピア、昭和草は野良春菊、山蘇花はタニワタリとのこと。

 こんな感じ。閩南語むずかしい。たとえば「肉」です。本書に出ない「肉骨茶」は、日本ではもう「パクテー」の読みが定着しつつありますが、本書に登場する「肉鬆」「肉圓」「肉粽」はいずれも「バーソウ」「バーワン」「バーツァン」で、バーが伸びるんですよ。それならパクテーもパークテーにならないとおかしいのに、誰かタスケテー。

肉の閩南語の発音

肉骨茶の閩南語の発音

肉圓の閩南語の発音

「餅」は「ビィア」なのに「氷」は(國語と同じ)「ビン」とか、「粥」の「ムェイ」って、ほんとは漢字のない単語をムリクリ「粥」(ピンインで"zhou")に充ててるんじゃないかとか、米の麺の[米/反]條という小吃を「グイティアウ」と読んでるが、[米/反]という漢字が、IMEで出て来ない字だし、タイの「クイティオ」が例のタイ北部国民党残存軍村との交流でその音のまま台湾に入って「グイティアウ」になったんじゃないのかとか、読めば読むほどアタマコンクリになります。

頁048、台湾人が、嚙み応えのある食感を「QQ」と書き、キューキューと読むのは、ピンインで"Q"は「チウ」という音に決まってしまった大陸では考えられないなと思いました。QQトレイン。

頁090、台湾のジャポニカ米は、日治時代の殖産事業で、それ以前からの台湾米はインディカ米で、「在来米」と呼ばれているとか。香港がインディカ米で台湾がジャポニカ米なのを別に不思議とも思わず受け入れてましたが、そうなると、大陸の湖南省とか福建省のコメは、もともとどんな米だったのか知りたくなりました。太湖米はジャポニカ米ですが、戦後の産物のような気もしますし。

頁080、カラスミには天然ものと養殖ものがあるとあり、ボラを養殖するのかと驚きました。日本でもやってるような情報は検索しても出ませんでした。

jp.rti.org.tw

頁026、「ミネラル冷泉」ということばが出ますが、それは「鉱泉」ではないかと思いました。永い在台生活でライターとしての語彙に変化が生じたのか。簡体字で書くと"苏澳"にそういうところがあるそうです。

頁012、福佬語で、本省人を「ハンツ」蕃薯(からいも、サツマイモ)、外省人を「オーワ」芋頭(さといも)と呼ぶそうで、父親が外省人で母親が本省人の場合、その子は「オーワ・ハンツ」と呼ばれるとか。この「芋」を「オー」と呼ぶのにも慣れないです。しかし本書は何故か、上野芸大裏でお馴染みだった「オーギョーチー」の「愛玉子」に「アイイュー」と北京語でルビを振っています。ディンタイフォン"鼎泰丰"のメニューみたい。豐。

頁064の「潤餅」と書いて「ルンビィア」と呼ぶ台湾式生春巻は、上諏訪のホテル名のようだと思いました。しかし、フィリピンでも生春巻を「ルンピア」と呼ぶそうで(インドネシアも)、このへん、海域を越えた文化交流なのか、反共リーグの成果なのか。

Lumpia - Wikipedia

頁060、私はサバヒーとサバの区別がつきません。鯖の台湾名がサバヒーだと思っていた。そもそも「虱目魚」が読めません。

サバヒー - Wikipedia

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/22/Milkfish.jpg/330px-Milkfish.jpg

平野久美子 - Wikipedia

たぶんこの本は、なんも考えずアマゾンでポチりまくった時に買った本で、作者が、これも積ん読のどこかにある『トオサンの桜』(大森の町田書店の棚に長いことあったままの本を購入することで救済した)や、以前読んだ『中国茶・風雅の裏側』(文春新書)の作者だとは、奥付やウィキペディアを見るまで気づきませんでした。

中国茶・風雅の裏側』の中で一ヶ所、凍頂を始めとする台湾ブランドの生産者たちが、品質向上いちぢるしい大陸武夷山に脅威を抱き、自己ブランド防衛のため奮闘するくだりの小見出しに「支那茶に負けるな」というどきっとするような文句があり、日本時代からの生産者ならそれくらい言うかもなと思ったのですが、見出しにあるわりに、どこの誰が誰に対して言ったのか、あるいは書いたのか、本文ではまったく触れられておらず、作者はそういう手を使うのかと思った覚えがあります。本書でも同じ手法が一ヶ所使われていて、頁072、"鱼丸汤" Tanwanese:ヒーワントゥン Japanese:つみれ入りスープの小見出し「福州人の置きみやげ」がそれです。対岸の福建省からこの料理が伝えられ、香港風はただのつみれなのに台湾風では中に肉あんが入っているとあるのですが、それが何故「福州人の置きみやげ」なのか書いてない。

福州は福建省ではありますが、台湾にたくさん来た閩南地方ではなく、閩北に属しています(閩東や閩西も細かい地理区分としてはあるそうですが、閩南バーサスそれ以外の感が強いので、私としては福建省は閩南と閩北だけにしてます)閩南と閩北はけっこうことばがちがうそうで、なので福州とアモイはことばが通じません。たぶん。以前の福州人の同僚が、台湾観光客と、だからしょうがないね~みたいな感じで、北京語で話していた。福州は、"Thank you"をタンキュー、テンキューと云うような、舌を歯と歯の間に出す"th"の発音があった気がしますが、専門家でないので、かんちがいかもしれません。閩南はどうなんだろ。とまれ、福州は琉球朝貢使がまず到着する街で、琉球館があり、沖縄県が出来た時には、一時琉球国の亡命政府が置かれたりしましたが、それはそれとして、台湾との往来は圧倒的に南のアモイとかだったので、福州はことばが通じず、台湾に密入国の出稼ぎに行って三民主義を歌わされるとかそういうことがなく、それで日本に来るイメージです。そんな地名がぽろっと出て、特に理由が書いてないので、またかよ、また肩透かしだよと思いました。うまいですね。

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以上

(2020/5/10)