『一橋桐子(76)の犯罪日記』"Hitotsubashi kiriko nanajūroku no hanzai nikki" by Hika Harada 読了

 装画 嶽 まいこ 装幀 大久保伸子 その辺にあった本。

一橋桐子(76)の犯罪日記

一橋桐子(76)の犯罪日記

 

 Kindle版表紙画像は帯付き、紙版は帯なし。アルファベットはWebCat®より。

一橋桐子(76)の犯罪日記 (文芸書)

一橋桐子(76)の犯罪日記 (文芸書)

  • 作者:原田ひ香
  • 発売日: 2020/11/10
  • メディア: 単行本
 

 以前、ランチ酒を読んだ作家さんですが、あれは表紙のチカラが大きかった。ちょっとありえない職業でしたし。この作品も、書評等では賑わってましたが、自分が読むことになるとは思わなかった。本書に登場する犯罪のように、成り行きで読みました。

親の介護で独身のまま七十代になった主人公が、文学少女であったので、刑務所に入れば老後の心配がなくなるのではないかと、空想上の犯罪と実生活のあいだで揺れるというお話です。

初出「讀樂」2020/2~7月号 単行本化にあたり加筆修正

参考文献が三冊巻末に記載されてますが、その中の『熟年売春』は、イコールの犯罪が本書には登場しませんので、そのつもりでご一読願います、とは書いてません。ほかの二冊は『老人たちの裏社会』『万引き老人』という本。

いちおう婚活詐欺というか後妻業というかは出ます。が、指南役によると、セックスなんてしなくてもお金はとれる、枕は下策だそうで。

頁102、鬼まんじゅうはその名前を知りませんでした。

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頁112

 自分はもう庭付きの家に住めることなんてあり得ないのだ……。

どうも私は空想癖があるので、岐阜県の日本人住職のチベット寺院に行けば、そこは庭付きだろうとか、いろいろくだらないことを考えます。土地のあるところに行っても食えないという結論しかないのだろうか。

頁182、76歳独身賃貸暮らしの普通預金の口座残高¥23,568は、読んでてくらくらしました。みんなそうなるのかならないのか。

頁184、JKリフレも分かりませんでした。小説では説明してない。

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最近はこういう小説を読むとき、脳内で坂木司小説と比較しながら読んでしまいます。曰く、坂木司の沖縄小説のように、さわやかでありつつ、ダークサイドに落ちると即残酷さとおそろしさが待ってる展開を描いたほうがいいように思うので、そこまで突っ込みつつ止揚出来ているか、の視点で小説を読む。

それで行くと、パチ屋で知り合った闇金に顧客を紹介して謝礼をもらうくだりなど、それ以上深みにはまらないのは、闇金側がしつこく誘わないからってだけな感じで、それでインカ帝国と思いました。その次の章の結婚詐欺では、罪悪感がタスクフォースの障壁になると指摘されてますが、まさにその罪悪感が顧客紹介でも芽生えるだろうと思います。もっとしっかり、退ける気概を描いてもよかった。

紹介された顧客や、あいだにもう一人入った女性などのその後は語られません。この小説は、一度出た後、消えてしまって語られないキャラが割といるので、勿体ない気がします。ごく初期の回にレギュラー数名で固めておいて、それで進行させたほうがやりやすいのではないかと。万引きGメンも再登場しませんし、俳句の会の「孤高の君」も一回しか出ない。老人アパートの下の階に住んでいて、妄想で苦情言ってくる男性も出ない。初回に登場するこそ泥に盗まれたお金も返ってこない。

水村美苗の父親が米国でグリーンカードをゲットしながら米国式食生活が好きだったので長く生きなかったことや、一関圭の女医ものに出てきた鬼姑の死にざまなどを思い出しましたが、それ以上はネタバレになるので書きません。私ですらそういう例を思い出すのですから、もっとたくさんあるんでしょう、このトリック。

この小説の最大の弱点は、現実に、殺人三人だと無期、というルール?を知った上で三人だけ殺して無期懲役をゲットした新幹線鉈男というドアホウの若造(判決時ガッツポーズ)がいて、小説が現実に凌駕されてしまった点です。髙村薫なら断筆もの。

まあ、無期懲役の長い刑務所ライフで、いじめとかいろいろ受けると、また判決時のガッツポーズの意味も変わってくると思います。この小説の主人公は、親戚とほとんど行き来がない状態という設定ですので、それが変わるとまた変わると思います。座間の父親はいまだ逃げてるのか、あるいは、本人は鬼畜だが家族に罪なしで、そっとしておいてもらえてるのか。

その辺の弱さがあるので、テコ入れでお祭り騒ぎの劇場型犯罪に後半雪崩れ込み、ハッピーエンドで読後感はガースーガースーしいです。あとは、遺品からなんかミラクルなものが発見されていれば小森のおばちゃまもモ・ベター。

一橋桐子(76)の犯罪日記 - 徳間書店

以上です。