紀伊国屋でポイントをゲットするために買った本。韓国書籍フェアをやってましたが、『民國82年生まれ金智英』*1や『アーモンド・アイ』、『死にたくないしトッポギの全羅道訛りはタッポッキと言いたい』などの有名どころがないかわりに、亜紀書房の本もありませんでした。要するにこの本は注文取り置き本です。KINOKUNIYAポイント二倍。
装丁・装画 鈴木千佳子 あとがきと訳者あとがきあり。
CHEKCCORI BOOK HOUSE / 목소리를 드릴게요(『声をあげます』韓国語原書)
クオンという、チョン・セランの初邦訳を出版したにほんの出版社が、ブックカフェと組んで韓国書専門のネットショップを営んでいて、そこに本書の原書があって、ハングルのタイトルが分かりました。上のサイトです。
原書はアルザックという出版社から出ているのですが、販売はアラジンというサイトが行っていて、アルザック公式を見ると、試しにネット販売でもするかという話になった時に、アラディンでという声があって、そうなったそうです。
本書のチョン・セランはまたイメージの違う写真を使っていて、今回は上記です。
左は版元が販売業者に出した宣材のチョン・セラン。
アルザックのウィキペディアを見ると、主な出版物が書いてあって、コニー・ウィリスを訳してるのが目を引きます。犬はおやつに入れませんとか、失見当(ブラックアウト)とか。あと、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアも訳してる。それから、グーグル翻訳で『重力の任務』になる小説は『重力の使命』ではないかと。分かったのはそれくらい。ハングルのウィキペディアあるあるで、この出版社はその後、このチョン・セランの新刊を出してるわけですが、そのことはウィキペディアには反映されていません。これまでの出版物も、初版時の年月日を打ち込んでるのは四点だけ。あとは初版の日付空欄。韓国のウィキペディアらしく、粗いつくりです
で、アラジンの本書のページに載ってる著者のことばは、本書のあとがきそのままです。私は、最初に人から勧められて『フィフティ・ピープル』を読んだ時、著者のチョン・セランを調べて、大韓民国SF作家協会に所属してると知りましたので、いつかこの人のSF小説も読めるだろうと思ってました。読めてよかったです。
訳者あとがきによると、2019年は韓国のSF小説元年だったそうで、そんなに遅いんかいと思いました。その象徴足るのが、ハヤカワから邦訳された、『わたしたちが光の速さで進めないなら』だそうで、読んでみます。
本書巻末には初出一覧が載っていて、いつ書かれた小説かが分かるようになっています。初出掲載誌も書いてありますが、私は韓国の雑誌は分かりません。
『ミッシング・フィンガーとジャンピング・ガールの大冒険』《미싱 핑거와 점핑 걸의 대모험》(2015年11月)「もっと遠く」第4号掲載
『親指Pの修業時代』を思い出しました。
出だしがこういう作品でしたので、イタロ・カルヴィーノの『柔らかい月』や『レ・コスミコミケ』のような「エスエフ」なんだろうかとちょっと眉をひそめました。社会派作家がテーマ小説の一環としてSFの手法を使ってるが、SF(センス・オブ・ワンダー)を理解してるかというと、みたいな。
『十一分の一』《11분의 1》(2017年1月)「科学東亜」掲載
グレッグ・イーガンも選択肢のひとつになっています。というか、イーガン読んでないわけないと思っていたので、こういうふうに使えない方の選択肢で出してこられて、読んでてニヨニヨ。作者の紅一点体験に基づいてるそうですが、女子部員自分以外全員逃亡とかそうそう出来る体験でもないと思いました。特にLINE登場以降は難しいのでは。
『リセット』《리셋》(2017年11月)(2019年3月)前半の南方/北方が、「パンダフリップ」「カカオページ」掲載 東方/西方がウェブマガジン「クロスロード」掲載
これも、社会派作家がテーマ小説の一環としてSFの手法を使ってる感ガー。
夏木静子『ドーム 終末への序曲』上下巻。スピルバーグ&トム・クルーズの宇宙戦争にもインスパイアされてる気がします。でも大阪人へのライバル意識はこの小説からは見出せません。よかった。小松左京『フカーツの日』は、どうかなぁ。読んでるかなあ(映画観たかなぁ)
『地球ランド革命記』《모조 지구 혁명기》(2011年10月)「エスクァイア」別冊アンソロジー「マルチバース」掲載
原題のグーグル翻訳は「模造地球革命記」でした。遊園地の延長でエンタメアトラクション施設として作られた地球に勤務するわけなので、地球ランドでぜんぜんいいわけですが。あとがきで著者は「次にタトゥーを入れる時は」と言っていて、この小説とは全く関係なく、チョン・セランは墨が入ってるんだなと理解しました。
『小さな空色の錠剤』《리틀 베이비 블루 필》(2016年夏)「子音と母音」掲載
原題通り「リトル・ベイビー・ブルー・ピル」と訳せるはずなのですが、なぜこのような邦題をつけたのか。たぶん、日本で「ピル」というと、経口避妊薬の意味しか連想されないからなんでしょうと。お話としては、暗記パン食べすぎみたいな。
『声をあげます』《목소리를 드릴게요》(2010年11月)アンソロジー「独裁者」掲載
原題をグーグル翻訳すると「声を差し上げます」となります。そのほうが誤解を生みにくい訳ではないでしょうか。声をあげるというと、大声をはりあげるとか、抗議の声をあげるとか、そういう「あげる」も連想しますので。
頁192にマッツ・ミケルセンの名前が出て、私はこの役者さん、2020年のアナザーラウンド*2で知ったので、2010年当時だと何が有名だったのだろうと思いました。
デリ・スパイスという韓国のバンドが1997年にヒットさせた曲が出てきて、その歌の原題は「チャウチャウ」というそうなのですが、何が「チャウチャウ」なんだろうと思いました。
『七時間め』《7교시》(2018年11月)アンソロジー「ムーミンは菜食主義者」掲載
訳者は、この作品の前と後ろの小説を、コロナカを予見したかのような小説と評してますが、下記のくだりこそ、コロナカ幻視ではないかと思いました。
頁236
最多の死亡者を出したアジアの独裁国家がWHOに対して発生を隠していたことも状況を悪化させました。その国は貿易が打撃を受けることを憂慮したそうですが、現在、その国は消滅しています。
『メダリストのゾンビ時代』《메달리스트의 좀비 시대》(2010年10月)ウェブマガジン「鏡」掲載
ゾンビもの。かつ主人公がアーチェリー。グエムルでペ・ドゥナが演じた役を思い出してみたり、五輪のアーチェリーで中韓が壮絶なDISり合戦をしたことなど思い出したり。ゾンビものなので、いちばんとっつきやすかったです。
頁244の「屋上部屋」というのは、ペントハウスと言い換えてはいけないのだろうかと思いました。
下は、版元がつべにあげてる表題作の宣材動画。
나는 23세기 사람들이 21세기 사람들을 역겨워할까 봐 두렵다. 이 비정상적이고 기분 나쁜 풍요는 최악으로 끝날 것만 같다. 미래의 사람들이 이 시대를 경멸하지 않아도 될 방향으로 궤도를 수정할 수 있으면 좋겠다.
上の文章は、あとがきのその部分から、何ヶ所か略してます。中略と書いてあげればいいのにな、と思いました。
訳者あとがきによると、原書のキャラ年齢は韓国なので数え年で、邦訳では日本に合わせて満に変えたそうです。
以上