装画 富安健一郎 装幀:早川書房デザイン室
収録十三作品のうち、じゅっこ目。訳者あとがきによると、この作品から後ろが、『三体』以降の執筆になるんだそうで、そういう意味でも、ここと前の作品のあいだが、エポックメイキングというか、切れ目と言えるのかもと思います。英訳があるのかどうか分からないので、英題はグーグル翻訳して、それが米国式表記の月/日/年カンマありだったので英国式の日/月/年カンマなしに変えました。
《时尚先生 Esquire》2009年1月号掲載。エスクワイヤのパチモンかと思いましたが、フツーにエスクワイヤの中文版みたいです。それの未来特集で、十年後を描くというテーマで執筆依頼された作品だとか。どの時点から改題したのか分かりませんが、江蘇鳳凰文芸出版社から2014年に短編集として出版された際は、四月十日を削って、《2018》というタイトルになっています。エイプリルフールという題名がそのままネタバレなので、削ってしまったのかもしれません。
長寿化技術や人工冬眠が実用化され、しかしその恩恵は莫大な費用を払う富裕層のみが受けられる社会で、それに対するテロ組織も生まれ、さらには、リア充に対し、仮想社会でべっこの人生を生きようとするものも増え、仮想国家の承認を国連が否決したことに対し、仮想国家とその国民が実体社会に宣戦布告、電子決済と仮想通貨ばかりの金融システムへ攻撃を開始した…
てな話ですが、かんじんの長寿化技術の名称がたぶん誤訳で、邦訳で「改延」に「ジーイエン」とルビを振られているのであれっと思い、「改延」"gaiyan"ならガイイエンじゃん、原文どうなってんのと見ると《基延》で、これなら"jiyan"で「ジーイエン」になる、誤訳だべと思いました。《基延》は《基因改造延长生命技术》の略で、〈基因〉はジーンで、遺伝子ですから、邦訳では「遺伝子改造生命延長技術」となり、「基」の地が使えなくなったので、略称をどうすべえか、寝不足かなんかでぼーっとした頭で、えいやでてきとうに作ってしまったのが「改延」に「ジーイエン」ルビだと思います。
また、《强子》"qiangzi"という名前の同僚(実はテロ分子)が出て、彼のルビが「チャンヅー」です。なつかしのチャン・ツィイー(章子怡)”zhangziyi“を思い出しました。イスラエル人と結婚。
この話の仮想国家は仮想通貨やオンライン上の貯蓄等に対し、それを強奪するのではなく、消去デリートして、実体社会から富を消し去る戦争を挑むのが面白いと思いました。ポトラッチやん。なんとなくキンペーチャンの共同富裕に通ずるものがあるっぽい。また、百年の人工冬眠を選択した恋人は、百年後に自分の預金にけっこう利息がついてるだろうと信じてます。百年間に、なんのデフォルトも、銀行倒産も、インフレによる預貯蓄額の目減りも、悪い奴による不正アカウントのっとりもおこらないと、無邪気に信じてる。
頁308
「(略)大通りで大統領の悪口を言えるのが民主主義だが、指導者の言うことをだれも聞かなくなったら、その国はたちまち崩壊する」
"(略)如果一个国家可以在大街上骂总统那叫民主,但要是都不服从老板,那这个国家肯定会崩溃的。”
原文のほうがシニカルな気がする上記の文章。「指導者」の原文がラオバンて、あんたそりゃ民主主義を下に見てますやろ、みたいな。哈哈哈。呵呵呵。以上
この人のピンインカタカナ名は、「ツ」と「シ」の書きわけが出来てない人には鬼門。